ママ友の余計なお世話
ある日、仕事の合間にエプロン姿で娘のお迎えに行くと、アサミは「私がSNSに投稿したら、もっとお店が繁盛するから!」と言って、私にカメラを向けました。アサミは人の許可なく写真を撮ってSNSに載せるので、幼稚園ママの間では問題視されています。
「あなたの家のラーメン屋さん、外観は古臭いしメニューも地味だし……今の時代もっと映えるラーメンを作らないと商売が続かないんじゃない?」と、余計なお世話が止まりません。
勝手に言わせておこうと思って放っておいたけれど、なぜかアサミが週に何度もうちのラーメン店に来るように……。あれだけ古臭いとバカにしていたのに、何かたくらんでいるとしか思えません。
ママ友がライバル店をオープン!
ある日、アサミが店に来たかと思うと「隣におしゃれなラーメン屋をオープンすることにしたの!」と宣言しました。SNSでバズらせて人気店にするのだと意気込んでいます。
「私が本気を出したら、こんなボロいラーメン屋はすぐ潰れるだろうけど恨まないでね!」と吐き捨てて、出て行ったアサミ。心配していないと言うと嘘になりますが、私はあまり気にせず、しばらく様子を見ることにしました。
後日、幼稚園にお迎えに行くと、ママ友の間でアサミのラーメン店が話題です。どうやらアサミにしつこく誘われて渋々お店に行ったよう。でも、みんな口をそろえて「リピートはしない」と言っていました。
オープン当初は「映えるラーメン」が話題になって足を運ぶ人も多かったけれど、日に日に客足が途絶えて今はガラ空きのようです。
父が伸ばした救いの手
アサミのお店がオープンして半年ほどたったある日、昼の忙しい時間にアサミがズカズカとうちのお店に入ってきました。
食事をしているお客様もいるというのに「どうしてよ! この店は相変わらず繁盛しているのに、なんでうちの店にはさっぱり客が来ないのよ!」と大騒ぎ!
それを聞いた常連客は「あれは見た目がいいだけのラーメンだからだろ! 自己満ばかりで客のことを考えていない」とピシャリ。
「あなたみたいな人に、うちのラーメンの良さがわかるわけないじゃない! うちのコンセプトは『映えるラーメン』なのよ!」と言い返すアサミを見て、ラーメンを作っていた父が手をとめ、口を開きました。
「ラーメンは見た目じゃないよ。うちは長年、お客さんの喜ぶ顔のためにラーメンを作り続けてきたんだ。昨日今日で繁盛店になったわけじゃない。積み上げた努力とお客さんからの信頼があって、今があるんだよ」
肩を落とすアサミに父が続けます。「あんた、うちの店でラーメンを食べていたとき、本当にいい顔していたな。本当はラーメンが大好きなんじゃないのか? もしあんたがいいなら、うちで修行しないか? 本当においしいラーメンの作り方をわかってもらいたいからな!」
父の作るラーメンは決しておしゃれではありません。父の申し出を断ると思っていましたが、まさかのアサミは大喜び! 自分のお店を閉め、ラーメン修行に打ち込み始めました。
意地悪なママ友が本当に手に入れたかったのは?
それ以来アサミの態度は一変!ラーメンが本当に好きだったようで、どの仕事も楽しそうにテキパキとこなしてくれました。
今では新メニューの開発も! 父の経験とアサミの個性的なアイデアで、両親の店は更なる人気店になりました。アサミはSNSも得意なので、お店の宣伝にも力を入れています。来年にはアサミにのれん分けをするのだとか……。
私とアサミも、今では仲良しになりました。以前はラーメン店の娘であることに嫉妬し、私に対して嫌な態度をとったのだと言います。しかし今では父にとってアサミも娘のような存在です。
好きなことをしているアサミは本当に楽しそう! 次こそ、人気ラーメン店になるのではないでしょうか。私も応援するつもりです。
意地悪な言動の裏に、ラーメン店への憧れが隠されていたアサミ。素直になるのは簡単ではないかもしれません。しかし変なプライドを捨てて学びの姿勢を見せたことで、ラクになったのではないでしょうか。
素直になることの大切さを改めて感じさせられました。
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。