親にとって都合のいい子どもを産みたいわけじゃない
―妊娠中、赤ちゃんに障害があるわかったものの、ご主人には伝えなかったとおうかがいしました。そのときどんなお気持ちだったのでしょうか?
―野田聖子氏(以下、野田さん):妊娠できないことがわかり、私は海外で卵子提供を受けて不妊治療をおこないました。治療当初から決めていたことは、卵子提供や精子提供が「親にとって都合のいい子どもを探し求める道具」にならないようにしようということ。他の方の卵子を提供してもらうけれど、それ以外の部分では自然な形で流れに任せようと考えていたんです。
治療に入ると、私の場合はまずどなたの卵子をもらうかのリストを渡されました。たいていはアジア人にはアジア人の卵子というように、できるだけ自分と似ているであろう人の卵子を選ぶんです。ここも日本の多様性のなさを感じるところなんですが、親と子の顔が違うと、生まれてきた子どもがいじめられる心配があるというのが理由のようです。
私はあえて自分では卵子提供者を選ばず、クリニックの先生にお任せしました。「先生がいいと思った女性にしてください」と言ってリストを見なかったんです。
障害があろうがなかろうが、親が安心して子育てできる国に
――そして息子さんと出会うことになるわけですね
―野田さん:でも1回目の卵子移植ではうまくいかず、息子を授かったのは2回目の卵子移植(顕微授精)のときでした。夫の強い希望で挑戦した2回目だったから、私が意見を言いやすい状況でした。
それもあって、仮にお医者さんから「障害があるかもしれない。まだ他の卵子も残っているから次のチャレンジができる」と言われたとしても、いったん妊娠した子を堕胎するという発想は持っていないと意見を言えたんですよね。(※)その子がどういう子でも、どういう状況で生まれてくるとしても受け入れると、卵子提供を受ける当初から決めていたんです。
―なぜ、そのように受け入れる覚悟ができたのでしょうか?
―野田さん:ひとつは私が当時50歳で人生経験が豊富だったからだと思います。政治家歴も長いから、多少のことでは動揺しません。子どもを産むことに対しても、自分なりの心意気があった。もうひとつは、働いた期間も長かったため生まれてくる子どもに必要なものは全部整えてあげようと思える経済力があったことも大きいと思います。
私の場合は、この経験を活かして障害を持っている子どもに必要なものを探して、制度を作っていけばいいと割り切っているんです。けれど若い人たちは違います。たとえばお給料が安いことが理由で障害のある子を育てられないと考えるなら、その意見も十分に理解できます。子どもに障害があろうがなかろうが、どの親も無理しないで済むように、国が子育ての安心を届けていかなければいけないと思っています。
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お子さんに障害があるとわかっていながら、産むと決断するのは、どんな親であれ大きな葛藤を抱くものではないでしょうか。しかし不妊治療に取り組む前から「どんな子どもであっても受け入れる」と決めていらっしゃった野田さん。
一方で、障害のあるお子さんを育ててこられたご経験があるからこそ、すべての親にとって、適切な決断というわけでもないと考えていらっしゃるようです。わが子が障害を持って生まれる現実を受け止められない親がいてもいい。だからこそ国の子育て施策が必要なのだという言葉に、日本の子育てをよりよくしていきたいという野田さんの強い信念を感じたインタビューでした。
次回は、50歳という年齢でママになった野田さんが、今、妊娠・出産・子育てを考える女性たちに知っておいてほしいことについてお話をうかがっていきます。
※人工妊娠中絶は、母体保護法により定められた適応条件を満たしている場合に限り、施行されます。本記事の内容は、母体保護法 第14条 第1項 第1 号「妊娠の継続または分娩が身体的または経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれのあるもの」に該当します。