雨の中、ひとりで迎えを待ち続ける娘
その日、娘は隣の県で開かれた大会に出場していました。応援に駆けつけたかったのですが、同じ日に義母を病院に送らねばなりません。
夫は「母さんの杖で俺の車が傷ついたらどうする!」と言って送迎を断りました。そのため、私が義母を病院へ送迎し、夫に娘の送迎を任せることにしたのです。
娘の活躍を見られなかったのは残念でしたが、娘のチームは無事優勝したそう。「勝ったよ!」と連絡をもらって嬉しい気持ちでいました。
しかしその1時間後、娘は今にも泣きそうな声で電話をかけてきました。
「ママ……迎えに来られる?」と言う娘。今日娘を迎えにくるのは夫であることを娘は知っているはずです。それなのに、約束していた時間に夫は来ず、電話にも出なかったそう。先ほどやっと電話がつながったかと思うと、「友だちの車に乗せてもらえ」と言って電話を切られてしまったのだと言います。
しかし試合が終わってもう1時間も経っています。友だちは皆もう帰っており、公共交通機関で帰れるほどのお金も持ち合わせていません。
私は急いで義母を義実家に送り届け、そのまま娘を迎えに行くことにしました。「ファミレスで待ってなさい! ママ、すぐ行くからね!」というと、娘はようやく「ママ、ありがとう」と安堵したようでした。
娘を迎えに行かなかったワケ
娘と一緒に家に戻った私は、夫に詰め寄りました。しかし、夫は悪びれもせず「よく考えると、試合後の汗くさい娘を乗せたらシートににおいが移るかもしれないだろ?」と口にしました。
そもそも夫は「家族を乗せられるように、大きな車がいい!」と言って、今の車を購入しました。ゴルフ仲間たちには快く車を出すのに、家族を乗せないなんて本末転倒です。
それに、多感な時期の娘に「汗くさい」と言うなんて……。娘は明らかに傷ついた様子。「シャワー浴びてくる」と言って部屋から出て行ってしまいました。
友だちがみんな帰ってしまった中、ひとりで父親を待ち続けてどれほど不安だったでしょうか。夫は娘の気持ちもまるで理解しようとしません。
そんな夫の態度に、怒りを通り越して呆れ果ててしまった私。思えば、このころから夫に期待することはなくなっていたのかもしれません。
娘の晴れ舞台をドタキャンする夫
数カ月後、ついに娘の引退試合がやってきました。その日に向けて毎日頑張っていた娘に、夫は「絶対に応援に行く」と約束していたようです。しかし当日、会場に夫の姿はありませんでした。
どこにいるのか? と電話をかけると「ごめん、二日酔いだから無理……あとで見るから動画撮っておいて」と笑いながら言う夫。さすがの私も怒りを抑えきれず「今日が娘にとってどれだけ大事な日だか、わかってるの? それに、また娘との約束を破るの?」と言い返してしまいました。
小さな大会ではありましたが、娘のチームは優勝! 拍手を浴びながら、娘は私と夫の姿をきょろきょろと探していました。私が軽く手を挙げると「あっ!」と喜んだように目を見開いたのですが、隣に夫の姿がないことに気付いたのでしょう、すぐに悲しそうにうつむいたのです。
娘の優勝を報告するために夫に電話をかけ、「あなたは娘の気持ちを一度も考えたこと、ないのね」と言うと、夫は「優勝祝いにゲームでも買ってやるよ! 今日はケーキでも買ってやれば気が済むだろ? それに俺が応援に行こうが行かまいが結果は同じだ」と開き直りました。
娘も悲しかったと思いますが、私もとても悲しい気持ちになりました。
新しい一歩を踏み出した母娘と残された夫の末路
さらに、数週間後、その日は娘の誕生日でした。前日に「ちゃんとお祝いするからな!」と娘に言っていた夫。娘ももはや期待せず、「……うん、ありがとう」と答えていました。
そして娘の誕生日当日、夫は「ごめん、今日急に接待入っちゃって! 取引先の社長が来るからさ……俺の晩ごはんはいらないから!」と連絡してきたのです。
実は、去年も仕事を理由に、娘の誕生日祝いをドタキャンしていた夫。私も娘も「またか……」としか思えなくなっていました。
不満そうな私に夫は「俺は家族のために働いてるんだし、仕事を最優先して何が悪い! 誕生日なんて毎年あるだろ!」と言います。娘のことを軽んじる夫が許せなかった私は、その晩のうちに娘と相談して、ある決意をしました。
1人になった夫
その少し後、「お前たちどこにいる!? 荷物もなくなっているじゃないか!」と夫から連絡が入りました。私と娘は、その家にはもういません。
「どこって、親子で引っ越しだけど?」と答えた私に、「なんでだよ!」と夫は驚いていました。
ちょうど進路を考える時期だった娘。県外の強豪校への進学を迷っていました。そこで思い切って、近くに引っ越しをしようと提案すると、「挑戦したい」と心を決めたのです。
「荷物は少しずつ向こうに送っていたのに、気付かないなんて……。それだけ家族に関心がなかったってことだね」と言うと、夫は「事前に相談しないなんてありえない! 娘と話をさせてくれ」と論点をすりかえます。
夫の言い分を娘に伝え、電話を代わると「パパはいつも私の話を聞く時間を作ってくれなかったじゃん」と娘。「家にいてもスマホいじってて、話しかけても『あとにしろ』って言われるし、お休みの日に約束を取り付けてもすぐドタキャンされるし……私の話、まともに聞いてくれないパパに相談なんてできないでしょ?」と娘に言われ、夫は言葉を失ったようでした。
「私、もうパパには期待しないって決めてるから。これからはママと2人で頑張るから! パパはパパで頑張ってね!」娘は電話を切ったのでした。
たとえ心を入れ替えたとしても…
それ以来、夫は人が変わったかのようにこまめに連絡をし、記念日ごとに贈り物を送ってくるようになりました。しかし私たちにとっては後の祭り。今更夫を受け入れる気にはなりません。今、私は娘が成人になったときに夫と離婚しようと準備を進めています。
そして娘は無事希望していた高校に合格。部活を頑張っています。私の生きがいは娘の試合を応援すること。食事や送迎で娘を支える日々はとても充実しており、あのとき最高の決断をしたと思っています。
誰かがそばにいてくれる安心感は、時に自分の思うように動けない不自由さよりも、ずっと大きく、尊いものです。しかし一緒にいる時間が長くなるほど、その存在が当たり前になり、つい感謝や思いやりを後回しにしてしまうこともあるでしょう。
失ってからその価値に気付いても、過ぎた日々や積み重なった思いは二度と戻ってきません。だからこそ、今そばにいる人を大切にする――その小さな積み重ねこそが、何よりの宝物になるのです。
【取材時期:2025年7月】
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。