「俺とお前は赤い糸で繋がっていなかったんだ……俺の運命の相手はお前じゃないんだ! 」と言った婚約者。「まさか浮気でもしてたの? 私よりもその浮気相手のほうが好きだって言うの?」と尋ねると、「あぁ、そうだ! だからお前との結婚式はできない!」と言ってきたのです。
「運命には逆らえないからな! 俺は彼女と籍を入れる予定だから、お前は結婚式の中止手続きをよろしく!」と言って、そのまま婚約者とは連絡が取れなくなり……?
復縁要請してきた婚約者
3年後――。
突然「よう! 久しぶり!」と元婚約者からメッセージが届き、私は目を丸くしました。
さらに驚いたのは次の言葉でした。
「今日までずっと待たせてごめん! 俺、お前と結婚するためにこの街に戻ってきたんだ!」「ずいぶんと待たせちまったけど、俺と結婚しようぜ! あのときできなかった結婚式もしよう! 今度こそ夫婦になろう!」
3年ぶりに連絡してきたと思ったら、いきなりの復縁要請……。私は大きなため息をつきました。しばらくそのままにしていたのですが、
「あれ……?既読なのに、なんで返信くれないんだ? 俺が戻ってきたのにうれしくないのか?」と元婚約者。
結婚式前日に、浮気相手と駆け落ちしてそのまま行方をくらませた男が戻ってきてもうれしいわけがありません。
私はしばらく考えてから、仕方なく返信をすることにしました。
「久しぶりね。連絡してきてびっくりしたわ。浮気相手さんはどうしたの? 運命の相手なんでしょ? 彼女と入籍するって言ってたじゃない」と言うと、「もう別れたよ、あいつとの赤い糸はどうやら偽物だったみたいなんだ」と元婚約者。
浮気相手のために何もかも捨てて駆け落ちした元婚約者ですが、なかなか定住できる場所や仕事が見つからなかったそう。それもあって、入籍には至らなかったのだとか。そして浮気相手は「こんな貧乏生活耐えられない!」と言って、元婚約者のもとを離れてしまったそうです。
「愛しの彼女がいなくなって、ひとりぼっちに耐えられず、のこのこと私のところに戻ってきた……ってわけね?」と言うと、元婚約者は「そんな意地悪な言い方するなよ~」と返してきました。
「実は、駆け落ちしたあとも、お前のことが頭から離れなくて……。お前のことが気になってしょうがなくて……」「許されないことをしたのはわかってる! でもやっぱり俺、お前とやり直したいんだ!」
もちろん、元婚約者への未練なんて私にはまったくありません。すでに結婚式場を下見して決めてあるということには正直引いてしまいました。
「3年前、駆け落ちしたことは悪かった!でもお前を愛してるって気づいたんだ」
「式場は決めてある。今度こそ、あの日の続きをやろう! 」
「私、もう別の人と結婚してるけど?」
「は?」
「け、結婚してるってどういうことだ……?」とまだ信じられない様子の元婚約者。
元婚約者が駆け落ちしたあと、私は別の人と結婚していました。もうすぐ子どもが産まれる予定です。
「な、なんでほかの男と結婚なんてしてるんだよ!」と元婚約者。まだ私が元婚約者に未練を抱いているという幻想から脱せないようでした。
「浮気したうえに、結婚式前日に駆け落ちするような男に未練があるとでも? 私が好きなのは、今の夫とおなかの子どもだけよ」「ずっとあなたのことを待ってるわけがないでしょう?」
「そ、そんな……子どももできたのか……」と絶望に打ちひしがれた様子の元婚約者。
「今……結婚式場に来てたんだ。お前が絶対喜びそうな会場を見つけたのに……」と元婚約者。「ちなみに、その式場ってどこ?」と質問すると、元婚約者は「えっ!? 俺に会いに来てくれるのか!?」と言ってすぐに式場の場所を教えてくれました。
……本当に既婚者なのか信じたくない、という気持ちのまま暴走していたようです。
「そのまま式場で待っていてくれるかしら?」と聞くと、「もちろんだよ! 俺はたとえお前が既婚者でも子どもごと受け入れる覚悟はできているからな! すぐに俺の胸の中に飛び込んでこいよ!」と答えてきました。
元婚約者とのやり取りを終えたあと、私は式場の場所のメモに目を落としました。そして、ひたすらとある人たちに電話をかけたり、メッセージを送ったりし続けたのでした。
3年分の恨みつらみがこもった結婚式
数時間後――。
「おい!! いったいどういうことだよ!」と元婚約者から今度は電話がかかってきました。
「なんでお前が来ないで、両親とか親戚、友だちが押しかけてくるんだよ!? ふざけるな!」と元婚約者。私は元婚約者の居場所を彼のご両親や共通の友だちに連絡したのです。
元婚約者とのやりとりの際中、私は元婚約者が駆け落ちした直後、ご両親が『家のお金も一緒になくなった』と嘆いていたのを思い出したのです。
「みなさん、あなたと直接話をしたくて首をなが~くして待っていたのよ?」「駆け落ちするときに、ご両親のタンス貯金200万円を持ち出したそうじゃない。あなたのご両親、『うちの馬鹿息子が申し訳ない』って言って、式場のキャンセル費用も全額出してくれたわ」「ご両親に数百万もの迷惑をかけて……3年分の利子をつけて、きっちり返さないとね?」
おそらく親戚は彼のご両親が呼んだのでしょう。駆け落ちした元婚約者は、お金が尽きるたびに「帰りたいけど帰る旅費がないから、お金を貸してくれ」と嘘をついて、親戚や友だちにお金の無心をしていたそうです……。
「俺、みんなにお金借りてたこと、忘れてたんだよ!」と慌てた様子の元婚約者。まさか、今の今まで忘れていたとは……。
「だ、だって、駆け落ち生活って想像以上に大変でさ! 誰にいくら借りたとか覚えてられなかったんだよ!」と言う元婚約者に呆れ果ててしまった私。
「たとえ独身だったとしても、あなたなんかと結婚したいなんて思わないわ! よくそんなんで私と結婚したいなんて言えたわね!?」「私は新しい人生を楽しく過ごしているの。二度と連絡してこないで!」と言って、私は電話を切りました。
その後――。
元婚約者のご両親は「また馬鹿息子が迷惑をかけてしまった」と丁寧に謝罪してくれました。ご両親によると、元婚約者がご両親をはじめ、親戚や友だちに借りていたお金は総額400万円程度。今、彼は工場やコンビニでの勤務を掛け持ちし、借金返済に追われているそうです。
私のほうは無事に元気な男の子を出産し、夫と息子の3人家族になりました。ちなみに夫は、私が元婚約者と結婚式を挙げる予定だった式場の元スタッフです。式場を去る私を、黙って見送っていた姿を、後からスタッフ仲間が『あの人ずっと見てたよ』と教えてくれたのも印象的でした。
新郎がいなくなった理由を話し、泣きもせずテキパキと手続きを進めた私のことが印象的だったらしい夫。その場で声はかけられなかったそうですが、後日、街中で再会したときに「運命だ!」と感じたと言います。ある意味、元婚約者は私のキューピッドだったのかもしれません。
【取材時期:2025年5月】
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。