その日は朝から吐き気が止まりませんでした。熱を測ってみると、なんと38℃。食欲もなく、娘を抱き上げようとしてもふらついてしまう始末。娘の機嫌も悪く、ずっと泣き止みません。
困り果てた私は、すでに仕事に出ていた夫に「お仕事中、ごめんね。本当に申し訳ないんだけど、今日これから仕事を休めたりしない? 早退でもいいから……」とSOSを出したのですが……?
夫に見下される日々
既読がすぐにつき、夫からは「さすがに無理だよ! 俺、今プロジェクトリーダーでバタバタだし! 今日は重要な会議が3つもあるんだから」と返信が。夫が責任ある立場であることは、私だってわかっていました。でも、私ももう限界でした。
「熱が38℃あるの。立ってるのもやっとで……本当に限界なの。娘の面倒もまともに見れないし……どうしても帰ってこれない?」とすがる思いで送ると、「1歳なんて、そこまで手がかからないだろ? ちょっと休めば何とかなるんじゃないの?」「俺も昔は体調崩すことあったけど、今はちゃんと管理してる。お前は家でやること限られてるんだから、もっとうまくやれないの?」と夫。
私の訴えは夫には届かなかったのです。夫の稼ぎに頼っているのは事実ですが、それでも家族なら助け合いたかった……。
「わかった、仕事の邪魔しちゃってごめんね。こっちはこっちでなんとかするから、あなたもお仕事がんばって」と送ると、夫は「今後は最初からそうしてくれると助かる。あと、俺は風邪もらうわけにいかないから、今夜は会社近くのホテルに泊まる。早く治せよ」と返してきました。
高熱の私と小さな娘の心配をせず、自分のことばかり優先する夫に、私の心も限界を迎えようとしていました。
夫の同僚の女性からの追い打ち
ふらつきながらも娘を抱き上げ、寝室に向かおうとしたとき、見知らぬ番号から電話がかかってきました。
「専業主婦って聞いたけど、なんで旦那さんにそんな負担かけてるんですか? ちょっと信じられないんですけど」と女性の声。
「えっと……どちらさまでしょうか?」と尋ねると、彼女は夫の同僚だと名乗りました。夫から話を聞いて、「ちょっと放っておけなくて……私がひと言伝えたほうがいいと思って、番号聞いちゃいました」と私の電話番号を聞き出したそうなのです。
「仕事してないのに、自分の体調管理すらできないなんて……旦那さんがどれだけ大事な時期がわかってるんですか?」「彼の稼ぎで生きていられるのに、感謝するどころか足を引っ張るなんて……本当にありえない」
一方的に怒られ続ける私。彼女はバリバリのキャリアウーマンのようですが、私だって毎日朝から晩まで、息つく間もなく……それでも、誰にも頼らずに、文句を言わずに、やってきたのに……。
「旦那さんが本当にかわいそう。あんな激務を抱えながら、こんな奥さんの面倒見なきゃいけないなんて……」と彼女。夫はなぜこんな女性に電話番号を教えたのでしょう。30分ほどずっとなじられ続けて、私の心はズタズタでした。
一方で、「どうしてここまで軽んじられなければならないんだろう?」とも思いました。私は何もしていないわけじゃない。体調が落ち着いてきた段階で、私はある決意を固めたのでした。
専業主婦がつかんだ自立への道
半年後――。
ソファにそっくり返ってスマホを見ている夫に、「今週末、娘の世話を見てくれない?」と頼んだ私。
「週末? 何か用事があるのか? 俺、仕事で疲れてるから週末くらいはゆっくりしたいんだけど……」と不満そうな夫。「うん、どうしても外せない大事な用事なの」と言うと、夫はわざとらしくため息をつきました。
「どうせ大したことない用事だろ? ママ友ランチとか? ショッピングとかか?」と聞いてくる夫に、「ううん、仕事の用事。実は、半年くらい前から在宅フリーランスとして仕事を始めたの」と答えました。
「なっ……そんなこと言ってなかったじゃないか! どうして今まで黙ってたんだよ!」と夫。夫に言ったところでどうせ反対されるのが目に見えていたから、言わなかったのです。
「いつも仕事第一のあなただからこそ、仕事の用事がいかに大切なものかはわかるでしょ? だから娘の世話をお願い」と言うと、夫は「ちょっと仕事始めたくらいで……どうせお小遣い稼ぎ程度だろ?」とあからさまに見下した態度。
「家事育児をやってほしいなら俺より稼いでからにしろ!」
「お遊びみたいな仕事で、調子に乗るな!」
「じゃあ、全部よろしく!」
「え?」
ぽかんとする夫に、私は事実を突き付けました。
「最初は月数万円しか稼げなかったけど、今は継続発注ももらえるようになったの」「前に給与明細見せてくれたよね? あなたの月収は残業代含めて50万くらいだった」「最初はほんの数万円だったけど、コツコツ続けてクライアントも増えたの。今では月に65万、今月は80万を超える予定なの」
「う、うそだろ……」と夫の顔が引きつりました。「こんなの、なにかの間違いだ! お前がこんなに稼げるわけない!」と叫んだ夫。
「あなたが言い出したことなんだし、これからは家事や育児は全部あなたがやってくれるよね? できないなら、離婚でもしちゃう?」とあえて軽く言った私。夫の顔色はみるみるうちに悪くなっていきました。
「今まではあなたに頼り切りだったし、協力が得られないのも仕方ないと思ってた。でも、今は私だって仕事してる。共働き状態でも、家事や育児には協力できない?」と言うと、「でも、俺は外で働いてるし……お前は家にいて時間があるし……」と夫。
「それなら、やっぱり離婚しかないよね。今まで支えてくれたことには感謝してる。とりあえず今から娘を連れて実家に帰るわ。そうすれば週末もうちの親が娘の面倒を見てくれるし……週明けに離婚届を提出しましょう、用意しておいてくれる?」
「そ、そうかよ! そこまで生意気な女だとは思わなかった! 勝手にすれば? そっちが後悔しても知らないからな!」と、やけになった夫。罵倒されながら、私はなんでこんな人のことを好きになったんだろう……と冷めていました。とうに夫への愛情はなくなっていたのでしょう。
その後――。
私と離婚した直後、元夫は例の同僚の女性とすぐに再婚したそう。しかし、彼女は家事がてんでダメだったらしく……手料理は冷凍のチャーハンをチンしただけ、洗い物は放置されて皿にカビが生え、洗濯は3日に1回とまぁ、元夫はとんでもない生活を強いられているようです。その後、元夫は「お前がいないとやっぱり無理だった」と連絡をしてきましたが、もちろん私が元夫のところに戻ることはありません。
私は実家の近くに小さなアパートを借り、そこで娘と暮らしながら在宅ワークを続けています。ありがたいことに依頼も増え、娘1人を育てるには十分な報酬をもらえています。体調が悪いときや外出の用事があるときには、両親が娘の面倒を見てくれるので安心です。支えてくれる人がいるありがたみを感じながら、毎日仕事に励んでいます。
【取材時期:2025年5月】
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。