社宅に引っ越すにあたり、トラブル防止の観点からご近所へのごあいさつは控えるよう通達されていました。それに従った私たちでしたが、ボスはそれがお気に召さなかったようです。
引っ越した翌日、私が出勤するために外に出ると、取り巻きを連れたボスが近づいてきて、私からあいさつに来るべきだとか、菓子折りを持ってくる常識もないのかとか、グチグチと言われてしまいました。仕事を理由に何とか彼女たちから逃れた私。
毎朝、井戸端会議をしている彼女たちの前を通って出勤するのは面倒ですが、出勤前ということもあり、さすがに長時間引き止められることはありませんでした。毎朝どうにか逃げられるので、気にしすぎないようにしていたのですが……。
部長夫人だから偉いの?強烈な社宅のボス
そんな毎日にうんざりしていましたが、仕事が在宅勤務可能になり、私は出勤する日が少なくなりました。ボスたちと会う機会も減り、安心していたのですが……。
なんと、家に押しかけてくるようになったのです。居留守を使っても、ドアをどんどん叩いたり、大声で呼びかけたりされて、無視し続けることが難しい状況に。
困った私は、仲のいい兄に相談。すると兄は、私を心配して在宅勤務の日は自分の家を使えばいいと言ってくれたので、私は兄の家で仕事をするようになったのです。おかげで、ボスたちに邪魔をされることなく、仕事に集中できるようになりました。
しかし、私を見かけると追いかけ回して、何かと絡んでくるボスたち。先日は、料理の苦手そうな私のために料理教室を開くと言い、1回3万円の受講料を支払えと言われました。
料理は苦手ではないし、そんな大金を彼女たちに支払いたくないので、お断りしましたが、まったく話が通じません。すると、平社員の妻である私には、拒否する権利はないと言い、夫が左遷させられてもいいのかと脅してきたのです。
しかし、そんなことを言われても動じるような性格ではない私。「できるならどうぞ」と言い捨て、家に入りました。社宅のボスである部長夫人に忖度せず左遷される、そんな会社があるわけないです。だから、大丈夫! そう思っていたら……。
ふらっと救世主が登場!部長夫妻を成敗!
翌日、帰宅した夫が「左遷された……」と肩を落として私に報告してきました。そして、夫の上司である部長を連れて、ボスがわが家を訪ねてきたのです。
そして、部長は私に「妻に楯突くだなんて100年早い」と怒り、夫には「頭の悪い女と結婚したな」と言ってきました。夫は、「私の妻は賢いからこそ、くだらない付き合いを断っただけです」と部長に立ち向かってくれて、私はうれしくて夫にほれ直しました。
しかし、夫の言葉にカッとなった部長は、「貴様! 誰に向かって物を言っているんだ!」と怒鳴ってきました。私と夫が困っていると、ふらっと救世主が登場。「なんだ、なんだ。騒がしいな」と兄がやってきたのです♪
兄を見た瞬間、部長は青ざめて急に黙り込みます。そんな部長の横で、何も知らないボスは、イケメンの兄を見て目をハートにさせて、「今度一緒にお食事はいかが?」なんて、誘っています。さらには、権力を誇示し、自分たち夫婦の意向で私の夫を左遷させたと自慢まで……。
部長は「誤解です」と言って慌てますが、兄は冷たい目で部長を見ていました。ボスはまだのん気に、兄を食事に誘っています。そこでやっと、正体を明かした兄。
実は、兄は夫と部長の会社の専務なのです。事実を知りボスは、悲鳴を上げて「何で教えてくれなかったの!」と言いますが、夫や兄の会社での地位によって、妻の立場まで変わるなんて考えたこともないため、私としては言う必要がありませんでした。
部長は謝罪を繰り返し、私の夫の左遷を取り消すので穏便に済ませてもらいたいと兄に懇願。そして兄は「自分は、偉い部長さんのように個人的な理由で役職を取り上げたり、左遷したりはしない」と宣言。しかし、報告すべきことは上にきちんと報告すると伝えたのです。部長夫妻の悲鳴が、社宅中にこだましました……。
平和を取り戻した社宅
私は引っ越しの前から、社宅の変なうわさを聞いていました。入居してもなぜかすぐに退去してしまう人が、ここ数年で続出していると。今回のことで、誰の仕業かはっきりしたので、会社が調査をして、原因となっていたボスとボスの取り巻きたち家族を退去させました。夫の不当な左遷は取り消され、今まで通り毎日仕事に励んでいます。
社宅には平和が戻り、そのおかげで今は続々と住民が増えています。これからは、にぎやかで楽しい社宅になりそうです。
そして兄も社宅に引っ越してきました。兄はみんなに煙たがられるのではないかと心配していましたが、それがまったく逆でした。兄の明るく穏やかな人柄で、社宅内でのコミュニケーションが増えたのです。「専務も引っ越してきたんですか!」「お手伝いするので、お礼に夕飯をおごってください♪」なんて、楽しい会話が聞こえてきて、これからは楽しく生活できそうです。
◇ ◇ ◇
夫の上司の家族に気をつかってしまうというシチュエーションは、よくあると思いますが、それを強いられるというのは不思議な話です。夫の地位が高いことで自分の地位も高いということにはなりません。ただのご近所付き合いとは少し異なる、社宅生活では大変なことも多そうですが、トラブルを避けるためにも、近づきすぎず適度な距離感で良好な関係を築きたいですね。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。