空っぽの友人卓
結婚式当日、着替えやメイクを終えて控室で両親や兄と話していると、式場のスタッフさんが焦った様子でやってきました。話を聞くと、新婦側の友人卓に誰も来ていないとのこと。
招待状を出して、全員出席の返信をもらっているのに何かあったのでしょうか。ガラガラの招待席を見て呆然としていると、私のスマホに見覚えのない番号から着信がありました。
「もしもし? 私、シズカ! 久しぶり」電話の相手は幼なじみのシズカでした。共通の友人から番号を聞き、電話をかけてきたと言います。シズカは美人ですが性格は最悪。いつも私のことを「ブス」と見下していました。
勉強や運動で私に勝てないのが気に食わなかったシズカは、何かにつけて私をライバル視していました。できるだけ相手にしないようにし、高校進学を機に疎遠になっていたのです。
もちろん結婚式には招待していません。今日、このタイミングでなんの用なのでしょう。
1本の電話で不幸のどん底に…
「今日は結婚式でしょ? って言っても、招待客が来なくてへこんでるか! みんなこっちにいるからね」私の嫌な予感は確信に変わりました。
「私も今日が結婚式なの。偶然ね。だから、あんたの浮気が原因で結婚式が中止になったってみんなに言いまわって、特別に2人きりの式を演出してあげたの! 感謝してね!」
予想外の展開に私は絶句……。シズカは私の結婚式から参列者を奪えて大満足だと電話口で笑います。
「ブスのウェディングドレス姿なんて誰も見たくなかったと思うけどね。ちなみに、私の夫は代々続く会社の社長なの! 夫のレベルもあたしの勝ちね!」そう言うと、電話は切れてしまいました。
電話の内容を夫や家族に伝え、必死に涙をこらえていた私。そんな姿を見て、両親は「誰がなんと言おうと今日は2人の門出、予定どおり祝おう」と言い、私はなんとか気持ちを切り替えて、予定通り結婚式を挙げることにしました。
世間は狭い!
式場のスタッフが臨機応変に対応してくれたこともあり、規模はだいぶ縮小しましたが、結婚式も披露宴も無事に終了。しかし、私たちの式を台無しにしたシズカへの怒りはおさまりません。
そこで「シズカがどこの社長と結婚したのか調べてみるか」と兄。夫も調べる気満々です。夫と兄は、私に代わって仕返しをしてくれると言いました。
シズカの夫はなんなく見つけることができました。あれほど私に自慢げに話していた会社社長は、夫の会社の孫請けのさらに下請け会社の二代目であることが判明。
夫が「結婚したと噂で聞いた」と言ってお祝いの連絡を入れると、シズカの夫は今回の一件をまるでゴシップを話すかのように、おもしろおかしく話していたそうです。
仕事で圧力をかけるのはフェアではないと考えていた夫も、これには激怒。招待客を奪ってやったと笑った結婚式は自分の式だったと伝え、そんな非常識なことをする人間が率いる会社とは取引を見直すと、告げたのでした。
意地悪な友人の迎えた末路
それからしばらくして、私は披露宴を行った会場をもう一度借り、友人たちを招待してパーティーを開きました。私たちの結婚式が中止になったのは、シズカの企みだと知った友人たちは、平謝り。そのお詫びにと、盛大に祝福してくれたのです。
私が幸せを噛み締めていると、スタッフの制止を振り切ってシズカと夫が乗り込んできました。私たちの姿を見るなり、土下座をする2人。どうか会社を助けてほしいと懇願します。
しかし夫は「謝罪は受け付けない」と一蹴。「顔以外の何かで、1度でいいから勝ちたかったの……。ごめんなさい」シズカも泣きながら謝りますが、私ももちろん許す気はありません。
ほどなくして、シズカの夫の会社は倒産。借金生活を2人で乗り越えることはできなかったようで、結局離婚したと聞きました。一方の私は、妊娠がわかり、家族が増えるのを楽しみに待つ日々。苦労をしてきた夫と、家族のしあわせな時間をたくさん共有していきたいです。
何カ月もかけて準備をしてきた結婚式。それが台無しにされるなんて、考えただけでも胸が痛みます。自分で思っている以上に、世間は狭いもの。どこで誰とつながっているかわからないからこそ、誰に対しても常に誠実でいたいですね。