役割の思い込みと“証拠”のブーメラン
異動後の夫は、帰宅すると靴を脱ぎ捨て、ソファに倒れ込むのが日課。私が夕方まで勤務し、帰宅後に炊事・洗濯・翌日の弁当の下ごしらえまで回していることには目もくれませんでした。
残業になると伝えた夜、玄関で靴を揃える私に夫が腕を組み「はぁ!? 結婚する前、家事頑張るって言っただろ!?安らげる家庭にしたいって言ってただろ! 証拠だってあるぞ!」と言い放ったのです。そして、「家事は私ががんばるね」と交際中に私が送ったメッセージのスクショを差し出してきたのです。私は対抗するように「体調不良や帰りが遅い日は、俺が夕飯やるよ」と結婚してすぐに夫自身が送ってきたメッセージを見せつけました。そして私は「これは、あなたの“証拠”。状況が変わったら分担も見直すって、話したよね?」と問いかけました。すると夫は視線をそらしそのまま時間が過ぎるのでした。
その日を境に、わざとため息や舌打ちをするようになった夫。私は言い争いを避け、冷蔵庫に家事カレンダーを貼り「残業日の夕食は夫担当・洗濯は曜日で分担・ゴミ出しは前夜に仕分けする」と家事担当の具体化をしました。 それでも夫は「今日は疲れてる」「俺の仕事は外で稼ぐこと」と言い何もせず……。私は自分を守るため、連絡内容と家事の実績をメモに残すようにしました。
嫌がらせのエスカレート
合意を貼り出した初週こそ静かでしたが、次第に夫の静かな抵抗が始まりました。食器は水に浸けず放置、洗濯かごは満杯でも知らん顔、ゴミ袋は口を結ばず台所に置きっぱなし……。私が残業の日「今夜はお願いね」とメッセージを送っても、返事は「既読」だけで何もしない日々が続きました。
そして数日後の仕事帰りの夜、玄関のドアを開けた瞬間に衝撃の光景が目に入りました。なんと床一面に空のペットボトルと缶。脱衣カゴの服はリビングの中央に山。ごみ箱の中身まで散乱していました。私があ然としていると夫が「お前、これ、片付けておけよ!」と命令口調で言うのです。私は「ちょっと!もしかして……わざと?」と尋ねました。すると夫は鼻で笑い、足で空き缶をコロンと転がし「ああ! ダメ嫁に制裁を与えたんだ! 家事をサボるなよ!」とひと言。
その瞬間、私の中で何かが壊れる音がしました……。私は何も言い返さず、荷物をまとめ実家へと向かいました。
家を出る決断、そして……
翌朝、私は離婚届を取りに役所へ行きました。そして、自宅に戻りテーブルの上に家事カレンダーと離婚届を置き「分担は状況に合わせて更新するもの。話し合いの余地がないなら、私は距離を取ります」と告げました。もちろん証拠を残すために録音をしながら……。
すると夫は「勝手に出て行ってこれかよ!出かけるならメシ作ってからにしろよ!……離婚だ!」と言い放ったのです。私はその言葉を待っていました……。「わかった。離婚しましょう」と短い返事をしました。まさか本当に離婚するだなんて思っていなかったのか焦る夫。そんな夫に「今、自分で離婚だって言ったよね?証拠だそうか?」と私が言うと渋々離婚届にサインをし、離婚が成立しました。
数カ月後、元夫から「家のことが回らない。やり直せないか」とメッセージが。私は「『離婚だ』って言ったあなたの“証拠”、残ってるよ」とひと言だけ送り返し画面を閉じました。私の穏やかで幸せな生活は続くのでした。
◇ ◇ ◇
結婚前の言葉は“永遠の契約”ではなく、生活が変われば一緒に更新する約束。 「証拠」は相手を縛るための縄ではなく、自分の心と暮らしを守る備えです。その積み重ねが、次の一歩になります。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。