彼から交際を申し込まれ、私たちは順調に関係を育み、1年記念日にプロポーズを受けました。最高に幸せな瞬間でした。
いよいよ彼のご家族にあいさつをすることになり、私はとても緊張していました。幼いころに両親を亡くした彼は、祖母に育てられたそう。彼がこんなに素敵な人に成長したのは、きっとおばあ様のおかげなのでしょう。
私も祖父母が大好きで、結婚が決まったことも真っ先に報告しました。そのとき初めて知ったのですが、祖父母と彼のおばあ様はなんと知り合いだったのです。この偶然を運命のように感じ、祖父母は私たちのことを心から祝福し、応援してくれました。
執拗に私を敵視する彼の妹
そして迎えたあいさつ当日、彼の実家で笑顔で迎えてくれたおばあ様の傍らには、私を値踏みするように睨みつける女性がいました。その女性は、彼の妹でした。しばらくお茶を飲みながら歓談しましたが、妹はいちいちトゲのある言葉を挟んできます。彼が私の仕事ぶりを褒めると、「仕事ができるから何なの?」と真っ向から否定されてしまいました。
さらに妹は、彼より5つ歳上の私を「30過ぎのオバサン」と侮辱し、「仕事ばかりしているから、そんな歳になっちゃったのね」と嫌み。私は内心、憤りを覚えましたが、彼がきっとフォローしてくれるだろうと、平静を装いました。
しかし彼は、私をかばうどころか、気まずそうにうつむくだけ。そんな姿に、私は彼への気持ちが急速に冷めていくのを感じました。その後も妹の暴言は止まりません。「自分で婚期を逃したくせに、若い男を捕まえて結婚してもらおうなんてクズね! 結婚を迫られたお兄ちゃんがかわいそう!」などと、次から次へとひどい言葉が……。
すると彼は、「お茶が冷めちゃったから……」と言って、逃げるようにキッチンへお茶を淹れ直しに行ってしまいました。妹も彼に付いていき「ねぇ、お兄ちゃん! あんなオバサンと本当に結婚する気なの?」と言いながらキッチンへ。
そして、リビングでおばあ様と2人きりになった私。沈黙してしまい気まずさに困惑していると、キッチンから彼と妹の会話が漏れ聞こえてきたのです。妹に本当に私と結婚する気なのかと問い詰められ、彼は妹に……。
「仕事ができる彼女と結婚すれば俺の株が上がるし、貯金だって結構あるはずだろ? 若いってだけじゃ結婚相手として不安だし、彼女くらいがちょうどいいんだよ。それに彼女にとっても、若い俺と結婚できるのはラッキーだと思うし……」
妹に同調するかのような彼の本心を聞いて、私は心の底からあきれてしまい、この結婚はやめるべきだと確信しました。
彼の本音に絶望…助けてくれたのは?
「あんたたち、今すぐ出ていきなさい」
私が結婚をやめようと決意したそのとき、有無を言わせぬ強い口調でキッチンから帰ってきた2人を叱ったおばあ様。冷たい目で2人を睨みつけるおばあ様のただならぬ雰囲気に、彼も妹も慌てて取り繕おうとしますが、「黙りなさい」と一喝されました。
そして、おばあ様は深いため息をつき、「すべて私のせいね。育て方を間違えた」と悔やみ、ぽつりぽつりと昔話を始めたのです。おばあ様によると、私の祖母はかつての親友で、おばあ様のつらい時期を支えた恩人なのだそうです。
彼と妹のご両親が亡くなったとき、おばあ様もご主人を亡くしたばかりで、頼れる親戚もおらず、ひとりで孫たちを育てられるか不安だったと言います。そんな彼女に寄り添い、励ましたのが私の祖母でした。
おばあ様が困ったとき、私の祖母が彼と妹を預かってあげたこともあったのだとか。「あなたのおばあちゃんが応援してくれたおかげで私は、ひとりで孫たちを育てることができたのよ」と、おばあ様は涙ながらに語ってくれたのです。
そしておばあ様は涙を拭い、2人に向き直ると、静かに、しかし厳しく、「お前たちは、両親を亡くした寂しさから、2人で寄り添いすぎた」と話し始めました。彼は妹を過剰に甘やかし、妹はそんな彼を自分の所有物のように思うようになってしまったと、2人を諭すようにおばあ様は言います。
さらにおばあ様は、妹は自分より年上で、仕事もできるしっかりした私に、彼を盗られると感じ、嫉妬して無礼な態度を取ったのだろうと続けました。
やさしく、厳しいおばあ様の施し
恩人の孫娘である私に対し、侮辱的な態度をとった彼と彼の妹。おばあ様は、2人をゼロから育て直すことを決意しました。「自分たちで生活を立て直してみれば、少しは他人の苦労がわかる人間になるだろう」と、2人に家を出ていってもらうと宣言したのです。
彼と妹は必死に謝罪してきましたが、おばあ様が許しませんでした。もちろん、私も彼との婚約は白紙に戻しました。
それからしばらくして、おばあ様によって自立を促された彼と妹は家を探して、一人暮らしを始めたそうです。2人とも料理も掃除もままならず、初めての一人暮らしで苦労しているようです。
彼とはそれきりになりましたが、おばあ様とは今でも祖父母の家で時々会っています。「本当の孫娘にできなくて残念だった」と言われますが、おばあ様と友人としてお付き合いできるようになった今、私はとても幸せです。
◇ ◇ ◇
結婚前に相手の家族と会うことの重要性を改めて考えさせられますね。家族の前で見せる素顔にこそ、その人の本質が隠されているのかもしれません。つらい経験でしたが、祖父母世代から受け継がれてきた「徳」が、思わぬ形で救ってくれました。人とのつながりを大切にして、自分の周りの人へは、損得なしに思いやりを持って接したいですね。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。