次第に、休日にひとりぼっちでいることに寂しさを覚え始めた私。夫に「たまには家族で過ごしたい」と言っても、「お前は娘と毎日いるだろ? 俺の両親は週末しか孫娘に会えないんだ」「お前はうちの大黒柱なんだし、休日くらいはゆっくりしてほしいんだよ」と返されます。
「もし家族で過ごしたいなら、お前も俺の実家に一緒に来るか?」と夫に言われて、言葉に詰まってしまった私。「なーんてな、お前が俺の母さんのこと、苦手なのはわかってるから無理に行くことはないさ」「母さんは専業主婦だから、働いてるお前が気に食わないんだろうけど……俺はお前にすっごく感謝してるから!」と夫。夫なりに私を気遣ってくれているのだろうと思い、私は何も言えなくなってしまいました。
そして、その週末も夫は朝の5時に娘を連れて義実家へ行ってしまい……?
苦手な義母への電話
夫の「今から実家から帰るよ!」という連絡を受けてから、意を決して義母の携帯に電話をかけた私。なかなか出ないな……と思ったタイミングで、ようやく義母が電話に出てくれました。
「お久しぶりです、お義母さん。今日も夫と娘がお世話になりました」と言うと、義母は「えっ?」と驚いたようでした。私からお礼の電話がかかってくるなんて、思ってもみなかったのでしょう。
「いきなり連絡してすみません……でも、どうしてもお話したいことがあって。本当に申し訳ないんですが、今後、娘と会う頻度を減らしてもらえないでしょうか?」と言うと、「なんですって?!」と義母は声を上げました。
「娘をかわいがってくれることはうれしいですし、感謝しています」「でも……このところ、週末に家族3人で過ごす時間がまったくないんです。なので、毎週末娘を連れて、夫がうかがうのはちょっと……」と言うと、「あの……あなたはさっきから何の話をしているのかしら?」と義母。
「毎週末なんて会ってないわよ? 今日だって、息子も孫も遊びに来てないし……」と言う義母に、「本当ですか?! でも、今日なんてずいぶん朝早くからそちらに遊びに行くって出かけて行きましたよ?」と答えた私。
「そんなこと言われたって、来てないもの……。今日どころか、先週も、その前の週も……考えてみたら、今年に入ってから一度も来てないわよ?」「むしろ、私が何度も息子に頼んでるくらいよ! 孫に会いたいから遊びに来てくれって言ってるのに、あなたが許さないからって連れてきてくれやしないんだから」
はぁ、とため息をついて、義母は続けました。
「悲しいけれど、こうなったのも私があなたの仕事に口出ししちゃったのが悪いのよね……」「私の時代は妻が家庭に入るものって考えが普通だったから、共働きが理解できなくて……本当にごめんなさいね、今は反省してるわ」
「結婚当初のことは、たしかにショックでしたが……でも、それと娘のことは関係ありません。娘にとっては大切なおばあちゃんですし、ぜひ仲良くしてほしいと思っています」「だから、私はお義母さんに娘を会わせたくないなんて、ひと言も言ってません!」
「いったいどういうことかしら……」とつぶやいた義母。「お父さんからもそんな連絡受けてないし……」と言った義母に、疑問を抱いた私。
「もしかして、お義母さん、おうちにいらっしゃらないんですか?」と尋ねてみると、「実は、そうなの……。この間、家の中で転んじゃってね。たいした怪我じゃないんだけど、念のために入院することになったの」「みんなに心配かけたくないから、お父さんにも口止めして、黙ってたのよね」と義母。
「そんな……そんな大事なこと、隠さないでくださいよ。お見舞いに行ってもいいですか?」と言うと、義母は「えっ!? あなたが!? 私のお見舞いに来てくれるの!?」と驚いていました。
結婚当初はいろいろありましたが、義母は夫の大事な母親であることに変わりはありません。私は「夫には黙っておきますから、あとで病院教えてくださいね」「直接話したほうが良さそうですし……」と言って、義母と2人きりで病院で会うことにしたのです。
嘘つきの夫の本当の行き先
そして次の週末――。
「明日からは娘を連れて実家に泊まってくるよ」「お前も繁忙期が終わったばかりだし、疲れが溜まってるだろ?」と言い出した夫。
「ちょうど母さんにも『いつも日帰りじゃさみしい、たまには泊まっていけ』って言われたしさ!」「お前もゆっくりできるだろ」と笑顔で言う夫に、私は「そんなことしなくていいわ。泊まりはなしにして、今週末は私と一緒にいて」と答えました。
「私はあなたの妻で、娘の母親。ひとりでゆっくりするより、かけがえのない家族との時間を過ごしたいの。だから、今週末は絶対に実家に帰らないで」
「そ、そんなこと言われても、母さんたちも楽しみにしてるし……」と夫。「それなら私から連絡して断っておきましょうか?」と言うと、「い、いや! そんなことしなくていいよ! 俺から断るから!」と食い気味に止められました。
「えっ!? お泊まりを断ってくれるの!? ということは、数カ月ぶりに週末は家族で過ごせるのね!」と私がうれしそうに言ってみると、「あ、いや……その、やっぱり断るのは難しいかもな、父さんと母さんが本当に楽しみにしてるし……」「娘のパジャマも、わざわざ買って用意してくれてるみたいだしさ」と夫。
「パジャマまで!? じゃあやっぱり私からもお礼を言わないと失礼よね……そんなに娘に良くしてもらってるんだし、私も一緒に行こうかしら」と言うと、「なんだって!?」と夫は慌て出しました。
「だって、こんなに娘をかわいがってくれてるのに、私は結婚当初のことを引きずって距離を取るようなことをして……失礼過ぎるじゃない?」「私だってやっぱり仲良くしたいもの。だから、まずは仲直りの第一歩として、一緒にお泊まりに行くわ!」と張り切る私とは逆に、夫はあわあわしながら「いや、嫁姑の仲悪いんだし、無理して実家まで来なくていいよ」と言いました。
そこで私が「お義母さんは入院中だけど?」と返すと「え?」と驚いたようなひと言が返ってきました。
しばらく間があったあと、「お、おい……母さんが、入院中ってどういうことだ? 俺の母さんが入院してるのか?」と聞いてきた夫。私はため息をついて、「しょっちゅう帰ってるのに、お義母さんが入院してることも知らなかったのね……。転んで骨折して、しばらく入院してるって」と言いました。
「は!? めちゃくちゃ大怪我してるじゃねぇか!」と驚く夫に、「そんなことも知らずに息子は浮気に夢中だものね……本当にお義母さんがかわいそう」と言った私。
「う、浮気だと!? な、なにを言い出すんだお前は!」と言う夫の顔は真っ青でした。
今週初め、仕事をリモートに切り替えて、私は共有のパソコンや夫が捨てたレシートなどをすべてチェック。すると、あちこちから浮気の証拠がザクザク出てきたのです。
「『かわいい孫に会いたいから連れてきてほしい』っていうお義母さんのお願いも『妻が怒るから無理、会わせるなって言われてる』って一蹴してたんでしょ?」
浮気の言い訳に利用されていることを知った義母の怒りはすさまじいものでした。「まさか、うちのかわいい孫娘を薄汚い浮気女に会わせてるんじゃないでしょうね、あの馬鹿息子……!」という義母の言葉に、私も同感でした。
「母さんが、そんなことを……!? でも、これは浮気じゃないんだ! 彼女は薄汚くなんてない! 母さんも気に入るような、やさしくて家庭的な女性なんだよ!」と言い出した夫。
「俺は本当に彼女を愛してるし、遊びじゃないんだ! だから毎週末、娘を会わせてたんだよ……彼女も娘の母親になりたいって言ってくれてるんだ!」「娘が彼女に少しずつ慣れてくれたら、タイミングを見て離婚しようと考えてたんだ……」「お前が仕事ばっかりしてるから、娘のためにももっと家庭的な人のほうがいいんじゃないかって……そう思ったんだよ!」
そう言われて、私の怒りも大爆発。私は朝から晩まで働き詰めで、それでも娘のためにと家事も育児も手を抜かずにやってきました。夫がしているつもりの「手伝い」は、私にとってはまるで重荷を分かち合っているとは思えないものでした。夫は家事や育児をしているつもりなのかもしれませんが、私の作ったごはんを温めて、娘と一緒に寝るだけ。家事や育児をしているなんて、とうてい言えないでしょう。
「……そもそも、既婚者と浮気するような女のどこが母親に向いてるのよ」「もし親権を争いたいなら、裁判でも何でも応じるわ。私は徹底的に争うからね」と言うと、夫も「ふざけるな! お前なんかと一緒にいたら、娘が不幸になるだけだ!」と言い返してきました。それから、家庭内での夫婦の会話はなくなりました。
その週末――。
家事を終えて一息ついていると、夫がおずおずと「なぁ……やっぱり離婚はやめないか?」と話しかけてきました。
「え? どういう心境の変化?」とつれなく返すと、「実は……ついさっき、彼女に振られちゃったんだよね」と夫。
「俺たちの関係がお前にバレたことを打ち明けて、予定よりも早いけど一緒になろうって言ったんだけど……やっぱり俺との結婚は無理って言い出したんだ」「実は、娘がなかなか彼女に懐いてくれなかったんだよね……それが前から嫌だったらしくて……」
「結局、母親になる覚悟なんて、最初からなかったのよ。その彼女と一緒にいたほうが娘は幸せになれるって、あなたが言ったんでしょう?」と聞くと、「あの……本当に、謝るから……」「彼女と一緒になれないなら離婚する意味はないし、俺、娘と離れ離れになりたくないんだ。だから、離婚だけは許してくれないかな?」と虫のいいことばかりを言う夫。
「そんなに娘の父親でいたいなら、離婚後、養育費をきちんと払って」「あなたのような人が父親だと、娘に悪影響なの。だから、絶対に離婚する」
夫は「そ、そんな……」と顔を歪めてうなだれました。しかし、私の決意は揺らぎません。すぐに弁護士を立て、離婚に向けて動き出したのでした。
その後――。
こうして私は、夫と正式に離婚しました。長い葛藤の末の決断でしたが、財産分与と慰謝料を受け取り、養育費も今のところ滞りなく振り込まれています。
元義母が退院してからは、私が娘を連れて定期的に元義実家を訪ねています。あらためて、私の仕事に口出ししてしまったことを謝ってくれた元義母の言葉には、心からの思いが感じられました。娘も元義両親によく懐いていて、元義両親も変わらず愛情深く接してくれています。いろいろあったけれど、こうして家族としての温かいつながりが残せたのは救いだったと感じています。家事や育児に関しては、実の両親もサポートしてくれているので、両親の力も借りながら、娘の笑顔を守っていこうと思っています。
【取材時期:2025年6月】
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。