「お兄ちゃんたちとは違って、私たちは大学も出させてもらってるし……ほかのゲストも士業だったり、お医者さんだったりするから、気を遣わせちゃうかなって思って」「ちょっとフォーマルすぎる式になりそうだから、また別のときに……内輪でお祝いしてほしいな」と言ってきた義妹。
私たち夫婦は高卒で自営業。義妹とその婚約者は大卒で、それぞれ地元では名の知れた企業に勤めていました。
学歴や肩書で人を判断する傾向が強かった義妹。もともと私とは価値観が合わないと感じていました。でもまさか、遠回しとはいえ、「結婚式に来ないでほしい」と言われるなんて……。
義妹の結婚式についての夫婦での話し合い
義妹との電話を切ったあと、しばらく私はショックで呆然としていました。夫に言ったら悲しませてしまう……と思いましたが、義妹の結婚式は翌月に迫っています。
夕飯のあとも気持ちが落ち着かず、私は迷いながらも夫に義妹からの連絡内容を話しました。
「おー、結婚式についての連絡か? なんて言ってた?」と夫。私は目を伏せて、義妹の言葉をそのまま夫に伝えました。
「……それって、俺たちに来るなって言いたいのかな? 俺はできれば出たいと思っていたけど」と夫。夫はまだ義妹の言葉の真意には気づいていないようでした。
「でも、招待状は送られてきてたし……新郎のほうからも『結婚式、ぜひ来てくださいね!』ってメッセージが来てたんだよな……」「結婚式でいちゃいちゃするのを家族に見られるのが恥ずかしいだけかもしれないし、とりあえず行く方向で」
夫の言うとおり、招待状は送られてきていましたし、私たちは出席で返信していました。翌月に控えた結婚式の参加人数を変更するのも手間でしょう。私は一抹の不安を抱えながらも、夫にうなずいてみせたのでした。
きっと、結婚式に行ってしまえばなんとかなる……。夫も近くで義妹をお祝いできるし、すべて丸く収まるはず……。しかし、そんな考えは甘かったと、私は思い知ることになるのです。
結婚式に来た兄夫婦を追い返した義妹
そして、結婚式当日――。
私たちは結婚式にふさわしい格好をして、結婚式場にタクシーで向かいました。夫が式場スタッフさんに「新婦の家族です」と言うと、新婦家族控室に通してくれることに。義母と義父は違うところにいるのか、その部屋には私たち夫婦2人のみでした。そのスタッフさんは、「新婦にお兄様夫婦のご到着をお知らせしておきますね」と言って退室しました。
しばらくすると、控室のドアが勢いよく開かれました。
「なんでお兄ちゃんたちがここにいるのよ!?」
ドアのところには、血相を変えた義妹がいました。
「私、今日の結婚式への出席は控えてほしいって言ったでしょ!? もしかして、あれだけ言ってもわからなかったの?」と義妹。やっぱり、義妹は私たちに来てほしくなかったんだ……と私は再びショックを受けてしましました。
「俺たちは、妹の晴れ姿を見たくて来たんだ。それなのに……そんな言い方はあんまりじゃないか?」と静かに言った夫。すると、義妹は「お兄ちゃんたちは高卒だし、冴えない自営業じゃない! そんな人たちがいたら場違いになっちゃう」「私の上司や同僚だって来るのよ!? お兄ちゃんたちがいたら私がこれから周りからどんな目で見られるか……! お願いだから、誰かに見られる前に、今すぐ帰って!」と言ってきたのです。
私はどうしても我慢ができず、思わず「何も知らないのね…」と返しました。
「は?」と驚きつつもどこか強気な義妹に説明しようとしたところ、「俺に話させてくれ」と夫が口を挟んできました。
「俺たちがいることがお前のためにならないなら……今後の取引についても考えさせてもらう。今までは家族だからと思っていろいろ融通利かせていたけど、今後は自分の会社の利益を優先することにするよ」
そう言って、控室をあとにした夫。私もそれに続こうとすると、義妹は「待ってよ! 取引とか融通とか、何の話? なんでここでそんな話するのよ」と戸惑ったように呼び止めてきました。
「……まさか、あなたの勤めてる会社が、うちの繊維にどれだけ依存してるか……知らなかったの?」と私が言うと、義妹は「え?」ときょとんとしていました。
義妹が勤めている会社の製品のほとんどは、私たちの会社の繊維がなければできないもの。資金繰りが悪化していたその企業に対して、「妹がお世話になっているから」と言って、夫は破格の値段で繊維を卸していたのです。
「さすがにあなたの態度だけで取引を即中止ってことはしないと思うけど……でも、前々からこの取引は見直すべきだって夫と話し合ってたの」と言うと、義妹は真っ青になっていました。
「ちょ、ちょっと言い過ぎちゃったかな……? ねぇ……もしかして、お兄ちゃんの会社って、うちの社長とかとも面識あるの……?」と震える声で聞いてきた義妹。
「もちろんあるわ。でも、正直、今の気持ちじゃお祝いなんてできない。また落ち着いたら話しましょう」とだけ言って、私は夫のあとを追ったのでした。
兄夫婦を見下していた義妹の末路
帰りのタクシーのなかで、夫はしばらく無言でした。しかし、しばらくして「……まさか、妹にあんなことを言われるとは思わなかった」「今後の付き合いは考える……妹夫婦とも、妹の会社とも」「だから君も……妹に無理に関わる必要はないからね」と言ってくれたのでした。
また、夫は帰る途中で新郎と出くわしたそうです。「来てくれてありがとうございます!」と満面の笑顔で言ってくれた新郎に、夫は「急用ができたので、妻と一緒に帰ります」とだけ言ったのだそう。新郎は「えええ! そんな!」と驚いていたそうですが、夫は本当のことを言って新郎を傷つけたくなかったのでしょう。
家に帰ってしばらくすると、夫のスマホに新郎からメッセージが届きました。「今日は本当に申し訳ありませんでした」から始まり、ずっと謝罪の言葉が連ねられていました。
ドアが開いたままの新婦家族控室で、真っ青になっている義妹を発見した新郎。何があったのかと聞くと、義妹は「お兄ちゃんたちが帰っちゃった……」と言ったそうです。「急用ができたって聞いたよ」と新郎が言うと、「そっか! 急用ね! そうだよね、お兄ちゃんたちはこの式にそぐわないもん!」と義妹は笑ったそう。
不審に思った新郎が問い詰めると、ようやく義妹は私たちを追い返したことを白状したそう。「だって、あなたのほうのゲストと釣り合わないじゃない! みんな大卒だし、しっかりした企業に務めてたり、お医者さんだったり! 私なりに私たちのこれからを考えて、お兄ちゃんたちには帰ってもらったの!」「お兄ちゃんたちにはまた別にお祝いしてもらえばいいじゃない!」と言った義妹に、新郎はびっくりしてしまったそう。
「結婚式は僕の体調不良ということにして中止にしました。籍はまだ入れていないので……いったん冷静になってから、今後のことをじっくり話し合おうと思います」という言葉で、メッセージは終わっていました。
その後――。
義妹の結婚は破談となりました。
義妹は泣いて謝罪し、婚約者にすがったそうですが、彼は「結婚は信頼の上に成り立つもの」と言い、どうしても義妹の言動を許せなかったそうです。結局、籍を入れる前でよかったと、彼は静かに式場をあとにしたと聞きました。
一方、私たちも義妹が勤務していた会社との取引について、正式に見直しを勧めることに。「段階的に価格を戻し、いずれは正規料金での供給に切り替える」と提案しましたが、先方は難色を示しました。夫は「これ以上は無理だな」とその場で契約の終了を決断。「今後は他者からの調達をご検討ください」とだけ告げて席を立ちました。それから数カ月後、義妹の勤め先は経営難で人員整理を始めたと聞きました。
義妹がどうなったのか、私たちは詳しくは知りません。彼女が反省していようと、していまいと、今の私たちには関係のないこと。あの一件で、私たちが無理して関係を保とうとする必要はなかったのだと、ようやく心から納得できました。夫も「もう妹のことは気にしなくていい」と背中を押してくれたので、私は義妹の連絡先をブロックすることに。
今は、新たに始めた事業プランを夫婦で形にしていく日々です。小さな会社ではありますが、信頼できる人達と誠実な仕事を積み重ねていけることに、心から喜びを感じています。肩書や学歴よりも、私たちはまっとくに生きていく姿勢を大切にしようと、改めて夫と話をしました。今後ますます大きく発展させていけるよう、夫婦二人三脚で、じっくりと、前を向いて歩んでいこうと思っています。
【取材時期:2025年4月】
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
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