高圧的な新部長
つい先日、私の腕を買ってくれていた三代目社長が長期入院してしまい、営業畑出身の新部長に会社の経営が任されることに。もともとは控えめな男だったはずが、力を手にして人柄が変わってしまったようなのです。
今日も、暑さの中で働いた後に休憩中の従業員たちに対して、「休まず働け! 職人なんて、製品を作らなきゃ金になんねぇだろ!」と横暴な態度。とにかく金儲けを一番に考えてばかりで、私たちを酷使しようとしています。
見かねて一番年上の私が苦情を言うと、「職人ったって、大した学歴もねぇやつらの集団だろ? 雇うほうが無駄!」とまで。「代々の社長だって、職人を大切にしようと常日ごろ言ってくれている!」と反論しても聞く耳を持ちません。
「社長は甘いんだよ。この業界、それじゃ足元を見られる。たかが職人が社長代理の部長に偉そうな口を利くな!」と連日偉ぶっているのです。
そこまで言うなら…
こうして、毎日のように口論していた私たちですが……。ついにこの新部長、聞き捨てならない暴言を吐いたのです。
「そもそも、職人のやつらがデカい面しているのは、あんたのせいだ。職人歴50年だか何だか知らないけど、時代遅れ。老害はとっとと消えろ!」
これには私の我慢も限界です。「本当に消えていいのか?」と言い返すと、「当たり前。さっさと消えてもらったほうがせいせいする」と豪語するので、「そこまで言うなら、私は消えるとするか」と荷物をまとめてきびすを返しました。
周囲の若手職人たちからは、驚がくの悲鳴が聞こえてきましたが、この日は言われた通り退社してやりました。
帰宅すると、ちょうど息子が遊びに来ていたので理由を説明。事のてん末に激怒した息子は、とある秘策を考えだしたのです。
「どうなるのか見物だ」
こう見えて実は!
横暴新部長が血相を変えてわが家にやって来たのは、それから数時間後のこと。「悪かった、俺が間違っていた! 戻って来てください!」と玄関口で叫んでいます。つい数時間前に私を老害扱いしたくせに、なぜか大焦りの様子。
実は私は、これまでそこそこの実績と名声がある職人。息子がこの数時間で、私のこれまでの表彰歴やら作品例、個展の写真記事、手掛けた鉄器の貴重さや値段などを資料にまとめてくれ、あの新部長に送り付けたのです。
家の奥から出てきた息子は、手にタブレットを持っていました。そしてなんと入院中の社長と、テレビ電話でつながっていたのです。
「どういうことだ。あろうことか唯一無二の技術を有するわが社の職人たちを見下し、休憩もさせないだと? それだけじゃない、社長代理の権限を悪用して経費を使い込んだこともわかった! どの面下げて出社するつもりだ?」
こうして、横領行為まで発覚した新部長は会社を自ら去りました。一方、社長に平謝りされた私は、今まで通り職人として伝統的な鉄器づくりに精を出し、若手の育成のために日々働いています。
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匠の技を持つ先人に敬意を示さず、ひどい言葉で追い出そうとするなんて言語道断ですね。やはり社長は老職人の価値をわかっていました。これからも人間国宝として元気で活躍し、素晴らしい鉄器を作り続けてほしいですね。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
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