幼馴染に彼を紹介
私の実家の玄関前で、いつになく緊張した面持ちの彼。インターフォンを押すのをためらっていると、「あれ? お前、帰ってきていたの?」と、懐かしい声がしました。現れたのは、実家の近所に住んでいる幼なじみのA男です。
「久しぶり! 元気だった? この人は私の彼氏。実は今日、両親に結婚報告をするんだ!」
「結婚!?」と驚いた様子のA男。そして私は、彼にA男を紹介しました。
A男は、彼の顔をじーっと凝視。いたたまれなくなった彼が、「ご両親をお待たせしたら悪いから……」と言って、A男には帰ってもらいました。
両親に会わせる前に幼なじみに婚約者を紹介してしまいましたが、仕切り直しをして、家へと入りました。
顔合わせは成功したものの…
「は、はじめまして! よろしくお願いします!」
真面目そうな彼を見て、両親も気に入ってくれた様子。彼とは結婚予定だと伝えると、父も母も大賛成してくれました。
しかし、いつものように彼に仕事が入ってしまい、急きょ会社へと行かなければならない事態に。一方の私は、せっかく実家に来たので1泊していくことにしました。
ところが、両親と会話をしていると再びA男がやってきます。
「あのさ、お前に話があって……」
久々とはいえ、子どものころからの付き合い。妙によそよそしい態度に私はしびれを切らし、「どうしたの?」と質問。すると、A男はこう言ったのです。
「俺、お前とあの男との結婚には反対だよ!」
何を言い出すかと思ったら、まさか反対してくるなんて。
「私があんたより先に結婚するからって悔しいんでしょ。それとも、私のことがずっと好きでした的な? ありえないよねぇ~」
私はA男をからかいますが、彼は真剣な顔つきです。
「違う! あいつのことをもっと知ってから結婚を考えたほうがいいって言いたかったんだよ!」
たしかに、彼とは知り合ってからわずか半年。とはいえ、人柄をよく理解して結婚を決意したつもりです。私は「心配してくれてありがとう」とだけA男に言いました。
やたらと入籍を急ぐ彼
それから数日後。彼がいきなり、「俺たち、結婚式は挙げないでいいよね? そうしたら、明日にだって入籍できるよ!」と言い出しました。
「あ、明日? まだそちらのご両親に挨拶もしていないのに?」と尋ねると、「うちは大賛成だから大丈夫。両親は海外出張が多いからタイミングが合わなくって。あと、新居も見つけておいたから、籍を入れたら引越ししよう」とウキウキ。
「え? 新居を勝手に決めちゃったの? 少しくらい相談してくれてもよかったのに……」
幼なじみの言葉があったからか、彼の言動があやしく見えてきた私は、「本当にこのまま結婚していいのかなぁ……」と迷い始めました。そのため、「もう一度両親が会いたいって言っているの。手続きとかはその後にしようよ!」と、とっさに時間稼ぎ。
その夜、入籍を急ぐ彼のことを電話で両親に伝えると、「そう、やっぱり……」との返事が。訳がわからないでいる私に両親は、衝撃の事実を明かしたのです。
彼の信じられない計画とは
次の日、私は両親と一緒にとある古ぼけたアパートへ。扉をたたくと、ふくよかな体型の中年女性が出てきました。そして奥からは、なんと彼も登場。
「お、お前……何でここが!」
驚く彼をしり目に、彼の母親は私をジロッと見て言います。
「あんたが例の婚約者? 入籍後はここで同居して、家事全般をしてくれるんでしょ? もちろん仕事も続けてもらうよ、生活費を全部払ってもらわないとね」
どうやら、「金づるゲット作戦」を隠す気もない様子。彼はといえば、母親の後ろでビクビクしているだけです。
私の両親は冷静に言いました。
「エリート社員だなんて真っ赤なウソ。母子で借金もあって、娘に返済を押し付けるつもりでいたんでしょ。父親は金遣いの荒い母親に嫌気がさして離婚したとか。すべてを聞いた証人がいるんです!」
ここで彼がハッとした様子で声を上げました。
「あ、あの幼なじみの男……定食屋の店員だ!」
その通り。A男は、働いている定食屋で偶然彼と母親の計画を聞き、あまりの内容に2人の顔をバッチリ記憶。その男が私の婚約者として現れたので、慌てて阻止しようとしたのです。A男が意味もなく結婚を邪魔するはずがないと思った両親は、彼のことを調査し、ここに来るに至ったというわけです。
職歴詐称に加えて借金を隠していたことは、立派な婚約破棄の理由になります。泣きわめく彼に「結婚詐欺未遂で訴えてもいい」と宣言すると、スゴスゴと引き下がりました。
こうして私は、きれいサッパリ彼と縁を切ることに。しばらくしてから、幼なじみに謝りに行きました。「あのとき心配してくれたのに、からかってごめんね。持つべきものはやさしい幼なじみだね!」と言うと、A男は「心配、だけじゃなかったけどね」と微妙な表情。何やらまだ私に言いたいことがあるようですが……それはまた別のお話です!
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