結婚式を終えてから、私と夫は1回もデートしていませんでした。新婚だというのに……。結婚式にもお金がかかったので仕方ないのかな、と思いつつ、どこか不信感を持っていました。
隣町の公園で夫らしき人物を見かけた私は、思わず自分の目を疑いました。その男性はマスクをしていましたが、背格好も、目の形も夫に瓜二つ。しかも、隣にはその男性のことを「パパ」と呼ぶ小さな女の子がいて……?
夫の苦し紛れの言い訳
私はモヤモヤを抱えたまま帰宅しました。しばらくして、夫が帰ってきたので、「……今日って、休日出勤って言ってたよね?」とおそるおそる聞いてみました。平静を装っているつもりでしたが、私の声は震えていました。
「あぁ、大変だったよ! 急に会議が入ってさ、もうバタバタで……」といつものように忙しさをアピールする夫。しかし、私の心のモヤモヤは大きくなるばかり。
「……本当に、仕事だったの?」と重ねて聞くと、夫は一瞬怯んだように見えました。「え? ど、どういう意味だよ?」と動揺する夫に、さらに疑念を深めた私。
「今日、隣町の公園で、あなたを見かけたの。小さい女の子とすごく楽しそうに遊んでた。しかも……その女の子は、あなたのことを『パパ』って呼んでた……」
「え!? あ……」「そ、それは……違うんだよ! あの、それには事情があるんだ! 変な関係じゃないからな!? 最近離婚したばかりのシングルマザーの友人がいてさ……子育てが大変だから、息抜きの間だけ付き合ってるんだ。今何かと物騒だし、不審者と間違われて通報されないように、あえて『パパ』って呼ばせてるんだ」と必死になって説明する夫。
「新婚だし、困っているとはいえほかの女性に会いに行くのは……と思ってさ、『休日出勤』って誤魔化して出かけていたんだ……でも本当にやましいことはないから!」「地元の友だちで昔からみんなで仲良かったから、放って置けなかったんだよ」と夫は私の目を見て言ってくれました。
「事情はわかったよ……私のほうこそ、変に疑ってごめんね。でも、これからはちゃんと話してほしいな」と、私は動揺しながらも、夫の言葉を信じることにしました。本当のことを知る勇気が、私にはまだなかっただけかもしれません。裏切られていたとしても、その瞬間は、そう信じたかったのです。
義母との会話で深まる夫への疑い
1週間後――。
「結婚式が終わってから、ちょっとバタバタしていて……全然連絡できなくてごめんなさいね? どう? 新婚生活、楽しんでるかしら?」と義母から連絡が。
「こちらこそ、なかなか連絡できなくてすみませんでした。新婚生活は順調ですが、彼が忙しくて、2人の時間はなかなか取れていません」と正直に話すと、「あらあら! 新妻を放置するなんて、うちの息子ったら!」と茶目っ気たっぷりの義母。
「仕事も忙しいみたいなんですけど、休日はお友だちとそのお子さんと遊びに出かけていて……。友だち想いだし、子どもの相手も上手みたいだし、この人と結婚できてよかったなぁと思っているところです」と話した私。モヤモヤは残っていましたが、義母に話すことで、どうにかこうにか自分のなかで消化したいと思っていたのです。
「……え? 友だちの子どもと? うちの息子が?」と、聞き返してきた義母。「息子の友だちで子どもがいる人なんて、聞いたことないわよ? そもそも、地元の息子の友だちはまだみんな独身だし……」と言う義母に、私は夫がシングルマザーの息抜きを手伝っているのだと話しました。
「おかしいわね……。息子は男子校出身だし、大学でも男ばかりの学部に進んだから女性と話すのは苦手だとばっかり……。あなた以外の女性の話なんて、聞いたことないわよ?」
もっと詳しく話を聞かせてほしい、と言ってきた義母に、私は夫と小さな女の子が公園で遊んでいたのを見かけたこと、夫が女の子に「パパ」と呼ばれていたことなどを話しました。
「まさかうちの息子に限って……とは思うけど、念のため、私も確認してみるわね」と言って電話を切った義母。私の不安は先週の何倍にも、何十倍にも膨れ上がっていたのでした。
数日後、義母から再度連絡がありました。
「あの子、『友人の子』の話をしたら、終始はぐらかしてばかりだったの。問い詰めても、『まあ、いろいろあって』とか……曖昧な返事ばかりでね」
義母の声には、わずかな落胆と、確信めいたものが混じっていました。私の中でも、これまでの疑念が少しずつ形を持ち始めました。もしかしたら、私が思っている以上に、彼は重大なうそを隠しているのかもしれない——。
このままではいけないと思った私は、ある決心を固めようとしていました。
夫の裏切りと子どもの正体
1カ月後――。
前日、夫は私に話があると言っていました。指定された時間どおりにリビングへ行くと、夫は「大事な話があるんだ……」とあらたまって話しかけてきました。
「実は俺、君と付き合っている間に、酔った勢いで……別の女性と一度だけ関係を持ったことがあるんだ。そして……その人との間に子どもがいるんだ!」「……本当はずっと言わなきゃと思ってた。でも、君にきらわれるのが怖くて言えなかったんだ。なのに、『公園で見かけた』って言われて、もう隠し通せないと思って……」
おそらく義母から追及されたことも、そろそろバレると思って自分から白状してきた理由なのでしょう。
「それって……この間、公園で一緒に遊んでいた女の子のこと?」と聞くと、夫は力なくうなずきました。この間の説明は、まったくのうそだったのです。隠し子がいたことも、夫にうそをつかれたことも、ショックでした。
「ずっと連絡すら取っていなかったのに……俺たちが結婚した直後に、彼女が突然子どもを連れて現れたんだ。『あなたとの子どもだよ』って言って」「最初は俺だって信じられなかった! だから、DNA検査もしたんだけど、やっぱり俺の子どもだった……。相手から“責任取ってほしい”って言われて、認知だけはしないとまずいと思って……」
「……そう」とだけ発した私。静かな怒りがこみ上げてきて、うまく言葉がでてきませんでした。
「……もうどうしようもないだろ。あの子、俺の子どもって言われて、DNA検査までして確かにそうだったんだ。だったら認知するしかないじゃん」
「彼女も一人で抱えきれなくなってて……正直、関わりたくなかったけど、こっちに来られて揉めるのも面倒だし。養育費くらいで済むなら、認知して終わらせたほうがいいと思って」
「もちろん君には迷惑かけない。あくまで“外の話”だから。俺なりに、ちゃんと“けじめ”はつけたいんだよ」
と夫。夫の口から出る言葉は、どれも自分を守るための言い訳ばかりでした。認知も、養育費も、誰かのためではなく、すべては「自分が責められないための盾」にすぎなかったのです。
「認知したら、どうなるの? 家計から養育費を出すってこと?」と感情のない声で尋ねる私に、「迷惑はかけないようにするから……! 養育費も、できるだけ自分の給料から何とかするつもりだし……」と夫。
「絶対に迷惑はかけないから、子どもは認知させてくれ!」
自分は責任感のある男だと言いたいのでしょうか。
「じゃあ、一緒に住もうか!」
「……は?」
私の提案を聞いた夫の顔は、みるみるうちに青ざめていきました。
「私とあなたと、その子の3人で! あなたの子どもとして認知するなら、もう家族として迎えるということよね?」「彼女さんも、きっと限界なんじゃないかしら? ワンオペで情緒不安定って、あなた自身が言ってたわよね? それなら、いっそお子さんを引き取って、私たちで育てるのが一番よ」と言って微笑むと、夫は明らかにうろたえていました。本気で引き取る気はなかったものの、彼の言葉をそのまま返すことで、どこまで本心なのかを見極めようとしていたのです。
「そ、そこまでしなくていいよ……認知して、養育費さえしっかり支払えれば、それでだいぶ彼女も持ち直すと思うし……」「俺の子どもとはいえ、浮気相手との子どもなわけだし、君にそんな苦労をかけるわけには……」
「男として、父親として、責任を取りたいんでしょう? 本気で責任を取るって言うなら、その子を引き取って、私たち3人で一緒に暮らしましょう。あなたの“覚悟”が本物かどうか、確かめたいの」と言っても、夫はまごまごするばかり。私自身、そんな生活を望んでいるわけではありません。ただ、“責任”という都合のいい言葉を使って逃げようとする彼に、逃げ道をなくすための提案をしたかったのです。覚悟を問うとは、こういうことだ——私はそう思っていました。
「……もしかして、彼女とは1回きりじゃなくて、ずっと関係が続いていたの? 認知は口実で、本当は二重生活を続けたいだけなんじゃない?」と聞くと、夫は「ち、違うって!」と強く否定しました。
必死に言い訳を考える夫の姿を見て、私はいかに自分がバカだったかを痛感しました。やさしくて子どもの面倒見も良い夫はやはり虚像でしかなかったのです。あのとき信じなければ、もう少し私の心の傷は浅かったかもしれません。鼻がツンとして、涙がこぼれそうになったので、思わず上を向いた私。そのタイミングで、隣の部屋のドアがバンッと開きました。
「いい加減にしなさい、この馬鹿息子が!」
昨日、夫から「話がある」と言われた直後に、私は義母にすべてを話しました。ひとりでは、この状況を打破できないと思った私。真実から目を背けるわけにもいかず、義母には、彼の本心を引き出すためにも話をすることに。
すると、「あの子に本気で向き合わせないとね」と義母は静かに言い、すぐに協力を申し出てくれたのです。そして、私たちは一芝居打つことに。義母にはリビングの隣の部屋に隠れてもらい、タイミングを見て出てきてもらう段取りでした。
「うちの息子に限って、不貞をはたらくはずがないって思ってたのに……! 本当に情けないわ!」「新婚なのに、隠し子を一緒に育てようって言ってくれた奥さんの気持ちも、なんでわからないの!? どんな気持ちで提案してくれたと思っているの!? なのに、あんたは自分の保身ばっかり、言い訳ばっかりで……!」
「あなたの子どもなら、私の孫でもあるもの。こうなったら二世帯住宅でも建てて、みんなで責任を取るべきね」と、義母は、本気に聞こえるような芝居がかった口調で言い放ちました。夫が明らかにうろたえるのを見て、私たちは静かに目を合わせました。
これが義母なりの「揺さぶり」でした。一度は受け入れる構えを見せることで、息子が本当に覚悟を持っているかどうか、試していたのだと思います。
義母は息子を甘やかすタイプではありませんでした。でも、完全に突き放すのでもなく、「息子に自分の口で責任を語らせる」ことを重視していたのです。あのときの義母の迫真の演技は、私の背中を押してくれる強さでした。
「……子どもを、連れてきなさい」一呼吸おいて放たれたその言葉は、夫に「逃げ道などない」ことを突きつけるものでした。
義母の言葉に押され、夫は顔をこわばらせたまま立ち上がりました。
「……わかったよ。行ってくる」
そう言い残して、どこか落ち着かない足取りで部屋を出ていきました。義母はその背中をちらっと見ただけで、何も言わずに私の隣に腰を下ろしました。私はしばらく呆然としていましたが、張り詰めていた気持ちが一気にほどけて、思わず涙がこぼれました。義母は静かに私を抱きしめてくれました。
その後――。
あの日、「子どもを迎えに行く」と言って家を出た夫は、二度と戻ってきませんでした。どうやらそのまま浮気相手の女性のところへ転がり込んだようです。責任を取るどころか、現実から逃げたのでしょう。
数日後、夫のスマホから私に着信がありました。電話に出ると、出たのはその浮気相手の女性でした。
彼女は突然こう切り出してきたのです。
「彼からアプローチされて、断り切れずに関係を持ってしまった」「あなたとの仲は冷え込んでいると聞いた、離婚すると言ってくれたから待っていた」と言い訳がましく話す彼女。
彼が戻らない理由を正当化したかったのか、それとも『私は悪くない』と伝えたかったのか、彼女なりの自己弁護だったのでしょう。ご丁寧に浮気の期間や会っていた頻度も話してくれたので、私は「ありがとうございます。これで夫有責で離婚できます。慰謝料などについては弁護士を通して連絡しますので、よろしくお願いします」と淡々と言って電話を切りました。
子どものことについては、夫と浮気相手が一緒に育てていくようです。あの女の子にはなんの罪もありません。だからこそ、少しでも安定した環境の中で成長してほしいと願っています。夫が父親として、せめて責任だけは果たしてくれることを祈るばかりです。
結局、私たちは離婚。慰謝料や財産分与は、こちらの提示した条件通りに進めることができました。元義両親も「一切サポートしない」と言っており、元夫は一文無しの状態で浮気相手と一緒になったようです。自分のしでかしたことの大きさに気づいてほしい気持ちもありますが、まずは父親としての責任をしっかり果たしてほしいと思っています。あのときは、自分が傷ついたことばかりに目がいっていた私ですが、誰かに裏切られても、自分の人生は自分で守れるのだと気がつきました。「あなたには、もっとふさわしい人生があるわよ」と言ってくれた義母。その言葉が、今の私を支えてくれています。
【取材時期:2024年12月】
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。