この催しは、プレママファミリーの健康をサポートするため、妊娠中の健康管理や免疫の変化、注意すべき感染症、さらに生まれてくる赤ちゃんの感染症にも理解を深めてもらうことが目的。国連が制定する「世界こどもの日」(11月20日)に先立って開かれました。
産婦人科専門医とママインフルエンサーによるパネルディスカッションでは、パネリストとして、慶応義塾大学医学部産婦人科学教室教授・田中 守先生、丸の内の森レディースクリニック理事長で2児の母・宋 美玄先生、SNS総フォロワー数200万人以上のインフルエンサーで最近妊娠を発表した“ゆうこす”こと菅本裕子さんが登壇。元テレビ朝日アナウンサーで2児の母でもある竹内由恵さんの司会進行で、ディスカッションはスタートしました。
Part 1 妊婦さんの体調と免疫の関係
現在、妊娠後期の菅本さん。体調の変化を聞かれると、「季節の関係もあるとは思いますが、やっぱり妊娠前に比べると、体調を崩しやすく、疲れやすくなりました。お買い物へ出ただけで“なんでこんなに疲れてるの?”みたいな(笑)。これまで通りにいかないことも多くありますね」とのこと。
妊娠中に起こる体調の変化について田中先生は、「お母さんとお父さんのDNAを持つ赤ちゃん。本来、母体と異なる遺伝子は異物とみなされますが、赤ちゃんの場合『免疫寛容』という素晴らしい仕組みがあって、お父さん由来の遺伝子は受け入れてくれるのです」。ただ、妊娠前より免疫反応が抑制されてしまうため、「体調面でなく、いろんな病気が重篤化しやすい状況にも変化する可能性が考えられるのです」。
宋先生に具体的な変化を尋ねると、「体全体で言うなら、妊娠初期はつわり。個人差は結構ありますが、眠くなったり、疲れやすかったり。パッて立つとふら~ってなる脳貧血とか。免疫の面では風邪をひきやすくなったり、膀胱炎にかかりやすくなったり。それと感染症です。インフルエンザにかかっても普通の方より重症化しやすいとか。ここ数年だと、やっぱりコロナ。妊婦さんは重症化しやすいと言われていますので注意が必要です」。
Part 2 免疫の変化とうまく付き合い、感染症にも注意を
では、お母さんとおなかの赤ちゃんが健やかに過ごすには、免疫の変化とどう付き合っていけばいいのでしょう。菅本さんは「もう不安すぎて、ずっとSNSとかネットで調べています。“おなか張ってきてるけど、これって大丈夫なやつかな?”とか、“単に食べすぎ?”とか。これからの季節は風邪とかもね、かかったら怖いですし。妊婦さんは飲めない薬もあるじゃないですか。だから“予防できることを”と思って、どうしてもたくさん調べちゃう」と言います。
これに田中先生は、「調べすぎるあまり不安になって外来に来られる方、多いです。それより適切な運動、バランスのよい食事、十分な睡眠。ストレスをできるだけ軽減する。精神的な健康が一番大事だと思います。心配なことがあったらぜひ、かかりつけの先生にお話しされてください」とアドバイス。
妊婦中は飲めない薬が多いこという菅本さんの話に宋先生は、「妊婦さんの飲めるお薬が一部制限されることも確かにあるんですけれども、妊娠中でも飲めるお薬は結構あって、例えば高熱が出てしまったとき、解熱剤を飲んででも下げたほうが赤ちゃんにいいケースもあるので、相談してみられるといいと思います」とおっしゃっていました。
また、これから心配なのが風邪や感染症。かかったときのリスクについて田中先生はこう言います。
「免疫の変化ということで、やっぱりお母さんの病気が重症化しやすくなります。宋先生もお話しされましたけど、インフルエンザとかコロナとか。重症化しやすいっていうことがあります。それともうひとつ、お母さんに感染した病気が赤ちゃんにも影響してしまう、母子感染のリスクも。一番有名なのは風疹ですね。お母さんが妊娠20週以前にかかってしまうと、赤ちゃんのほうにもウイルスが連鎖して、先天性風疹症候群を引き起こす確率が極めて高くなります。ですが、妊娠中は風疹の予防接種を受けられません。だから感染しないように気をつけていただくしかない」。
続けて「トキソプラズマ症※1などの感染にも気をつけていただきたい。これらは経口感染、食べ物や飲み物など口を通じて移る、小さいお子さんが非常にかかりやすい病気です。こちらも残念ながら妊娠中に打てるワクチンはありませんので、小さいお子さんとふれたあとは必ず手を洗ってほしいですね」。
宋先生も、「今すごく流行っているのがマイコプラズマ肺炎※2。中学生ぐらいまでのお子さんに多い病気です。先ほど田中先生がおっしゃった母子感染、風疹、トキソプラズマ、それに梅毒とか。そういった赤ちゃんに先天的な病気を起こす可能性のある感染症に関しては、初期であるほど重い障害が出たりとかするので、初期のころに気をつけたほうがいいものもありますし、呼吸器系の感染、コロナやインフルエンザとかは、おなかが大きくなるほど肺が膨らみづらくなって、結構症状も重く出たりします。ですからワクチンで予防できるものは予防していただいて。あとはコロナ対策と同様に、できる限り人混みではマスクをされたり、手洗いされたり。上にお子さんがいらっしゃる方なら食器を共用しないとかね」。
Part 3 妊婦さんの健康が⾚ちゃんに与える影響
妊婦さんの健康が赤ちゃんに与える影響について、さらに深掘りしていきます。「いろいろ変化するなか、やっぱり十分に体調を整えることが一丁目一番地」と言う田中先生。その好例として、田中先生は「母児免疫」を挙げました。
「母子免疫は、お母さんの体の中にできた抗体が赤ちゃんのほうにも移行して赤ちゃんを守る働きをします。母子感染とは逆で、お母さんと赤ちゃんはいい関係にあります」。
「免疫とは、ウイルスや細菌などの異物を認識すると、それに対する抗体がお母さんの体の中に作られて、外敵をやっつけることをいいます。血液中には抗体とも呼ばれるたんぱく質「免疫グロブリン」が5種類あり、一番多く存在するIgG抗体は胎盤を通過するのが特徴で、母子免疫はこのIgG抗体がメインで働きます。また、IgA抗体は感染防御に重要な役割を持ち、初乳の中に含まれています。赤ちゃんに初乳をあげたほうがいいのは、IgA抗体が赤ちゃんを守るからと言われます」。
「このように、赤ちゃんはお母さんに守られ、ウイルスとかの抗原に直接当たることはありませんが、逆に赤ちゃんは抗体を作れていないわけで。外界に出ていろんなウイルスや細菌と接するようになると、赤ちゃん自身が抗体を作るようになっていきますが、出生直後は一番そういうものに弱い時期。すなわち、お母さん由来の抗体で赤ちゃんを守らなければいけないのです。ですから、お母さんがワクチンを打ったりしていろんな抗体を持っていると、これが血液を通して赤ちゃんの体に入っていき、母子免疫という形で赤ちゃんを守ってくれるのです。産まれた直後から半年ぐらいは、お母さんからきた免疫が非常に重要ですね」。
宋先生からも、「一般的に産後6カ月ぐらいまでの赤ちゃんは、病気にかかりにくいとされていますが、完璧ではありません。まだまだ小さくて未熟なので、外界に出ればいろいろな感染症に晒されます。6カ月までの赤ちゃんですと、高熱を出すような感染症にかかったら結構重症化しやすい。もちろん田中先生がお話くださったように、お母さんから移行してくるIgG抗体とか、初乳に含まれるIgA抗体とか、かかりにくい仕組みではあるけれども、かかったらやっぱり弱いです」。
両先生の話を聞いていた菅本さん、「妊活を始めたぐらいで母子免疫っていう言葉は知りましたけど、詳しく調べたことはなかったので、知れてよかったと思いました。ずっと楽しみに待っていて産まれた子どもが、半年の間で病気かかるかも……、なんてやっぱり怖い。今は、母子免疫をちゃんと届けたい、私から届けられるものがあるなら全部あげたい! ぐらいの気持ちです。そんな方法あるのかな? 方法があるなら気になりますね」。
菅本さんの問いかけに、「インフルエンザとかコロナとかはワクチンあるじゃないですか。そうするとお母さんに抗体ができて、赤ちゃんに届けるっていう方法もありますけど」と答える宋先生。
さらに、「これからの時期だと、RSウイルスっていうのが、特に小さな赤ちゃんがかかると重症化しやすいので注意が必要です。これは顕性(けんせい)感染といって、症状が出ない子も含めて2歳ぐらいまでの間に、もう人間界に産まれたらほぼ全員がかかると言っても過言ではないウイルスです。基本、風邪の一種なので、唾、くしゃみ、咳という飛沫で感染したり、さわったりとか、そういうので移ったりします。家族として同じ空間を共有していると、誰かが持ってきたら、時間差でみんなかかる。というお宅が多いです」。
「いつかはね、どこかでかかるので、その感染機会をゼロにするっていうのは難しいけども。小さいうちにかかっちゃうと、しんどいと思うので」と言う宋先生に、不安気な菅本さん。「妊娠中の今からできること、母としてできることってないんでしょうか」と宋先生に尋ねます。
「症状としては、熱が出たり鼻水や咳が出たり、呼吸器が狭まってヒューヒューって息苦しくなったり。大変残念ながら、かかったあとからRSウイルスを殺すお薬っていうのはないんです。咳止めとか解熱剤とか、息が苦しかったら酸素とか。いわゆる症状に対しての対症療法しかありません。ただRSウイルスそのものの治療薬はないけれど、予防として赤ちゃんに抗体のお薬を打つことは前からあって。最近は、お話に出ていた免疫グロブリン、それのRSウイルスに特化して効くワクチンを妊婦さんに打てるようにもなりました。これも母子免疫と言えますし、母乳より前に赤ちゃんへあげられる、抗体というプレゼントですね」。
母としてできることがわかり、菅本さんもホッとした様子。「私、注射は大嫌いだけど、でも頑張ろうかなと思います! イヤだけど……」という頼もしい(?)言葉が聞けました。
ディスカッション終了後、スペシャルゲストとして一般社団法人日本マタニティフィットネス協会チーフインストラクターの窪田多恵子さんが登場。健康のためには運動も大事と、椅子に座ったままでできる簡単なエクササイズに、登壇者とセミナー参加者全員でトライしました。
お母さんにも赤ちゃんにも、大きな影響を与える可能性を秘めた感染症。完璧にブロックすることはできませんが、マスクや手洗い、うがい、ワクチンと、自衛手段があるのは心強いこと。なによりストレスを極力減らして、心身ともに健康でいることが、免疫という強い味方を得られるとわかりました。今からでもできることをしっかりやって、大切な赤ちゃんを守ってあげたいですね。
※1 トキソプラズマ症とは、トキソプラズマ原虫に感染することによって起こります。トキソプラズマ原虫は、加熱が不十分な肉や猫の糞便、土の中に含まれており、これらを口から摂取してしまうことによってトキソプラズマ症を発症します。トキソプラズマは、妊娠中に初めて感染すると先天性トキソプラズマ症を引き起こす可能性があります。
※2 マイコプラズマ肺炎とは、肺炎マイコプラズマと言う細菌に感染することによって起こります。肺炎マイコプラズマが気道で増殖し、気管支や肺に障害を及ぼすと肺炎になります。感染した人の咳の飛沫を吸い込んだり(飛沫感染)、感染者と接触したりすることにより感染すると言われています。