ある日、いつも以上に浮かれて帰ってきた夫。昨夜、私が夫に話した犬のしつけに関する知識を、そのまま職場で披露したそうで、女性社員に博識だとほめられたことがうれしかったようです。
犬の飼育経験なんて1度もないくせに……私は、夫の話を聞きながら、内心ではイライラ。
夫がトラブルを起こさないか心配…
小さな家族を迎え、育てるということは、そう簡単なことではありません。夫には、経験がないのなら、あまり軽々しくそういう話はしないほうがいいとアドバイスしました。
始めはキョトンとしていた夫でしたが、そのうち、自分も詳しくなってきたし、知っていることを知人に話して助けてあげたいと思うのは悪いことじゃないと食ってかかってきたのです。又聞きの話を、誰かに適当に教えないといいのですが……。
私の実家は、動物大好き一家です。父は訓練士として、母は保護センターに長年勤めています。そのため、私が動物たちのためになる仕事を選んだのも、とても自然なことでした。動物のお世話が当たり前のような日常でしたし、そのころの経験が今の私の原点になっています。
命を預かる覚悟も、子どものころに叩きこまれました。実際に育てるのは、見聞きしたこととは大きく違うため、私は夫がにわか博士気取りでいるのが、気になるのかもしれません。
私が心配しすぎているのだけなのかも……そう思って、最近の夫のことを両親に相談すると、調子に乗ってトラブルを起こさないかとやはり両親も心配していました。
そして数日後、その不安が現実になってしまったのです。
勝手に大型犬2匹を預かってきた夫
帰宅すると、2匹の大型犬がわが家に。旅行に行く会社の同僚に頼まれて、1週間預かることにしたと言う夫。「頼まれちゃってさ」ニヤニヤして、まんざらでもない顔をします。飼い主は、以前話題にのぼった女性社員。ほめられたと言って、夫が浮かれていた、あの人物です。
夫は私に何の相談もなく、勝手に預かってきたのです。私ならきっと2つ返事でOKだと思ったと言われ、私は頭の中が真っ白になりました。穏やかな性格の犬種ではありますが、大型犬を2匹も同時に預かるなんて、そんな簡単な話ではありません。
生活環境が変わることは、犬に大きなストレスがかかります。ごはんは? 健康状態は? しつけはちゃんとされているの? 経験のない夫が2匹も同時に世話ができるの? 私が矢継ぎ早に尋ねると、夫はめんどくさそうな顔をして舌打ち。「うるさいなぁ〜お前の得意分野だろう? 世話はよろしくな!」と言われました。
初めから私に丸投げするつもりだったと言っているような夫の言動に、私があきれていると、「また俺の株が上がっちゃうなぁ~」と夫はニヤついています。もしかして飼い主の女性社員に下心でもあるのでは……そう疑いざるを得ませんでした。
ひとまず私は両親に応援を要請。電話をかけに部屋を出て、再び戻ると、2匹が走り回ってリビングはすでにぐっちゃぐちゃ。ぽかんとしている夫を見て、ため息をつく私。
しばらくすると、母と、父の知り合いであるベテランのドッグトレーナー2名がわが家に到着しました。「預かると言った人が、責任を持って世話をするのよ」と母が夫に詰め寄ると、目を丸くして驚く夫。ひとりで最後まで責任を果たしなさいと言われて、ぼう然としていました。
実際に動物を飼うということの大変さを学ぶいい機会です。2名のトレーナーさんが夫を指導してくれることになりました。私は2匹がいる間は、実家に帰ることに。
ふと目に入った夫のスマホ画面
家を出る直前、夫がトレーナーさんの指示で2匹に集中しているとき、私は夫のスマホがトーク画面のまま置きっぱなしになっていることに気が付きました。スマホを見ると、トーク相手はやはり例の女性社員でした。どうやら夫は、食事に誘ったり、映画に誘ったり、しつこく言い寄っていたようです。
さらに、夫は犬の世話を交換条件に、関係を迫るようなメッセージも送っていました。夫はなんとか気を引くため、私から犬の飼育に関する知識を聞き出してはそれを披露し、2匹の預かりも自ら提案していたのでした。
衝撃の事実を知ってしまい、動揺しましたが問い詰める気にもならず、その日は何も言わず家を出た私。それから数日、ひとりで考えて私は離婚を決意しました。
2匹の預かり期間を終えて私が自宅に戻ると、地獄絵図のように荒れ果てた部屋で、疲労困憊といった様子で夫がうなだれていました。私の顔を見るなり夫は、飛びついてきて泣き言の嵐。私はそれを制し、静かに話を切り出し、「離婚しましょう」と告げ、離婚届を突きつけました。
「嘘だろ……」そう言って夫は膝から崩れ落ち、離婚したくないと懇願してきましたが私の気持ちが変わることはありませんでした。
私の決意が揺るがないと諦めたのか、夫は泣く泣く離婚届にサイン。ほどなくして私たちは離婚。その後の夫は、それまで以上にしつこく意中の女性社員に言い寄るようになったそうです。それが社内で問題となり、会社に居づらくなって退職したと、義両親から聞きました。
一方私は、実家に戻り、両親と2匹の保護犬たちと幸せに暮らしています。
◇ ◇ ◇
人の命も小さな家族の命も、同じ命です。無責任なことはしてはいけません。関わるのなら、しっかりと責任を持って動物と向き合い、幸せな共生を目指して、楽しい毎日を過ごしたいものですね。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。