妊娠を望んでいるにもかかわらず、一定期間以上妊娠しないことを「不妊」といいます。通常、子どもを考えても妊娠しない期間が1年以上経っていると不妊症と診断されます。ここでは、不妊の要因、不妊治療の方法についてお伝えします。
不妊の検査と要因
不妊は女性側の治療のイメージがありますが、男性、女性どちらかに不妊の要因がある場合と、どちらにも要因がある場合があります。そのため、男性、女性ともに検査をおこない、不妊の原因を明らかにします。
不妊の原因を探るために、女性は卵管造影検査、血液検査、超音波検査など、さまざまな検査をおこないます。また必要に応じて子宮頸がんやクラミジア、甲状腺機能の検査をおこなうことがあります。
男性の場合は、マスターベーションで採取した精液中に含まれる精子を調べます。精子の総数だけではなく、運動している精子の数も重要です。精液中の精子が極端に少ない、あるいはまったく存在しない場合には、精索静脈瘤や先天性疾患などの可能性がありますので、考えられる原因にあわせて超音波検査や血液検査などをおこないます。
原因が明らかになったらその原因を改善するところから始めます。不妊の要因は1つでなく複数の場合もあり、主な要因は下記になります。
■女性
・卵巣機能不全による月経障害や排卵障害
・卵管が狭くなっていたり、くっついていること
・子宮筋腫や子宮の奇形、子宮内膜症、内分泌ホルモンの異常、など
■男性
・精子の数が少ない「乏精子症」
・精液中に精子がない「無精子症」
・精子の運動能力が低い「精子無力症」
・精子の通り道である精路が閉鎖している
・勃起不全や射精障害などで正常な性交ができない
・内分泌ホルモンの異常、など
不妊治療の方法
不妊の原因に合わせた治療から始め、そこから1つずつステップアップしていくことが基本です。
・タイミング法
超音波検査や尿検査などで予測した排卵日に合わせて性交をし、妊娠を目指すのがタイミング法です。排卵予定日の数日前に経腟超音波検査をおこない、卵巣にある卵胞のサイズを測定します。卵胞が直径20mm程度になると排卵が起こるとされているので、現在のサイズから排卵日を予測します。また、尿検査でエストロゲンを調べることで、排卵日をより高い精度で予測することもできます。卵管内の卵子の寿命はおよそ8~12時間までとされています。
・排卵誘発法
薬で卵巣を刺激して排卵を誘発させる方法です。排卵障害がなければまずタイミング法で妊娠を試みますが、妊娠が成立しなかった場合にはステップアップして排卵誘発法をおこなうことになります。排卵していない場合にはタイミング法では妊娠成立が期待できないため、排卵誘発法が選択されます。(※人工授精や体外受精の際に排卵誘発法を行う場合もあります)排卵誘発剤には、内服と注射の2種類があります。
・人工授精
子宮内に精子を注入して受精する場に到達する精子の数を多くすることで妊娠の確率を上げる方法です。精液に含まれる運動している精子を排卵日2日前~排卵日のいずれかのタイミングで子宮の中に注入します。排卵日を予測しておこないますが、妊娠率を上げるために排卵誘発法と併用する場合があります。
・体外受精
タイミング法や人工授精で妊娠を得られない場合におこないます。排卵誘発法で卵巣を刺激してから卵巣内の卵胞から卵子を採取します。そして、卵子と精子を体外で受精させて、順調に発育した良好な胚(はい)を子宮に移植します。
・顕微授精
体外受精をおこなっても受精しなかった場合や、精子の濃度や運動率が低いため受精できないと判断された場合には、顕微授精をおこないます。顕微鏡で観察して、細いガラス針で精子を吸引し、それを卵子に刺して注入します。体外受精と同様に、受精卵を培養したあとに胚移植をおこないます。
※参考:『病気がみえる Vol.9 婦人科・乳腺外科』(メディックメディア)、一般社団法人日本生殖医学会「一般のみなさまへ」〈 http://www.jsrm.or.jp/public/ 〉
監修者:おおたレディースクリニック院長 おおたレディースクリニック院長
順天堂大学卒後、派遣病院勤務を経て、平成22年より順天堂静岡病院周産期センター准教授就任。退職後、平成24年8月より祖父の代から続いている「おおたレディースクリニック」院長に就任し現在に至る。
おおたレディースクリニック http://ohta-s.com/index.html
※参考:ベビーカレンダー「不妊治療とは?不妊治療検査、治療の流れや内容、費用について」〈 https://baby-calendar.jp/knowledge/prepregnancy/989 〉
体験談
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5年前、結婚して3年ほどタイミングで頑張るもなかなか恵まれず、産婦人科を受診。検査の結果、夫の精子の運動率、数にやや問題があることが発覚。なのですぐに人工授精に踏み切ると、1回目でみごと妊娠にいたりました。治療自体より自分たちで頑張っていた何年間のほうが大変でした。言い合いになったり。やはり専門の機関で診てもらうのがいちばんいいなと感じます。現在息子は4歳。毎日元気に幼稚園に通っています。苦しんだ何年間かがあったから命の大切さ、子供を授かることの奇跡をありがたく思っています。
(はっちんさん)
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結婚する前から生理不順などあり夫婦で検査したところ異常はなし。でもなかなか妊娠しなかったためタイミング法を3年おこないました。当時まだ不妊治療専門病院が少なかったので、会社帰りに2時間かけて毎日通院していました(注射のため)。帰省しても会社でも妊娠しないことについて言われ、病院でもいろいろあり、軽い鬱のような症状が出て結局何もかもを途中で放り投げてしまいました。それから10年後に、近所に高額ですが評判のいい専門病院があることを知り、通院することに。高齢なこともあり顕微授精を勧められ、採卵4回、5回目の移植で39歳で初妊娠、40歳で出産しました。治療期間は1年半、一回の治療で数十万のお金が本当に羽が生えたみたいにとんでいき…正直怖かったです。(はなるんさん)
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結婚して3年目から基礎体温をつけ出すも、なかなか子宝に恵まれず、産婦人科を受診しました。夫婦共に特に問題はないとのことで、タイミング法の指導のもと、すぐに妊娠できたのには驚きました。自分でココ!と決めてた日はどうも違っていたみたいでです。悩まれている方は専門家に話を聞くのも一手かと思います。(ゆうこさん)
- 不妊治療のなかでも、とくに印象深かったのが卵管造影検査です。私の通院していた病院では、予約者数人が順番に検査を進めて行くという方法でした。そのため、私が検査を行った日には同時に5人の方がいました。まずはバルーンを腟内に挿入、これは違和感があるものの、まったく痛くはありません。そして、レントゲン室へ歩いて移動します。順番が来ると室内で検査です。私の場合は造影剤が注入されるに従い、感じたことのないくらい体の内部が痛くて、熱くて、呼吸すらできないほどでした。ところが、一緒に検査した人の反応は聞いてみるとさまざまでした。私が平気だったバルーン挿入でぐったりとしてしまった方もいれば、検査後も平然としている方もいました。痛みは人それぞれのようです。(半田あきらさん)
いかがでしたでしょうか。不妊治療を受けるかどうか迷っているご夫婦の参考にしていただければと思います。また、もし医療機関に相談される際は、不妊治療は女性、男性ともに検査や治療が必要になるものなので、ご夫婦で不妊治療の知識を深めておくといいですね。