しかし、ある日突然、義姉から連絡が来ました。なぜかうちの子育てについていろいろ聞いてくるのです――。
失礼極まりない義姉
兄の海外赴任がそろそろ終わると聞いていたのもあり、もしかして兄夫婦も子どもを考え始めたのかな、と思いながら話を聞いていると……どこか浮ついた様子で、こちらの育児環境を探るような言い回しが続きました。なんとなく、違和感を覚えずにはいられませんでした。それだけでなく、義姉はとても無神経なことまで口にしたのです。
「高卒の家庭じゃ、ちゃんとした教育も難しいんじゃない? 将来がちょっと心配ね~」「こういうの、親ガチャ失敗って言うんだったっけ?」
たしかに私たちは高卒夫婦ですが、お互いにバリバリ働いています。共働きでそれなりに収入はありますし、子どもたちの学費や習いごとのためにしっかり貯金もしています。義姉にとやかく言われる筋合いはありません。
「これ以上、無神経なことを言われたくないので、失礼します」とだけ告げて、私は電話を切りました。
兄夫婦のもとにいる赤ちゃんの正体
半年後――。
相変わらず、私たち家族は兄夫婦とはほぼ絶縁状態でした。義姉からも連絡は来ていません。
しかし、家族で穏やかに過ごしていた最中、海外赴任を終えて帰国した兄が激怒した様子で電話をかけてきたのです……。
「ふざけるな!! 生まれたばかりの子どもをうちに預けるなんて……!」「お前はいったい何を考えているんだ!」
何を言われているのか、私にはさっぱりわかりませんでした。
「ちょっと待ってよ、生まれたばかりの子どもってどういうこと? いったいなんの話をしているの?」と聞いても、兄は「いいから早くお前は自分の子どもを引き取りに来い!」の一点張り。
どうやら、私が新生児を義姉に押しつけたということになっているようです。
「俺の嫁に1ヵ月も子どもを預けるな!」
「自分の子どもなら、自分でちゃんと面倒見ろよ!」
「は? まだ生まれてないけど」
「え?」
「お、おい、まだ生まれてないってどういうことだ……」と言う兄に、私は出産予定日を告げました。私の待望の第3子は、まだおなかの中。出てきてくれるのは来月の予定なのです。
「なに言ってるんだ、お前の子どもは1カ月前に生まれたんだろ? 」「子ども3人の子育てはやっぱり難しいからって、新生児を託されたって……嫁が言ってたぞ」
子育てが大変なのは事実です。でも、どんなに大変だろうと、自分の生まれたばかりの子どもを無責任に他人に預けるようなことなんて私にはできません。ましてや子ども嫌いな人に預けることは今後もないでしょう。
「まずは奥さんに確認して! 家にいる子どもは誰の子どもで、どうして預かることになったのか、ちゃんと聞いてよ」「私たちは子育てに忙しいから、あとは夫婦2人でじっくり話し合ってね」と言って、私は大きくなったおなかをさすりながら電話を切りました。
1時間後――。
今度は義姉から電話が……。ため息をつきながら出ると、「どうして話を合わせてくれなかったのよ! いろいろと察して助けてくれたっていいじゃない!」と怒っている義姉。あの状況で察するほうが無理だと思うのですが……。
「それより、今家にいる子って誰のお子さんなんですか?」と言うと、「よその子をさらってきたりなんかしてないわよ、失礼なこと言わないで! 子どもは正真正銘、私の子どもよ! 私が1カ月前に産んだんだから!」と義姉。
「えっと……つまり、兄との子どもってことですよね? どうして兄がわかってないんですか?」と聞くと、義姉はバツが悪そうに「い……いや……それが、実は、彼氏との子ども、なんだよね……」と言いました。
もともと生理不順で妊娠になかなか気づかなかった義姉。妊娠に気づいてからも、兄には黙っていたようです。兄は海外にいたこともあって、ビデオ通話でよく会話をしていたものの、義姉は妊娠を兄に隠し通していたのです。
「そ、それで、兄に黙って産んだってことですよね……? 私の子どもってことにしてどうするんですか?」と聞くと、「そっちの方が信じてもらいやすいかなって思って……。深く考えてたわけじゃない。ほんとに、その場の思いつきだったの」「だって、あんた妊娠してるじゃない? とりあえずあんたの子どもってことにすれば、夫も疑わないかと思ったのよ」と義姉。
「このあとはどうするつもりなんですか?」と聞くと、「え? ……そこまでは、正直、考えてないけど」
あまりの無責任さに、私は一瞬言葉を失いました。
「……もう、私から兄にすべてを話します」「兄と別れる準備をしておいてください」と言うと、「ちょっと待って! どうしてそんな勝手なことするの!」と義姉が必死に止めてきました。しかし、私は電話を切り、そのまま兄に電話をかけて事実を打ち明けたのでした。
その後――。
兄夫婦は正式に離婚。慰謝料の請求もあり、元義姉は養育費を抱えながら、子どもを連れて浮気相手の元へ向かったそう。でも、近所の人の話では、相手の男性は、育児に協力的ではなかったらしく、元義姉がすべて一人で抱えていたようだと聞きました。
結局、元義姉は、子どもを連れて実家に戻ったそうです。実母が庭先でその子と散歩している姿を何度か見かけたという人もいて、あの子は、祖父母にしっか可愛がられているようでした。少しでも穏やかで、あたたかい日々を過ごせているならよかったと、私もホッとしています。
一方、兄はというと、離婚後しばらく音信不通に。心配した両親が何度か連絡を取ってようやく電話に出たそうですが、声は酒に濁り、ろくに会話にもならなかったとか。
妻に裏切られたことがよほどショックだったのか、しばらく仕事にも行かず、昼間から酒を飲んで過ごしていたと聞きました。
やがて私にも連絡が来ました。
「お前んとこはいいよな、子どもがいて、にぎやかで……俺の人生、もう終わったよ」
「ちょっとだけでも泊めてくれないか。子どもに会ったら、元気出るかもしれないし」
そんな言葉を聞いても、私の中にあるのは同情ではなく、強い拒絶の感情でした。
「私たち家族をどれだけ傷つけてきたか、忘れたの?」
「子どもたちに近づいてほしくないの」
それが、兄との最後の会話になりました。
両親によると、兄はいまも広い家にひとりで暮らしているそうです。仕事と家を往復するだけの毎日。友人もおらず、家族とも疎遠。あれだけ「ポコポコ産んで」なんて笑っていた兄の人生は、自分が描いていた“計画”とは、ずいぶん違う方向に進んでしまったようです。
私はというと――。今日も、わが家の子どもたちはにぎやかに元気いっぱい。夫と一緒に、日々の慌ただしさのなかにささやかな幸せをかみしめながら暮らしています。ふとしたときに、元義姉の子どものことを思い出すことがあります。私とは何の血のつながりもないけれど、あの子の未来が少しでも穏やかで、あたたかなものでありますように。心から、そう願っています。
【取材時期:2025年5月】
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。