2人でも十分に回せているはずの会社。しかし、夫は「お前は経理やら雑務やらばっかりで、会社の役に立っていない!」「俺は営業のために取引先を回って、契約取り付けて……お前みたいに社内でぬくぬくしてる暇なんかないんだ!」と私のことを見下してばかり。
そんな夫が突然雇ったのは……?
新しい従業員の登場
「今日からどうぞよろしくお願いします!」と言って挨拶してきたのは、夫の言うとおり若くてかわいい女性でした。
「私、実は社長令嬢なので!ある程度はできちゃいますから!」と言った彼女。それは心強いと思った矢先、彼女は「まぁ、パソコンは苦手なんですけどね!」と付け足しました。
うちはIT事業を手掛ける会社。それなのに、パソコンが苦手だなんて……。
「失礼だけど、前職は何をされてたの?」と尋ねると、「実家の会社の手伝いです!お小遣いがほしいときだけ、パパに頼んで働いてました!」「たまにお茶いれたり、コピーをとったり。あと、お話し相手とかしてましたよ!日当3万もらっていました!」と彼女。
「みんな私のことかわいがってくれて、とっても楽しかったです!」と続けました。
椅子から転げ落ちそうになってしまった私。「どうしてそんな魅力的なご実家があるのに、うちみたいな小さな会社に……?」と聞くと、「あ~、実は経営が傾いちゃって、実家の会社は売却したんですよね」とあっけらかんと答える彼女。
「で、私の働く場所なくなっちゃって、どうしよっかな~って思ってたときに友だちのパーティーでここの社長と出会って、すっごく意気投合しちゃって!」「彼から『よかったらうちに来ない?』って誘ってもらったんです~!」
夫は「実家の会社経営を手伝ってたなら、きっと余裕だよ!」と言って、履歴書の提出も、面接もしなかったそう。にこにこしながら「いろいろ教えてくださいね~!」「できる範囲でがんばりま~す!」と言う彼女を見て、私は思わずため息をつきました。
無責任な新入社員
2週間後――。
夫からも「指導してやってくれ」と言われていたので、私は彼女に仕事を教えることに。根気強く教えるつもりでしたが、先に音を上げたのは私のほうでした。
「もう限界……!本当に無理!」「彼女がいるだけで、もはや足手まといなの!仕事できないどころの話じゃないわ……」と伝えると、「はぁ?入社したてでがんばってる彼女になんてひどいことを言うんだ!」と怒り出した夫。
私だってこの2週間必死で彼女に仕事を教えてきたのです。基本的なエクセルの操作から経理システムの使い方、取引先との電話対応まで丁寧に……それも自分の仕事をやりながら、指導してきました。
しかし、彼女は全然仕事を覚えようとしませんでした。それどころか、「難しいです~」と言って投げ出しては、すぐにスマホをいじり出す始末。
「遅刻は日常茶飯事、休憩も勝手に取るし、指摘したら『実家ではOKでしたけど?』
って……」「昨日なんて、大事な書類をシュレッダーにかけちゃったのよ!?」「お願いだからあなたから何か言ってよ!このままじゃ会社が回らないし……。それか、もういっそのこと試用期間で終了にして……」
私の訴えを聞いても、夫は「おいおい、追い出そうとするのか?若さに嫉妬してんじゃねーよ」と鼻で嗤うばかり。
「そんなこと言うなら、逆にこっちがお前を解雇するぞ?」「彼女は毎日『奥様に意地悪されてつらいです』『できないことを責められて、怒鳴られてます』って俺に泣きながら相談してくるんだ!」「彼女が入って、共同経営者である自分の立場が危うくなるのが怖いんだろ?お前なんてしょせん雑用係なんだから、調子に乗るな!」
決算書も税務申告も、人事も、新規案件の見積もりも、契約書作成も私に押し付けておきながら……。夫は未だに私の仕事を「ラクな仕事」と認識しているようでした。
「彼女だって本気出せばすぐに覚えられる簡単な仕事だろ?」「ちゃんと明日からはやさしく丁寧に仕事を教えてやれよ」「かわいい彼女に意地悪したら、俺が許さないからな!」そう本気で言ってくる夫に、私は呆れるよりも寒気がしたのでした。
社長夫人の交代劇と2人の哀れな末路
2カ月後――。
ある朝、事務所に入ってくるなり「ごめんなさい、奥様!私と社長……付き合うことになりました!」と言い出した新入社員の彼女。
「社長ったら、私のこと一目見た瞬間から好きだったんですって!」「どっちも仕事能力は一緒ですし、だったら年齢と見た目の差が決め手で私が圧勝じゃないですかぁ~」
私と彼女の仕事の力が一緒だなんて……彼女は経理の基本すらまったくわかっていないのに……。
「奥さま、ごめんなさ~い♡」
「社長と付き合うことになったので、社長夫人は交代でお願いしま~す♡」
「ふ~ん……本当にいいのね?」
「は?」
彼女は勝ち誇ったように「いきなり旦那も社長夫人の座も奪われて、仕事までなくなるのはきついですよね?」「どうしてもってお願いするなら、考えてあげてもいいですよ?」と言いました。
私はにこやかに首を横に振り、「大丈夫よ!転職先はもう決まってるから!」と答えました。「えっ?まさか、前から会社を辞めるつもりだったの……?」と驚く彼女。
「毎日、夫とあなたが目の前でいちゃついてるんだもの、こんなところ居心地が悪いわ」「あなたはろくに仕事もしないし、経理以外の事務作業もめちゃくちゃ」「この会社に未来はないなって悟ったから、こっそり転職活動してたの」
びっくりしていた彼女ですが、すぐさま「戦いもせずに逃げを選ぶとかダサすぎません?」「私なら、旦那さんがほかの女のほうを向いてたら堂々と戦って愛を勝ち取るのに!そんなんだから彼からの愛が消えたんですよ」と言い返してきました。
「え?そうかしら?ダサいのは人のお古の男をほしがるあなたのほうじゃない?」「実家の会社も潰して、無理やりもぐりこんだパーティーで既婚者に色目を使って……。ずいぶんと落ちぶれた社長令嬢だこと!」と言うと、顔を真っ赤にした彼女。
「ひどい嫉妬、おつかれさまでーす!」「めちゃくちゃ幸せになって、あんたが悔しがるところ見てやるんだから!」と言い返してきましたが、「それじゃ、彼と彼の会社のこと、よろしくね!」「すぐに離婚するから、次期社長夫人としてせいぜいがんばって」とだけ言って私は事務所を後にしました。
その後――。
私と夫はすぐさま離婚。夫は「お前なんかいなくても会社は余裕で回る!むしろさらに成長するはずだ!」と言っていましたが、やはり彼女には荷が重かったようでした。
元夫から「税理士は高い、確定申告はお前がやれ」と言われていたこともあり、毎年の確定申告をやっていた私。経理の基本すらわかっていない彼女がいきなり法人の確定申告なんてできるわけありません。なんとか期限内に確定申告を終わらせたようですが、やはりめちゃくちゃだったようで、税務調査が入ったのだとか。業務も滞り、もはや倒産寸前と聞いています。
元夫から「今までの給料の倍は出す!」「だから戻ってきてくれ!」と泣きつかれましたが、私はすでにスカウトを受けてライバル会社に転職済み。「役員として力を貸してほしい」と言われたこともあり、給料は以前の倍以上もらっているのです。
今までよりも業務範囲が広く、大変なこともありますが、転職先ではみんなが私のことを必要としてくれています。その期待に応えるべく、今後も仕事をがんばっていきたいと思っています。
【取材時期:2025年3月】
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。