母から「助けて」と連絡があって、実家に飛んで帰った私。そこには妹夫婦の姿はなく、やせ細った母が1人取り残されていました。
事情を聞くと、妹は「パパの遺産とママの年金でお金には困らなかったけど、やっぱり私たち新婚だし介護しなきゃいけないとか罰ゲームじゃない?」と言って出ていってしまったそう。母のヘルパーさんとの契約も「お金がかかるから」と言って打ち切っていたのでした……。
要介護状態の母を放っておけなかった私は、実家で同居することに。仕事をリモートに切り替えて、母の介護をしながら生活することを決めたのですが……?
どこまでもがめつい妹夫婦
5年後――。
母は病院で亡くなりました。母が入院した段階、そして主治医から「もう長くない」と言われたタイミングなどで、私は妹に「お見舞いに来てほしい」と連絡を入れましたが、妹は病室に顔を見せることはありませんでした。妹夫婦は母の葬式にも参列しませんでした。
母の葬式から2カ月が経ったころ、突然妹から「久しぶり~」と連絡が。「今さら、何の用?」と冷たく返すと、「実は私、妊娠したんだよね!」と妊娠報告されました。
「お姉ちゃんからお母さんについての連絡が来たときには、もう妊娠がわかってたの」
孫ができたことを知ったら、病床の母も喜んだだろうに……。私のなかの後悔が1つ増えてしまいました。
しかし、妹は単なる妊娠報告のために連絡をしてきたわけではなかったのです。
「お姉ちゃん、お母さんのお葬式出れなくてごめんね!でさ、」
「子どもが生まれてお金かかるし、亡くなったお母さんの遺産と実家ちょうだいよ!」
「わかったわ」
「え?ほんとに?」
私があっけなくOKをしたので、驚いている様子の妹に、「じゃあ、私は相続放棄の手続きをしておくから」「あなたが全部もらっていいわよ」「私は今月中に実家から出ていくから、引っ越してくるなら来月の頭にしてちょうだいね」と言って、私はやり取りを終えました。
遺産のあてが外れた妹の出してきた要求
翌月――。
「引っ越し終わったよー!これで実家は私のものね!」とまたも妹から連絡が来ました。「お姉ちゃん、帰ってきたくなっても勝手に帰ってこないでよ?」「ここはもう私と夫、そして生まれてくる子の家なんだから!」と言う妹に、「その家には今後一生帰るつもりはないから安心して……」とため息をつきながら返した私。
「ところで、遺産はどこ?」「私、実家と遺産、両方ちょーだいって言ったよね?もちろんお金もあるんでしょ?」と聞いてきた妹に、私は丁寧に遺産の場所を教えました。母の部屋のタンスの1番下の引き出しです。
妹は早速確認したらしく、「ね、ねぇ、千円札1枚しか入ってないんだけど!?」と驚いていました。しかし、それが母が遺した全財産なのです。
「遺産が1,000円だけなんておかしい!」「お姉ちゃんが勝手に持ち出したんでしょ!」と私を責めてきた妹。しかし、私は相続を放棄しているのです。
「お母さんが入院する前に、身辺整理を兼ねて、お金の計算も済ませておいたのよ」「あなたたちが実家で暮らしてたときに使ったお金、家を出ていくときに持ちだした分も全部記録しておいたの」「お母さんが亡くなる前に弁護士さんと相談して、贈与の意思確認もしたうえで、生前贈与として処理したのよ」
「身辺整理……?生前贈与……?」と妹。妹はそのあたりに疎いようでしたが、「でも、パパの遺産だってあったし、お金はまだあるはずでしょ!?」と言ってきました。
「残ってたお金から、あなたたちが使ったお金と同額を私も生前贈与という形でもらったのよ」「私はすでに終えてるけど、あなたたちも贈与税が発生してるはずだからちゃんと申告しなさいよ」「生前贈与分を引いて残ったお金でヘルパーさんを頼んだり、入院費に充てたりしたから、両親の遺産は1,000円しか残ってなかったわ……」
「そ、そんな……遺産をあてにしてたのに……」「出産だって芸能人御用達の有名な産院でするつもりだったのに……!」と声を震わせた妹。しかし、その性根は変わらないようで、「そうだ!家の名義を私に変更してよ!」「そうすればこの一軒家はすべて私のもの!」と言い出しました。
「わかった、名義変更までは面倒みてあげるわ」「遺産の整理に協力してくれた弁護士さんがいるから、その方に頼んで名義変更をすぐにしましょう」と言うと、妹は「当然よ!これ以上誰かに横取りされたらたまったもんじゃないわ!」と鼻を鳴らしたのでした。私はその後すぐに弁護士さんに連絡し、相続放棄をする前に名義変更の手続きを進めました。
相続した妹夫婦を待っていた思わぬ結末
3カ月後――。
「お姉ちゃん!なんてものを相続させてくれたのよ!」と妹から怒りの連絡が来ました。
「固定資産税やら庭の剪定費用、光熱費に水道代……アパートで暮らしてたときよりめっちゃお金がかかるんだけど!?」と妹。「そりゃアパートと古い一軒家はいろいろ違うでしょう……」「それに、固定資産税は安いはずよ?なんせ土地は定期借地であと3年で返さなきゃいけないんだから」と言うと、妹は「定期借地……?あと3年……?」とフリーズ。
「名義変更のときに弁護士さんがちゃんと説明してくれてるはずよ?」「もっとも、弁護士さんからあなたたちは『家をどうしようか』っていちゃいちゃし始めて、ちゃんと聞いてなさそうだったとうかがってるけど……」
「そんな……一軒家だけは手に入ると思ってたのに!」「それに、なんで定期借地なの!?こんなのおかしいでしょ!?」と悲鳴を上げた妹に、私は両親から聞いた話をすることに。
「お父さんもお母さんもあの土地で永住するつもりはなかったみたい……まぁ、そのリミットが来る前に2人とも天国に行ってしまったけど」「私たちが成人して家を出たら家を取り壊して土地を返して、自分たちは2人で暮らせるマンションに引っ越すつもりだったみたい」「お母さんが亡くなったとき、上の建物の処分とか土地の返還とかいろいろ大変だなぁって漠然と思ってたんだけど、あなたが実家も相続してくれるって言って助かったわ」
「こんなの罰ゲームじゃない!」「こんな家もういらない!お姉ちゃんにあげる!」と半泣きの妹。しかし、私は相続放棄しているから受け取れません。妹は家の名義人なので、5年前のように逃げたとしても返還義務は発生します。
「お姉ちゃんの実家でもあるんだから、せめて半分だけでもなんとかしてよ!」とさらに理不尽なことを言い出した妹。しかし、私はもう妹を助けることはできないのです。
「今、私日本にいないし、今後しばらく帰国の予定もないから無理なの」「私、イギリス人と結婚して、イギリスに引っ越してきたのよ」「お母さんが亡くなる前に結婚して、身内だけで結婚式を挙げて……お母さんにウエディングドレス姿も見せられたし、最後に親孝行ができてよかったわ」
「嘘でしょ……」「私たち、お金なくて結婚式なんか挙げられなかったのに……」と言ったきり、言葉を失ってしまった妹。
「あなたのわがままを許して、お母さんの介護だって私が引き受けたし、実家も遺産もあなたたちに渡した」「実家の名義変更だって私が面倒を見てあげたわよね」「今まであなたが望んだことを全部やってあげたんだから、ここから先は自分で責任を持って処理しなさい」と言って、私は電話を切りました。切る直前に、「どうしたらいいかわかんないよぉ……」と言う妹の声が聞こえましたが。
その後――。
日本にいる弁護士さんや実家に出入りしていた庭師さんによると、妹夫婦は実家を持て余し、安いアパートへ引っ越したそうです。放置された実家も庭も荒れに荒れているそうな……その分3年後の取り壊しが大変になるというのに。
一方、私はイギリスで夫との新婚生活を送っています。日本との文化の違いに悩むこともありますが、毎日刺激的で楽しいです!
【取材時期:2024年12月】
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。