義理の娘との微妙な距離感
娘は母親譲りの音楽センスを持っていて、現在は音大の付属高校でピアノを学んでいます。そんな娘の卒業が間近に迫っていたある日のこと。娘が首席に選ばれたと担任の先生から聞きました。
卒業制作の楽曲が素晴らしい出来だったそうで、卒業式には答辞のほかにその楽曲の演奏披露もあるとのこと。私と夫は卒業式をとても楽しみにしていました。
卒業式当日、娘は緊張からとてもナーバスになっていた様子……。些細なことで私と口論になってしまいます。私は娘の緊張をほぐそうと声をかけたつもりでしたが、それが裏目に出てしまったようです。
娘は私をにらみつけ「ニセモノの母親は来るな!」 と言いました。私には演奏を聞かれたくないそうです。私が悲しい顔をしていると、娘は気まずそうな顔を一瞬見せたものの「いってきます」 と、そそくさ出ていってしまいました。
娘は「来るな」と言ったけれど…
そこまでいうなら卒業式に行くのはやめようと思っていた私。夫だけを駅まで送ろうと思っていたそのとき、電話がかかってきました。
電話の相手は娘の担任の先生。娘の様子がおかしかったので、心配して電話をかけてきてくれたようです。
娘にとっての晴れ舞台、私と喧嘩をしたせいで失敗をさせてしまうわけにはいきません。私は先生にフォローをお願いするために、今朝の一部始終を話しました。
電話の向こうの先生はなぜか戸惑った様子……。私の話をひと通り聞いた後、娘の話をしてくれました。
先生の話を聞いて、なぜ娘の様子が変だったのか、ようやく理解できました。留守番するつもりでいましたが、予定変更です。夫婦2人で卒業式に出ることに決めました。
大号泣の卒業式
娘が制作した楽曲は、産みの親である亡き母を思って作ったものなのだそう。母への変わらぬ愛をメロディに乗せた、とても素晴らしい曲であると先生から聞いています。
娘は、その亡き母に捧げる曲を育ての母である私に聴かせて良いものか、ずっと悩んでいたようです。娘の演奏には迷いがあると先生は言っていました。
もちろん私は気にしません。生みの母あっての娘。こんな素敵な娘を残してくれて感謝しかないのです。私の思いを先生を通じて娘に伝えてもらうことにしました。
娘とした約束
卒業式では、保護者席に座る私の姿を見つけた娘はとても驚いていましたが、演奏は最高の仕上がり! 保護者席で一番泣いていたのは私だったに違いありません。
卒業式を終え、教室から出てきた娘は、気まずそうに笑っていました。もちろん私は怒ってなどいません。娘は照れくさそうに「次はお母さんの曲を作るね!」と約束してくれました。
娘はこれからも才能を伸ばしていくことでしょう。母親として、その日を楽しみに見守るつもりでいます。
「家族とは何か」を改めて考えさせられるお話でしたね。血のつながりがなくても、相手を大切に思う気持ちがあれば、親子として心を通わせることはできるのだと感じさせられました。
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。