「いくら姉だからって、妹さんのやさしさに付け上がらないでくれませんか?」「こっちにだって限界ってものがあるんですからね!」と怒りをあらわにしている義弟。
「だいたい、小さい子どもを新婚夫婦に預けること自体がおかしいんですよ!」と言った義弟。しかし、私は独身で、妊娠も出産もしたことはないのです……。
身に覚えがありません
「1カ月も妹に子どもを預けるなんて非常識です!」
「育てる気もないのになんで子どもを産んだんですか!」
「私、子ども産んでないけど……」
「え?」
私の返事に戸惑う義弟。そのタイミングで、私は「子どもを産んでいない私が妹夫婦に子どもを預けられるわけないじゃない」「本当にさっきから何を言っているのかわからないのよ……」と言いました。
すると、多少落ち着いたらしい義弟は、事の次第を語り始めました。
義弟の話によると、私は酒の勢いで顔も知らない男の子どもを妊娠したことになっていました。そして、両親にも頼れず、産んだ子どもを妹夫婦に1カ月もの間、押しつけていたことになっていたのです。
そのとんでもない話を聞かされて、思わず私は「はぁ?」と言ってしまいました。それもそのはず、私はコップ1杯のお酒を飲みきれないほどお酒に弱いのです。そのことを伝えると、「で、でも妻がそう言っていて……昔からお姉ちゃんには逆らえなくて断れなかったって……」「妻はいつもパシられてきた姉の子どもだと思うとかわいがれないって言って、その子の世話は俺に丸投げで……」と義弟。
しかし、実際はその逆。私と妹は一回りも歳の差がある姉妹で、妹は昔から私のことを「ババア」と呼び、反抗しっぱなしだったのです。
2人目がどうしてもほしかった両親は、妹を溺愛。そのせいもあって、妹は自分が常に一番じゃないと気に入らないわがままな子に育ってしまっていました。私は家族に嫌気が差して、早々に家を出たのですが、妹の結婚を機に再度交流するようになりました。
しかし、妹の性格は結婚後も変わらなかったようです……。
その子はいったい誰の子?
義弟から話を聞いた私は、直接妹に連絡することに。
「何の用?」とイライラを隠しもせず電話に出た妹に、私は義弟から聞いたことを話しました。「あいつ、お姉ちゃんにチクるなんて……!」という妹は、義弟に嘘をついたことを悪いとも思っていないようでした。
本当は誰の子どもなのかと聞いても、「別に誰の子だろうがお姉ちゃんには関係ないでしょ!」「ババアのくせに出しゃばんな!」と言い出す始末。
しかし、私の名前まで使っておいて無関係だなんてそうは問屋がおろしません。「あなたのことを溺愛している両親にすべて打ち明けてもいいのよ?」「見ず知らずの子どもを育てているなんて知ったら、どう思うかしらね?」と言うと、しぶしぶ妹は子どもの正体について話し始めました。
「あの子どもは、私の大学時代の友だちの子どもよ……」
その友だちの夫は仕事で飛び回っており、ほぼワンオペ状態で育児をしていたそう。しかし、その友だちも体調を崩してしまい、今入院しているとのことでした。実家は飛行機の距離で頼れないため、近くに住む私の妹に預けることになったとのことです。
「わざわざ嘘をつく必要ないじゃない!」と言うと、「いろいろと都合ってものがあるのよ」とお茶を濁した妹。これは何かあるな、と思い、さらにしつこく問い詰めると、「あーもう言えばいいんでしょ!私大学時代に、その友だちから30万くらい借金してたの!」「子ども預かったら借金チャラにしてくれるっていうから、預かったのよ!」と妹。
「どうせお姉ちゃんは助けてなんかくれないでしょ!もうこの話は終わり!」「あと、余計なことをうちの夫にチクったら許さないからね」と言って、妹は電話をブチッと切ってしまいました。
わがままな妹の末路
3日後――。
玄関前に人の気配を感じたので、窓から見てみたところ、2歳くらいの子どもが手に何かを持ってぽつんと立っていました。声をかけてみると、その子は握りしめた手紙を私に差し出してきました。中身をあらためると……そこには妹の字で「この子をよろしく!」と書かれていました。
すぐさま私は妹に電話。すると、妹はのほほんとした声で、「お姉ちゃんは独身で暇してるんだからちょうどいいじゃない」「私って天才でしょ?結婚も妊娠出産もできないお姉ちゃんに、子育ての経験させてあげるんだから!」と言ってきたのです。
「友だちもあと1週間くらいで退院できるらしいから、それまでの間その子の面倒をよろしくね」と言った妹。
「……俺はもう、君にはとことん呆れ果てたよ」「よく実の姉と人様の子どもに対してそんなことができるね」
私の代わりに返事をしたのは、私の隣でやり取りを聞いていた義弟。実は義弟は、妹のことを相談したいと言ってうちを訪ねてきていたのです。
妹に不信感を抱いた義弟は、妹のことをこっそり調べていたのでした。すると、結婚前に会社をリストラされていたことや、共同の貯金を投資に注ぎ込んで多額の損失を出していたことが発覚。
勝手に預かった子どもの正体と預かった経緯について私が話すと、さらに義弟は肩を落としていました。
「は!?あのクソババア、あんたに全部チクったの!?」と猫を被るのを忘れた妹に、義弟はため息をついて「チクるも何も、黙ってあげる義理もお義姉さんにはないでしょ」「そもそも姉をババア呼びするなんて……そんな汚い言葉を使う人だなんて知らなかったよ」と言いました。
続けざまに「別れるなら、早い方がいいよね」「その方が失う時間もお金も少なくて済むし」と言った義弟に、妹は言葉を失ったようでした。
翌日――。
「あんたのせいで離婚の危機よ!」とわが家に怒鳴り込んできた妹。しかし、対応してくれたのは私の婚約者。さんざん妹に「行き遅れ」と言われてきた私も、実は結婚と出産を控えていたのです。
私が出産することを知って、妹は呆然として、くちびるに血がにじむほど噛み締めながら去っていきました。夫婦間でどのような話が合ったのかはわかりませんが、その後すぐに、義弟から「やっぱり妻とは離婚します」と連絡がありました。
義弟から「よそ様の子どもを妻に任せられない」「どうか1週間だけお願いします」と頼み込まれたこともあり、私は婚約者と相談して妹の友だちの子どもを預かることに。子どもを迎えに来た妹の友だちは、わたしと性格が似ていて意気投合。今ではこれが縁となって家族ぐるみで仲良くしています。