子どもが嫌いだと言っていた弟夫婦。息子に心無い言葉をぶつけられるのが怖くて、私たちは弟夫婦とは距離を取っていました。
しかし、弟から突然怒りのメッセージが来たのです。
弟は「普通、子どもを預けるときは事前に一言あるもんだろ! うちの嫁に勝手に預けるなんてどういうことだよ!」と言っていました。
どうやら弟曰く、さきほどうちの夫が息子を連れてきて、庭で洗濯物を干していた弟の嫁、つまり義妹に、息子を託して去っていったと言うのです。
「なんで姉ちゃんから相談してくれなかったんだよ? いきなりすぎるだろ」「こっちにも都合があるんだけど」と弟。
私は頭が混乱していました。
義妹が預かった謎の男の子
「普通はもっと前もって確認やお願いをしておくべきだろ?」
「子どもを勝手に預けて夫婦で旅行に行くなんて…非常識だ!」
「今、息子なら新幹線で一緒だけど…?」
「え?」
うちの息子は私の隣でのんきに駅弁を食べていて、夫は預けに行っていないのです。
私はすぐに駅弁を食べている息子の写真を撮り、弟に送りました。
「え……? ちょっと待って、じゃあ、うちにいるこの子、いったい誰なんだよ?」と言う弟に、「こっちが聞きたいわよ……」と返した私。
「嫁が『お義姉さんとこの息子だ』って言うからてっきり……」と弟。弟は昨年は単身赴任していたり、今年も繁忙期で忙しくしていたりしたため、2年近く甥であるうちの息子に会っていません。そのため、顔がわからなかったのでしょう。
「その子、今どうしてるの?」と聞くと、「嫁と一緒にお菓子食べながら、仲良く遊んでる」と弟。私は「とりあえずその子に名前聞いてみて。彼女も誤解してるかもしれないし、私たちの息子は私たちと一緒に旅行に来てるって伝えて」と言うと、弟は「疑ってごめん、姉ちゃん。ありがとう!」と返してくれたので、私はほっと胸をなでおろしたのでした。
身勝手な義妹の言い分
その後すぐ――。
「お義姉さん、どうして察してくれなかったんですか? 女同士だからいろいろわかって話を合わせてくれると思ってたのに……」と義妹から連絡が。
「もしかして、私の子どもじゃないことをわかっていながら、うそついてその子を預かったの?」と聞いてみると、「そうです、あの子は今日一日、ほんのちょっと預かるだけだったのに……お義姉さんさえ協力してくれればこんな大事にはならなかったのに」と義妹。
「協力もなにもないでしょう。そもそも、いったいその子はどこの子なの? どうして本当のことを弟に伝えないの?」
「そ、それは……」と途端に歯切れが悪くなった義妹。「わざわざ私たちに濡れ衣を着せて、大事にしたくなかったなんて……これ以上状況が悪くなる前に、正直に話したほうがいいんじゃない?」と送ると、ようやく義妹は返信をよこしました。
「実はこの子……彼の、子どもなんです」「……私が付き合ってる人の、子どもってことです」
隣に座っていた息子が「お母さん、どうしたの?」と言うくらいに、私は驚いていました。「なんでもないよ~」とごまかしながら、私は「あなた、浮気していたのね」と送りました。
「彼、実は既婚者で……でも奥さんが彼にすごく冷たいみたいなんです! 彼、すごくつらそうで、いつも『癒されるのは君だけだ』って言ってくれて……」「彼、家庭では会話もないって言ってて……子どもにも無関心だし、ずっと孤独だったって。私も似たような気持ちを抱えてたから……」
私は思わずスマホを握る手に力が入りました。「……だからって、浮気していい理由になるの?」そう返信しながら、心の中ではため息が止まりませんでした。どれだけ都合よく物語を作って、自分を悲劇のヒロインに仕立て上げてるつもりなのか。人ひとりを巻き込んだことの重大さが、まるでわかっていないように感じたからです。
とはいえ、感情的になっても仕方がないので、私は気持ちを切り替えて、できるだけ冷静に問い直しました。
「……それで、どうしてその子を預かることになったの? そこが一番大事でしょ」
「彼の奥さん、今日急に出かけちゃったみたいで……でも彼も急に休日出勤しなきゃいけなくて、子どもだけが家に取り残されちゃうって言うから……」「私、困ってる彼を放っておけなくて……代わりに見てあげようって思ったんです」「お義姉さんの名前を出せば、夫にも疑われずに済むって思ってたのに……」
義妹が浮気をしていたこともショックでした。でも、それ以上に、自分の保身のために私と息子を巻き込み、何も知らない子どもまで利用したことが、どうしても許せなかったのです。
「自分の問題を隠すために、どうして私たちまで巻き込んだの? 正直に言ってくれてたら、まだ話し合いもできたかもしれないのに……」と聞くと、「私だって苦しいんです! 彼も大変で、子どもも見てあげたいけど夫に正直に話すわけにもいかないし……」「私の友人の子どもって言おうと思ったけど、夫も顔を知ってるし……」「それにお義姉さんだったらきっとわかってくれると思ったんです! 正直に話したんだから、これからは協力してくれますよね?」と義妹。
そういえば、以前、義妹に頼られて、義妹の嘘をかばったことがある私。義妹は、今回も私ならバラすことはないと思ったのかもしれません。ですが、義妹の言動にあきれてしまった私。
「全部あなたの自己保身のための言い訳じゃない……。私は、あなたに協力するつもりはない。あなたのうそには付き合いきれません」とだけ返信して、私はスマホの電源を切りました。
これ以上、楽しい旅を邪魔されたくなかったのです。
うそを重ねた義妹が受けた報い
宿に到着して夫と息子を温泉に送り出し、私は荷解きを終えてほっと一息ついていました。スマホの電源を入れると、そこには弟からすごい数のメッセージと着信が。何かあったのかと思い、すぐに弟に電話をかけると――。
「嫁から全部、話は聞いたよ! あの子、姉さんの浮気相手の子どもだったんだろ!」「普段は浮気相手が育ててるんだろ? でも浮気相手に急用ができて、姉ちゃんは家族旅行で……だからうちの嫁に頼んできたんだろ?」
そんなとんでもない話をでっちあげるなんて……。あきれて言葉も出ませんでした。
「……私がそんなことするって、本気で思ったの? それに、子どもが苦手って言ってたあんたたちに預けるなんて、冷静に考えたらおかしいでしょ?」「少しは冷静になりなさいよ……」
少しクールダウンしたのか、弟は「……いや、たしかに……姉ちゃんがそんなことするわけないって、どこかで思ってたんだよな……」「でも嫁があそこまで言うから……俺、頭がぐちゃぐちゃになって……」とつぶやいていました。
「その子、あなたのお嫁さんの、浮気相手の子どもだそうよ」
一瞬、怒りよりもあきれのほうが勝って、思わずため息が出ました。「まさかとは思ってたけど……ほんとに浮気だったのね」そうつぶやきながら、証拠としてメッセージをスクショし、弟に送りました。
「えええええ、ちょっと待って……」「俺、もう頭が真っ白でなにがなんだか……」と混乱している弟。弟はもともと単純なところがあり、義妹にベタ惚れで結婚したので……義妹の言うことを頭から信じ込んでしまったのでしょう。
「あなたも騙された被害者かもしれないけど、私は許さないからね。嫁の言葉を疑いもせずに鵜呑みにして、私を怒鳴りつけてくるなんて……せっかくの楽しい旅行が台無しになるとこだったわ」「でもまずやるべきことは、しっかり彼女の話を聞くことよ。何が本当か、ちゃんと自分自身で確かめなさい」
「ありがとう、姉ちゃん。俺、よく確かめもせず、怒鳴っちゃってごめん」と言って電話を切った弟。小さいころから変わらず、素直なのはとてもいいところなんですが……。
その30分後――。
私もそろそろ温泉に浸かりに行こうと支度していると、スマホの着信音が。今度は義妹から電話がかかってきたのです。
「どうして話合わせてくれなかったんですか! 私、さっき正直に話したのに!」と義妹。私は義妹に協力しない、ってはっきり言ったはずなのに……。
「私、『離婚する』って言われたんですよ? 全部お義姉さんのせいですからね!」「あのとき、お義姉さんの子どもだってことにしてくれてたら、こんなことにはならなかったのに!」と責任転嫁してきた義妹。
「バレなかったらよかったの? それで弟に隠れて浮気を続けるつもりだったの?」と聞くと、「ち、違います……私は、ちゃんとタイミングを見計らって……いつかは、けじめをつけるつもりで……」と義妹は口ごもりました。
「違うんなら、今弟と離婚しても問題ないんじゃない? その彼氏さんのことが大事なら、離婚して彼と正々堂々と付き合えばいいじゃないの」と言うと、「そんな簡単に言わないでください!」「彼のほうも奥さんと離婚してもらわなきゃいけないし……だから、今はそのタイミングじゃないの!」と義妹は逆ギレ。
つまり、浮気相手が離婚するまで、弟を都合のいい夫としてキープしておきたいということなのでしょう。どこまで自分勝手なんだか……。
「だいたい、そういう浮気する男って、奥さんと離婚する気なんて1mmもないものよ」と言うと、「そんなこと言わないで! 彼は『奥さんとはとっくに冷めてる』って言ってたし、『お前と一緒になりたい』って毎日言ってくれてるの! その辺の浮気男と一緒にしないでください!」と義妹。
そう言って一方的に電話を切ってしまったのでした。
1時間後――。
再び義妹から電話がかかってきました。さっきまでの威勢はどこへやら、「お義姉さん、どうしよう……」と憔悴しきった声。
「彼に、浮気がバレたことを話して、『奥さんと別れて一緒になってほしい』って送ったんです……そしたら、『ごめん、そういうつもりじゃなかった』『妻と別れるつもりはない、最初から割り切った関係だと思ってた』って……」
案の定、義妹の浮気相手は、私の想像したとおりの人物だったようです。
「だから、私……夫にもさっき、泣いて謝ったんです。浮気もうそついたことも、全部反省してるって……でも、許してくれなかった。『もう無理、信用できない』って……」
さすがの弟も、今回ばかりは義妹を許せなかったようでした。
「うそをついたことは謝ります。だから……お願いです! お義姉さんから夫に、私のこと、許すように言ってくれませんか……? 夫に『ちょっと冷たくしすぎたかもね』って言ってくれたら、少しは気持ちが変わるかもしれないし……」と義妹。私は思わずずっこけそうになりました。
「……自分がどれだけひどいことしたか、本当にわかってる? あなただけじゃなくて、私も、子どもも、あなたの夫も、関係ない男の子まで巻き込んで……それでもまだ、誰かに助けてほしいって言えるの?」
「そんな甘えた考えで、人生どうにかなると思わないで。私はもう二度と巻き込まれたくないわ」
「え……謝ったのに……許してくれないんですか?」と義妹。まだ義妹は自分の罪の重さを自覚していないようでした。
その後――。
弟が男の子に名前や通っている学校を聞き出し、なんとか連絡がついたそうです。ほどなくして「家の人」――男の子の祖母らしき人が迎えに来て、男の子は安心したように笑って帰っていったと弟から聞きました。
浮気相手に捨てられた義妹は、弟と離婚することになりました。居場所をなくした元義妹は、実家へ戻り、家業の手伝いをしながら弟へ慰謝料を支払っています。今までうまく立ち回っているつもりだった元義妹も、ようやく現実の重さを知ったようです。恋も家庭も失い、噂を避けるように実家に引きこもっていると聞きました。弟に、「あんなことするんじゃなかった」と後悔の言葉を、いまさらこぼしたそうです。
後日、弟から改めて謝罪の連絡がありました。「本当にごめん。巻き込まれて迷惑をかけた」と言ってくれて、ようやく少し気が晴れた気がしました。せっかくの旅行は少し波乱があったけれど……家族の絆を感じるきっかけにもなった気がしています。今度はゆっくり、のんびりと、家族との時間を楽しみたいと思っています。弟も、今はひとりで静かに暮らしながら、少しずつ日常を取り戻しているようです。無理に励ましたりはしないけれど――姉として、そっと見守っていきたいと思っています。
【取材時期:2025年4月】
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。