ささいなことで喧嘩したある日、夫は怒って家を飛び出してしまいました。そして、いつものようにぷんすかしながら祖父母の家へ行った私。祖父母に話を聞いてもらい落ち着いた私が家に戻ると、ちょうど夫も帰ってきました。
「さっきはごめん。俺が悪かった!」
夫から先に謝ってくれて、私こそごめんねと、これまたいつものように仲直り。家の近所の居酒屋で夕飯を食べてきたという夫が、「そういえばさっき……」と何かを言いかけたのですが、「いや、やっぱなんでもない!」と話をやめました。
私は少し気になりましたが、仲直りしたばかりだったこともあり、しつこく聞いて空気を悪くしたくないと思い、深く考えず追求しませんでした。ところが、数カ月後、これが驚がくの事件を起こすことになったのです……。
夫が重婚!?友人から届いた結婚式の招待状
あの日の喧嘩から、1カ月ほど経ったある日。
突然、わが家に祖父が怒鳴り込んできました。話を聞くと、祖父が務めるホテルで近々、結婚式が予定されているそうなのですが、その結婚式の新郎が夫の名前だと言うのです。めずらしい名前なので同姓同名は考えにくい……。
新婦の名前も聞いてみると、なんと私の友人だったのです。
実は、彼女は私の結婚式を台無しにした厄介な人物。結婚式で、私の夫に一目ぼれした彼女。披露宴の最中、私に離婚を迫り、夫を譲れと大騒ぎ……。その後も何かにつけて連絡をしてきては、夫を譲れと言うので連絡先をブロックして、距離を置いていたのです。
祖父に彼女のことを説明していると、突然私のスマホが鳴りました。見知らぬ番号からでしたが出てみると、相手は渦中の人、なんと彼女でした。
彼女は、夫が私に愛想を尽かしていると言って、「今後は私が彼を幸せにするから心配しないで」と宣言。さらに、「ポストに結婚式の招待状を入れておいたから絶対に出席してね」と言うので、確認してみると本当に入っていました。
実は、あの喧嘩をした日、夫は偶然にも彼女と再会していたのです。偶然ではなかったような気もしますが……。
帰ってきた夫に状況を説明すると、夫は、あの日の喧嘩の後、家を飛び出して居酒屋で時間を潰していたら、そこに彼女が笑顔で現れたと教えてくれました。そこで彼女は、突然「喧嘩でもしたの? 私ならあなたにそんなさみしい顔をさせない」と言い寄ってきたそうです。
夫は困惑しつつも、「今は話す気分じゃない。また今度」と、断って店を出たとのこと。夫としては傷つけないために配慮して言葉を選んだつもりが、彼女にはそれが前向きな返事に聞こえたのかもしれません。
そうだとしても、結婚はさすがに話が飛躍し過ぎています。しかし、喧嘩はするもののうまくいっていた私たち。夫が嘘をついているとも、彼女になびくとも考えられません。私はこの事態に対処するため、ひとまず情報を集めることに……。
大好きな人との結婚をSNSでも報告
そして迎えた、夫と彼女の結婚式当日。
家でくつろいでいると、彼女から連絡が入りました。なぜ式に来ないのかと聞かれたので、私も質問してみました。
「一体、あなたは誰と結婚するの?」
すると、彼女は当然のように私の夫の名前を言いますが、その夫は今、私の隣にいます。そう伝えると彼女は驚いていました。驚く話ではないのですが……。
私たちが離婚したような口ぶりの彼女ですが、私たちは別れてなどいません。その事実を告げると、「え?」と、さらに驚く彼女。
そんな不思議な会話をしていると、電話口から祖父の声が聞こえてきました。時間を過ぎても誰ひとり関係者が現れず、もちろん新郎も到着しないので、これ以上待つことはできないと祖父が説明しています。どうやらそのまま式は中止になるようでした。
その後、きちんと彼女と話をしなければならないと思い、私と夫はホテルに向かいました。私たちがホテルに着くと、そこにはひとりで泣きじゃくっている彼女が。
夫は、飛びついてきた彼女を振り払い「迷惑だ!」と一喝。私と別れる気がないことも再度ハッキリ伝えてくれました。
それでも納得しない彼女。居酒屋で会ったときは「本当は私を選びたいけど、離婚していなかったから、彼が自分の気持ちに素直になれなかったのだと思った」と話し出しました。さらに、「運命の再会をしてから、彼が私のSNSを見てくれるようになったから、やっぱり気持ちは私にあると確信した」と言って、彼女は『大好きな人と結婚します♡』と綴った自分のSNSを私たちに見せてきて……。
「いつも写真にいいねしてくれるし、かわいいねってコメントもしてくれるじゃない! 気持ちが通じ合っている証拠でしょ!」と言う彼女の言葉に、夫はハッとした表情を浮かべ、青ざめました。
彼女の暴走の原因はまさかの…
夫はかなりの犬好きです。暇さえあれば、SNSでかわいらしい犬の写真や動画を見ている夫ですが、最近よく見ていたアカウントがなんと彼女のものだったのです。彼女自身の写真や名前は記載されていなかったので、気が付かずにいいねやコメントを……。
実は、あの日の喧嘩の原因もコレ。ペットを飼いたいねと話していた私たちは、犬か猫かで度々もめていたのです。それがまさかこんな事件に発展するとは、思ってもいませんでした。
彼女はその後も、自宅や勤務先の近くで何度も夫の姿を見かけて、「運命だ」と信じて疑わなかったと言います。SNSでは「新生活の準備中」「将来のために転職活動中」などの意味深な投稿を繰り返し、周囲からも「いよいよ結婚?」と聞かれるようになっていたのだとか……。
そうして、思い込みが強かった彼女は、誤解を次第に確信に変換していき、都合のいい解釈をして暴走したというワケです。
式に関係者が誰ひとり来なかったというのも納得です。新郎である夫側には招待客はおらず、彼女が招待していたのは私を含める友人の数人と両親のみ。
招待状に書かれた新郎の名前を見て、疑問に思った友人たちが、私に連絡をくれていました。友人たちはみんな、夫婦円満であるという私の話を信じてくれて、彼女の両親とも交流のある友人のひとりが、私の話を彼女の両親にも伝えてくれていたのです。
昔から、思い込みが激しく周りに迷惑をかけてばかりいた彼女。事態を把握した彼女の両親も頭を悩ませていたようで、痛い目を見て反省してもらおうと彼女の好きにさせたそうです。
後日、彼女の両親が謝罪に来たと祖父から聞きました。彼女のせいで結婚式の予約が1枠無駄にはなりましたが、ホテルとしては支払いさえしてくれれば問題ないということで、彼女にきっちり請求したそう。
また、彼女が夫に対して、かなりしつこくストーカー行為を働いていたことも判明しました。彼女のことを調べると、次々に恐ろしいことがわかったのです。なんと彼女は、夫が務める会社に出入りする清掃業者で働き、私たちの自宅から目と鼻の先のマンションに住んでいました。夫が見ていた彼女のSNSアカウントも、犬好きの夫の気を引くために、犬を飼い始めたうえで立ち上げたものでした。
その事実を知り、恐ろしくなった私たちは早急に引っ越し。そのタイミングで犬と猫の両方を家族に迎えることにしました。新しい家族ができて、彼女との縁も切れた今、私たちは幸せに暮らしています。
◇ ◇ ◇
まさか犬猫どちらを飼うかの喧嘩から、知らないところでこんな騒動にまで発展していたなんて、思いもしませんよね。人から好意を持たれることはうれしいことですが、度が過ぎると恐怖でしかありません。自分の気持ちを押し付けず、相手の幸せを願えるのが本当の愛なのかもしれません。誰でも勘違いや、誤った解釈をしてしまうこともあると思います。物事を自分にとって都合よく解釈して、大切なものを見失ってしまわないよう注意したいですね。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。