お互いにストレスとなるのなら、夫が不在の間、私は実家に戻り、ひとり暮らしの父の面倒を見たいと思いました。
父は数年前に大病をして、体力がだいぶ落ちてしまっています。身の回りのことを手伝ってあげたいと前々から思っていましたが、なかなか機会がありませんでした。夫が出張中の今は絶好のタイミングではないかと思い、義母に相談したのですが……。
「結婚したら嫁は嫁ぎ先の人間になるのよ!」「いつまでも実家に甘えないの」「嫁いだら親はもう他人よ」などと、辛らつな言葉を浴びせられました。
そして義母は、「これからもあなたの父親はひとりで生きていかなければならないのだから、何でも自分でやらせればいいのよ。甘やかすな」とまで。義母自身は、何でも私にやらせるのに……。
私が実家に帰ることは許されず、夫が長期出張に出かけ、義父母との3人暮らしがスタートしました。毎日、義母からはいびられ、義父からは家政婦のようにこき使われ、週末に実家の父の様子を見に行くことさえも許されない生活です。
病院嫌いの義父の健康が心配…
私の父に比べ、義父母は元気そのもの。よく食べて、足腰もしっかりしています。しかし、義父は病院嫌いで健康診断にも行かないので、少し心配。それに義父は、毎晩つぶれるまでお酒を飲みます。ひどい扱いをされているとはいえ、私は義父の健康が心配で……。
夫が出張に出かけて、そろそろ半年。義父母との3人暮らしも、あと少しで終わります。相変わらず毎日こき使われ、無茶なお願いばかりされている私。今日も、義父に「酒がなくなった! 今すぐ買ってこい!」と言われ、買い出しに行かされました。
そんな義父ですが、最近様子が変なのです。ときどき胸を押さえ、苦しそうな顔をしています。病院へ行ったほうがいいと私がどれだけ説得しても、「大したことはない」と言って病院へ行こうとしません。それならせめて、少しお酒を控えてはどうか……しかし私が何を言っても、突っぱねられてしまいます。
義父とそんなやり取りをした数日後、私の父から「体調を崩し発熱した」と連絡が入りました。高熱で動けないため、食べやすいものを買って届けてくれないかと父からお願いされ、私はすぐさま駆けつけようとしたのですが、またしても義母が許してくれません。
ただの風邪かもしれませんが、父のように病歴があり体力が落ちている人は、ただの風邪でもリスクが高いです。「もし今、私が帰らず父の身に何かあったら、お義母さんを一生恨みます」そこまで言ってやっと、義母は帰省を許可してくれました。
「姑を脅すなんて何という嫁なんだ」と嫌みを言われましたが、私にとって父は本当に大事な存在。私が幼いころに母が亡くなり、それからひとりで私を育て上げてくれた父。親孝行したいとずっと思っていたのです。
私は義父母に文句を言われないように、作り置きのおかずやお酒の買い出しなど、十分に準備をして実家に戻ることに。しかし、少し気がかりなことがあって……。
なかなか起きてこない義父
私が買い出しに出かけるとき、いつもなら起きてくる時間なのに、義父がまだ寝室から出てきていなかったのです。心配になり寝室を覗くと、まだ寝ていた義父。私は最近、義父の体調が気になっていたので、念のため消化の良い食べものや、すぐに食べられるゼリーなども用意しました。
そして家を出るとき、私は義母に「お義父さんが起きてきて、もし具合が悪そうだったら、無理にでも病院に行くよう勧めてください」と伝えました。
義母は軽く「二日酔いでしょ。放っておけば大丈夫よ」と言いましたが、私は「最近少し様子もおかしかったので、お義父さんを気にかけてあげてください」と何度も念押ししてから実家へ戻ったのです。
私が実家に戻って1週間。父の体調不良は長引きましたが、すぐに病院にも連れて行ったので、大事に至ることはなく回復しました。
「父親の看病でいつまで実家にいるつもり?」
「そこはもう他人の家なのよ?」
義母から帰宅を促す連絡がきました。私はいつ帰ってくるのかと、チクチクと嫌みを連発。どうやら義母は今、外出中のようで「荷物が重いし、帰りが遅くなるから、駅まで迎えにきて」と私に頼んできました。
「亡くなったので帰りますね」
私は、父の体調が回復していなくても、義母を迎えに行く必要がなくても、帰らなければいけない状況だったので、今まさに帰ろうとしていたタイミング。義母に「帰る」と伝えました。
「え?!」
義母は、私の父がただ風邪を引いただけと思い込んでいたので、「亡くなった」と聞き、ぼう然。しかし、すぐにいつもの調子を取り戻し、「最期に立ち会えて良かったじゃない。私が帰省を許してあげたおかげね」と言って、自分に感謝しろと言ってきました。
最期に立ち会えた……? 亡くなったのは、私の父ではなく義父。しかも義父はひとりぼっちで亡くなっていたのです。私は義母に「義父が亡くなった」と改めて伝えました。義母は、衝撃の事実に言葉を失っていましたが、でもどうして義父はひとりで……。
様子のおかしい義父を放置して義母は…
私が義母に尋ねると、なんと義母は、私が実家に戻ってすぐから義父を放置して、旅行に行っていたと言うのです。私があれだけ義父を気にかけてほしいと伝えていたのに……。
義父と約束があり、義実家を訪れた叔父が、すでに亡くなっていた義父を発見してくれました。インターホンを押しても、電話をかけても、呼びかけても反応がなく、留守なのかと思ったものの、玄関の鍵が開いていることに気づいて、中の様子を確認してくれたそう。叔父は義母にもさんざん電話したようですが、繋がらず、私に連絡をくれたのです。
私が叔父から聞いた事実を伝えると義母は、旅行中だったので叔父からの電話を無視したと言っていました。義母は出かけるときも、起きてこなかった義父に声もかけず、顔も見ずに出かけたそう。そして、まだ旅行先で、帰りは夜になると……。
叔父から連絡をもらってすぐ私は、夫にも連絡を取ったため、翌日には夫も一時帰国してくれることに。私は義実家に戻り、叔父に手伝ってもらいながらバタバタと葬儀の準備などを進めました。すると、夜になって義母が帰宅。それどころではなかったので、迎えには行きませんでした。気まずそうに帰ってきた義母に叔父は大激怒。
私は葬儀の準備を進めながら、「最近少し義父の様子がおかしかった」と、亡くなる前の様子を叔父に話していました。義母は私が義父を心配していることを知っていて、私の不在中に義父を放置して出かけたのですから、叔父が怒るのも当然です。
そして翌日、夫も帰国し義父のお通夜が執り行われました。親族たちは叔父から話を聞き、義母を責め立て……。夫も義母には心底失望しており、これを機に同居を解消し、義母とも縁を切ると言い出しました。それでも義母は「私は悪くない。反対を押し切って帰省したあなたのせいでしょ」と言い、義父が亡くなったのは私のせいだと反論。
義父の葬儀が無事に終わり、夫は再び出張先へ戻り、私はひと足さきに実家へ引っ越し。夫の提案で、夫の本帰国後は私の父と同居することになりました。そのため義母は、葬儀後から義実家でひとりさみしい生活を送ることに。
その後、夫が完全に帰国して、今は父と夫と私の3人で穏やかな毎日を過ごしています。
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少子高齢化が進む今、孤独死が問題となっていますが、家族がいても、寂しい最期を迎える場合もあるのですね。幸せな毎日は、健康あってこそです。日頃から体調に気をつけて、小さな体調の変化にも注意したいものです。気にかけてくれる家族の言葉を、素直に聞き入れて、家族のためにも健康でいたいですね。
【取材時期:2025年7月】
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。