「実は……浮気相手が妊娠したんだ。だから離婚してくれ……!」
「離婚届はもうそっちに送っておいたから!」
「離婚? するわけないじゃんw」
「え?」
まさか……というショックと、やっぱり……という謎の納得感で、思わず軽口をたたくように拒否してしまった私。でも、そうでもしないと心がちぎれてしまいそうだったのです。
私の言葉に驚いていた夫。「浮気してたのに、俺と、離婚してくれないの……?」と聞いてきたので、私は動揺はしていたものの、「うん、だって離婚したくないから!」と返したのでした。本当は、頭が真っ白で何も考えることができなくなった私。でもただ、なんだかここで取り乱すと私が負けたことになる気がしたのです。
夫とやり取りを終えたあと、ショックと共に「これからどうしよう……」と不安から涙があふれてきました。そこに、追い打ちをかけるように知らない番号から電話がかかってきたのです……。
離婚を迫る浮気相手と突っぱねる本妻
「なんで彼と離婚してくれないんですか?」と電話をかけてきたのは、夫の浮気相手を名乗る女性でした。浮気相手が堂々と私に連絡してくるなんて……さすが不倫する非常識な女性だなと思いつつ、直接話せる機会もなかなかないと思い、私は通話終了ボタンの上に置きかけた親指をどけました。
「どうしてって……離婚したくないから、ですけど」と答えると、「え? まさか本当に離婚しない気ですか? ……ちょっと、空気読んでくれないと困るんですけど」「こっちは妊娠してるんですよ!」と早口で言ってきた彼女。どうやら焦っているようです。
「人の夫に手を出して、よくそんなことが言えますね」「それに夫婦の両方が離婚に同意しなければ、離婚届を提出できないのはご存知ですよね?」と言うと、「何なの? 妻だからって調子に乗らないでくれます?」「っていうか離婚を拒否して、できる限り私たちからお金を巻き上げようとでもしてるんですか」と彼女は言い返してきました。
「私も働いてますし、お金が欲しいわけじゃありません。でも、あなたたちのしたことに対しては、きちんと責任は取ってもらうつもりです。慰謝料もその一つですね」と伝えると、彼女は食い気味に「じゃあ、私の全貯金をあげるから!だから、あなたは身を引いてください!」と言ってきました。
「お金で解決しようとするなんて……。そんな都合のいい話、通用すると思わないでください」と静かに言うと「どうせ慰謝料請求するんでしょ? だったら、私の貯金30万、払えばいいんでしょ!」と開き直り気味に返してきました。
「……慰謝料としては、ゼロがひとつ足りないと思います。それだけで済むと思ってるなら、本当に自分たちのしたことの重さを理解していない証拠ですね」と伝えると、彼女はいらだちを隠せない様子で電話を一方的に切ってしまいました。
荷物をまとめて家を出て行った夫
1週間後――。
家に帰ると、なにやら物音が。おそるおそる近づいてみると……夫が帰ってきていました。どうやら荷物をまとめているようです。
「やっと帰ってきたか! 俺はもう一生この家には帰ってこない……彼女と一緒に暮らすからな」と振り向きもせず言ってきた夫。
「書類上はお前の夫でも、もう俺はいないし、荷物も全部なくなる。……さみしいだろ? こんなみじめな状況、耐えられるか? これ以上自分が傷つく前に、早く離婚届を出したらどうだ?」
私はそれには答えずに、「本当に全部、持っていくの? すごい量だけど……」と聞きました。
夫は食い気味に「もちろんだ! まさか……お前、俺の私物を捨てたりとかしてないだろうな?」とすごんできました。
実は、夫は重度の収集癖のあるコレクター。自分のお金で楽しんでいるので文句は言いませんでしたが、そのフィギュアやグッズはリビングやキッチン、寝室までびっしり置かれていたのです。
「夫の趣味のコレクションを勝手に捨てるなんて、そんなこと私はしないわ。価値のある品もあるって聞いたし……触るのも怖かったのよ」と言うと、夫は「よ、よかった……」と心からほっとした様子でした。
「……彼女は、この趣味のこと理解しているの?」と聞いてみると、夫はまた食い気味に「当然だ!」と言ってきました。
「俺、社内PCのデスクトップも好きな作品の画像にしてるんだけど、それを見て彼女が『私も小さいころ、お兄ちゃんと一緒に見てました!』って話しかけてきてくれたんだ」「そんなふうに話しかけてくれるなんて、俺の趣味に理解のある人じゃなきゃ無理だと思ってさ。おなかの子にもその魅力を伝えて、家族3人でイベントとか遠征とか行くんだ」と目をキラキラさせながら夢を語る夫。
たったそれだけで「理解がある」なんて思ってるの?と、思わず内心でため息が出ました。けれども今さら水を差す気にもなれず、「よかったね」とだけ口にした私。続けて「……離婚届のことだけど……やっぱり、気持ちの整理がついたら出すね」と言うと、夫は「ようやくその気になったか! じゃあ、近いうちによろしくな」「あれ……? でも急にどうしたんだ?」と不思議がりました。
私は「あなたの荷物、ずっと邪魔だったのよね。あなたと離婚したら、この荷物がなくなってスッキリすると思ったら、いま私、ちょっとうれしくなったの」「あなたにとってはお宝かもしれないけど、さすがにリビング、キッチン、寝室、トイレにもびっしり置かれていたら、落ち着かなかったのよ」
夫は「そんなことで離婚をあっさり……」「まぁいいや、離婚してくれるなら」
そうつぶやきながら荷物をまとめて出て行ってしまいました。
夫の荷物が一切なくなり、すっきりとした部屋。久々に見えた床もあります。軽く掃除機をかけ、拭き掃除をしてから、私は大の字でリビングの床に寝転がりました。いつの間にか私の頭も心も、すっきりとしていました。
理想とかけ離れた生活を送ることになった浮気相手と夫の後悔
翌日――。
その日は休みを取り、朝から用事を済ませに行った私。広々とした家に帰ったと同時に、浮気相手から電話がかかってきました。
「あの……嫌がらせですか? 彼の荷物が送られてくるって聞いてはいましたけど……この量はおかしいですよね?」と動揺している彼女。
「いえ、私は彼の荷物には一切触っていませんよ。荷物は夫1人で詰めてましたし……」と言うと、「え……本当に? 全部コレクショングッズとか、フィギュアとかなんですけど……」と彼女は引き気味。
「そちらに送ったのも彼の判断です」「でも、彼と一緒でそういうのが好きなんでしょ? 趣味を理解してくれる子だって夫は言ってたけど」と言うと、「それは……多少は理解はしてるつもりでしたけど、こんな大量にあるなんて聞いてません! これから子どものものもいろいろ増えていくのに、この家じゃおさまりきらない……」と彼女。
「夫は、あなたと生まれてくる子どもと一緒に、その趣味を楽しむんだって張り切って出て行きましたよ」「彼にとって大事なものらしいので、大切にしてあげてください」とだけ言って、私は彼女の反応を気にせず電話を切りました。
その3日後――。
「聞いてくれよ! あいつ、俺のコレクションたちを勝手に捨てやがった!」と夫から連絡が。
「えっ……でも、理解してくれてたんでしょ?」と聞くと、「そうなんだよ! 俺、ちゃんと自分のお宝のことも全部話していたんだ! ……それなのに、あいつ、『こんなに大量だとは思わなかった』『うちのスペースに入りきらないから捨てた』って言うんだよ!」「捨てられた中には、プレミア物もあったんだ! もう二度と手に入らない!」と夫は激昂。
「こうしちゃいられないから、とりあえず俺、残りのコレクションを持って、いったんそっちに戻るから!」と言ってきた夫に、私はびっくり。
「ふざけないで。自分で『もう戻らない』って言ったくせに」と言うと、「俺たち、まだ夫婦だろ?! 俺が家に戻ってなにが悪いんだよ」「お前、離婚だって最初は渋ってたぐらいなんだし、離婚はしたくなかったんだろ?」と夫。
「だって……3日前に、もう離婚届は提出したの。気持ちの整理がついたら出すって言ったでしょう? あなたも『近いうちに出せ』って言ってたじゃない」「この家は私名義で借りてるし、あなたに勝手に戻る権利はないわよ。慰謝料と財産分与は、いま弁護士さんにお願いしてるところだから……グッズたちはとりあえずレンタル倉庫かなにか借りて、避難させておいたらいいんじゃない?」
「離婚届を出した……? 慰謝料、財産分与……?」と夫は状況が飲み込めていないようでした。「どうして……? どうして……」とぽつぽつとつぶやく夫に私は答えず、電話を切りました。
その後――。
元夫と浮気相手はコレクショングッズをめぐり、大喧嘩。捨てられたもののなかにプレミアがあったことを知った浮気相手は「なら売ればよかった!」と叫んだそうで、ますます修羅場になったそう。この経緯を話してくれた元夫は、「こんなことなら浮気なんてするんじゃなかった」「いまからでもやり直せないか?」と憔悴しきったように言ってきましたが、復縁するつもりはありません。
私は弁護士に依頼して、元夫と浮気相手の両方に慰謝料を請求。元夫も浮気相手も、親御さんに借金をして私に一括で支払ってくれたので、私は今後一切関わるつもりはないことを告げたうえで2人の連絡先をすべてブロックしました。
今、元夫と浮気相手がどうしているかは知りません。ただ、生まれてくる子どもには罪はないので、もろもろ片付けていいお父さんとお母さんになってくれたらいいな、とは思っています。私はといえば、新しい生活にも少しずつ慣れ、仕事に打ち込める時間も増えてきました。あのころは「どうしてこんな目に」と泣いた夜もあったけれど、いまは「別れて正解だった」と胸を張って言える。これからは、自分のために、自分の人生を大事にしていきたいと思っています。
【取材時期:2025年4月】
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。