最初のうちは、私も2回に1回は一緒に義実家へ行っていました。しかし、義母から私を歓迎していないオーラが出ているのがわかり、次第に私の足は遠のくように。
義母は古い価値観を持ったままの人でした。
「嫁の務めは夫の家族に尽くすこと、私も結婚当初は週3でお義母さんの手伝いに行っていたものよ」「普通は仕事をやめて、私に頭を下げて教えを乞うものなのに……家事もおざなりになっているんじゃないの?」
義実家に行くたびに、私は「申し訳ありません」と頭を下げてばかりだったのです。それを見て、夫は「俺がクッションになるから! 俺だけが帰省すれば、母さんに当たり散らされることもないだろ?」と言ってくれたのでした。
そして、夫のみの帰省が続くようになりました。相変わらず義母から電話やメッセージでのお小言はあるものの、頻度も激減。ほっと一安心していたのですが、夫は義実家に泊まりがけで帰省するようになっていったのです……。
義母のお小言と夫への疑い
夫が義実家に泊まりがけで帰省した翌日――。
「ちょっと! またあなた、来なかったのね! うちの嫁としての自覚が足りてないんじゃないかしら!?」と義母から電話が。
「すみません、仕事が繁忙期でして……」と私。言い訳にしか聞こえないでしょうが、仕事が忙しいのは事実なのです。
「そうやって言い訳して! 家事はどうなってるのかしら? どうりで昨日、息子が『夕飯作らなきゃいけないから帰るわ』って言ったわけだわ」「あの子ったら『帰る』って聞かなくて……まったく、あんたを甘やかしすぎてるのよ。家事は嫁の仕事なのに!」
「えっ」と思わず声を出してしまった私。夫は昨日、帰ってきていません。それに、夫がごはんを作ってくれたことなんて、今までに一度もありませんでした。
「私、毎日ちゃんとごはん作ってますし、夫に作ってもらったことなんてありません。それに、昨日『実家に泊まる』って連絡があって家には帰ってないのですが……」と言うと、「ついにうそまでつき始めたのね……自分が都合悪くなったからって……」とはなから信じてくれない義母。
「いいこと? 今度のお盆の帰省には、必ずあなたも来なさい! これ以上、家庭よりも仕事を優先するっていうなら、こっちにも考えがありますからね」と言われて、私は仕方なく「……はい」と返事をしたのでした。
「なんで教えてくれなかったの? お義母さんにも本当のことを話せばよかったのに……私、さっきも電話でうそをついてるって怒られたんだよ?」と私。
「ごめんごめん。実家に泊まるって言ったほうがお前も安心するだろうし、母さんは家庭第一な人だから、俺が休日出勤するなんて言ったら止められそうだし……言わなかったんだ。でもお前には先に説明しておけばよかったな」「今度からはちゃんと本当のことを連絡するよ」
「お願いね! 私、お義母さんにうそつき扱いされたくないから」と言うと、夫は再び「ごめんごめん」と言って、頭をぽりぽりかいていました。その場ではそれ以上問い詰めることはしませんでしたが、私の心にはなぜかひっかかるものが残ったままなのでした。
再びひとりで義実家へ帰省した夫
そして、お盆シーズン前――。
「今度のお盆は一緒に帰省するね」「お義母さんからも『絶対に来なさい』って言われてるし」と言うと、夫は「え? ……いや、お前は無理しなくていいって。母さんも、気まずくなると悪いから来なくていいって言ってたし」「お盆って親戚が多くて疲れるだけだし、なにより……お前、最近仕事忙しいだろ? 家でゆっくりした方がいいって!」と夫。そこまで言ってくれるのはありがたいけれど、それにしても、止め方が必死すぎるような、あたかも私が行くと困ることでもあるような……そんな違和感が胸に残りました。
ただ、「本当に大丈夫だから! 来なくて大丈夫だから!」と繰り返す夫を見て、これ以上何を言っても連れて行ってはくれないだろうと察した私。「わかった、私もまだあなたのご実家に顔を出すのは気が重いし……お義母さんや親戚の方々によろしく伝えてね」と言うと、夫は「任せとけ!」と力を込めて言ってきたのでした。
夫の様子を見て、私が義実家に行くことと、何かまずいことがあるんじゃないか? そんな考えが頭をよぎりました。まさか……でも、この違和感はずっと私のなかに残り続けたのでした。
そして、夫が義実家に帰省した日――。
そろそろ夫は義実家についたころかな、なんて思っていると、義母から「あなた、また来なかったわね!?」と連絡が。
「お盆なのよ!? いつもとは違うのよ!? 親戚一同が集まっているっていうのに、顔も出さないなんて……」「親戚みんなに『息子さん、結婚したんですよね? 奥さんは来てないんですか?』なんて聞かれて……私は顔から火が出そうだったわよ! ほかのとこの奥さんはみんな来てるっていうのに……」と義母。
「お盆に、夫婦そろわずに夫だけ帰省ってどういうつもり?」
「嫁はちゃんと顔を出すのが当たり前なのよ!」
「それはごもっともですが、実は……」
「は? なによ?」
「私だって、嫁の務めを果たしたかったです……でも、夫が『ひとりで帰るから来なくていい』って聞かなくて」「本来、お盆なら夫婦2人で帰っていろいろお手伝いすべきなのに……私だって、ちゃんとご挨拶したかったです。でも、夫がどうしてもひとりで帰るって……。たぶん、浮気相手と会う時間を確保したかったんだと思います」
再び「は?」と言った義母。「そんな、うちの息子が浮気なんてするわけないでしょう!」と言うので私は義母に事実を伝えることにしました。
「実は、興信所にお願いして調べてもらっていたんです。もう、言い逃れできないような証拠も手元にあります」
夫が実家に泊まりがけで帰省するようになってから、どんどん私のなかの疑いの気持ちは大きくなっていきました。このままではいけない……と思った私は、自分の心のために興信所に夫の調査を依頼したのです。
結果は、黒でした。
興信所の調査でわかったのは、夫が義実家から車で20分ほどのアパートに、頻繁に出入りしていたことでした。私が義実家のほうに来ることはないと油断していたのか、顔すら隠していない写真が続々と。なかには浮気相手と腕を組んでアパートから出てくる写真まで……。おそらく、私が義実家に来ないことに安心しきっていたのでしょう。その油断が、彼の首を締めることになったのです。
「そんな……うちの息子に限って!」と言う義母。私も、自分の夫が浮気しているなんて疑いたくもなかったです。
「ちなみに、夫は今も実家にいらっしゃいますか?」と聞くと、義母は少し語気を強めて「もちろん……! なんだったら代わるわよ!」と自信たっぷりに言い切りました。私は本当にいるのか、怪しいと思いつつ夫が出るのを待ちました。
少しの沈黙のあと、義母の声がほんのわずかにトーンを落として続きました。「え? 今もいるはずよ……あの子、さっきまでリビングにいたし」
「ちょっと確認してみるわね」と電話をいったん切り、数分後に再びかかってきた電話では、声のトーンがわずかに変わっていました。
「……いないみたい。『仕事の電話が入ったから、外で対応する』って言って、さっき出て行ったそうよ」義母の声には、どこか釈然としない空気が漂っていました。
「今までも、そうやって数時間単位で抜け出してたんじゃないですか? ……浮気相手に会うために」
「そ、そんなわけ……。でも、あの子、昔から帰省のたびに友人に会ってたし……今回も、そうだったんじゃないかしら……。あの子、昔から人気者だったし、帰省のたびに友だちに会っていてもおかしくないわよ」と、自分に言い聞かせるように言った義母。
「……一応、私が持っている証拠の一部を送っておきますね。私は嫁としての務めを果たせそうにないので、そちらへ二度とうかがうことはないと思います」と言うと、義母は黙ってしまいました。
その後――。
「この目で見るまでは信じられない」と思ったのか、義母は私が送った証拠写真をもとに浮気相手のアパートへ。そこから腕を組んで出てきた夫と浮気相手の姿を見て、愕然としたそうです。その浮気相手は義母も顔を知る、夫の同級生だったとか。
あとから義父から聞いた話によると、手塩にかけて育ててきた1人息子の不貞にひどくショックを受けた義母は、魂が抜けたような状態で義実家へ戻ってきたそう。義父や親戚たちに「どうしたのか」と聞かれ、ありのままを話したようでした。もちろん、義父や親戚たちは激怒。しばらくして浮気相手のアパートから義実家へ戻ってきた夫は、親戚一同に問い詰められ、謝罪することになったようでした。
私は弁護士を立てて、夫と離婚。元夫からは慰謝料を一括で支払ってもらいました。カツカツになってしまった元夫は元義実家に戻ろうと思ったようですが、元義両親は許さなかったそうです。
離婚成立時、私は元義母に「これまで本当にお世話になりました。私ももっとお義母さんの立場を理解しようと努力すべきだったのかもしれません。でも……やっぱりつらかったです。至らない嫁で申し訳ありませんでした」とメッセージを送りました。元義母は「私のほうこそ、ごめんなさい。そして、息子のことも本当にごめんなさい。どうか、幸せになってね」と返してきました。今回のことで義母は義母なりに反省し、変わろうとしているのかなと感じました。ただ、それ以降、義母とやり取りはしていません。
裏切られた過去は消えないけれど、今回の経験があったからこそ、私は強くなれました。これからは、誰かに振り回されるのではなく、自分の気持ちを大切にして生きていきたい。もしまた誰かと人生を共にすることがあるなら、今度こそ、本当の意味で対等な関係を築きたいと思っています。
【取材時期:2025年4月】
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。