その同級生からの連絡は、本当に突然でした。
彼女は、私が知る限り最も「陽」のオーラをまとっていて、明るく、華やかで、いつも人の輪の中心にいました。一方の私は、教室の隅で静かに過ごすのが好きな、いわゆる地味なタイプ。彼女の言葉は、ときに刃物のように私の心をチクリと刺すことがあり、正直なところ少し苦手でした。
そんな彼女からの第一声は、昔と変わらず無邪気さを装った、鋭いものだったのです……。
華やかな同級生からの、棘のある連絡
「ねぇ、結婚したって本当? しかも旦那さん、エリートってマジなの!?」
夫が高学歴であることは事実です。彼女は共通の友人から聞いたと言っていましたが……それにしてはやけに棘があるような声色でした。
「地味で目立たなかったあんたが、そんなエリートと結婚とか……なんの冗談かと思った! 正直、ムカつくを通り越して笑えるんだけど?」
私と夫は職場関係の集まりで出会いました。そんな馴れ初めを話してもなお、彼女から祝福の言葉が出ることはありませんでした。
「どう考えても不釣り合いでしょ? ねぇ、一度旦那さんを紹介してよ! 私なら、もっと彼を輝かせられると思うのよね〜♡」
高校時代と変わらず、私を見下す彼女。そして、冗談であってほしいひと言が、彼女の口から飛び出したのです。
「ていうか、奪うのとか面倒だから、差し出せよ」
さすがにその無神経さに言葉を失い、私は「もう話すことはない」と一方的に電話を切りました。このとき、私の心にあったのは怒りではなく、彼女の変わらない本質に対する諦めでした。
虚像の鎧をまとった夫
実はそのころ――私は夫との関係に、すでに見えない亀裂が走っているのを感じていました。
出会ったころ、私は彼を尊敬していました。彼は誠実で聡明で……そんなところに私は惹かれていたのです。
しかし、結婚生活が長くなるにつれ、学歴が夫の唯一のアイデンティティとなっていることが判明。夫は現実の自分を守るために、学歴を振りかざすようになっていったのです。
「後輩にメシ奢ったら小遣いなくなっちゃってさぁ。悪いけど、5万くらい追加でくれない?」
会社での評価が思うように上がらない焦りやストレスを、彼は後輩に奢ることで紛らわしていました。「高学歴の先輩」として尊敬される瞬間だけが、彼の心の拠り所になっているようでした。
家計が苦しいことを私が訴えても、夫はプライドを傷つけられたと逆上するばかり。
「は? なに上から語っちゃってんの? お前、平凡な大学じゃん? 俺とは格が違うんだよ!」
まるで別人のようになってしまった今の夫。私の愛情は日々の失望とともに、少しずつ、しかし確実に冷めていきました。
だからこそ、私は夫に最後通告をしたのです。「もう家計からはお小遣いは出せない。自分自身でなんとかして」と。
夫が怒鳴り散らす声を聞きながら、「やっぱり……もう限界だ」と感じた私。そして、静かに心を決めたのでした。
見栄とプライドを失った2人に突き付けられた現実
それから1カ月後――。
「あんたの旦那、いただいちゃいました~! ごめんね~」
同級生からのそんなメッセージは、私の心に波風を立てることはありませんでした。SNSで夫を見つけ、言葉巧みに近づいたという経緯を聞いても、不思議と悲しみや怒りは湧いてきません。そのくらい、私の夫への愛情は冷めきっていました。
むしろ、長年背負ってきた「見栄っ張りな夫」という重荷を、彼女が喜んで引き受けてくれたような、奇妙な解放感さえあったのです。
反応の薄い私に構わず、彼女は自慢話を続けて送ってきます。
「しかも彼って、年収3000万あるんだってね! 外資からもオファーが来てるんだって!」
その瞬間、私はすべてを察しました。
ああ、また夫は、得意の嘘で自分を大きく見せているのだ、と。そして同時に、私の心に小さな、しかし確固たる決意が芽生えました。
「遠慮なく、年収3,000万の旦那さん、もらうね!」
「私はこれからキラッキラな人生を楽しむんだから♡」
浮かれる彼女に対し、私は冷静に「どうぞ~」とだけ返しました。
すると「強がっちゃって」と彼女。私が無理しているように思えたようです。
私は、彼女に真実を告げませんでした。それは、単なる意地悪ではありません。散々私を見下し、人のものを平気で奪おうとした彼女には、自分自身で現実を知ってほしいと思ったからです。
私はただ静かに彼女が真実を知るときが来るのを待つことにしたのでした。
4カ月後――。
例の同級生から、入籍と妊娠というW報告の電話がありました。
「今はママとしての準備に忙しいの! マザーズバッグもハイブランドにしたし、ベビーカーは海外から取り寄せたのよ~」「産後はシッターも家事代行もフルでお願いするし、子どもには小さいうちから一流の教育を受けさせなきゃ!」
どうやらまだ彼女は真実を知らないようです。
ひとしきり彼女の幸せ自慢を聞き届けた後、私はやはり自分の口から告げることにしました。
「彼の年収、400万ちょっとなのに……大丈夫そう?」
電話の向こうの空気が、一瞬で凍りついたのがわかりました。
「どうせ、彼に『去年は3,000万だった』って言われたんでしょ? でもそれ、ぜ〜んぶ見栄張ったホラ話だよ?」
「はぁ? 何言ってるの?」と最初は聞く耳なしの様子でしたが、「嘘だと思うなら彼に確かめてみたら?」と私が冷静な態度を貫いたので、不安になった様子。次第に「え……嘘でしょ? そんな……」と取り乱し出しました。
そして「……だとしたら、なんで黙ってたのよ! 私がだまされてること気づいてたんでしょ!? なのに黙ってるなんてずるいよ!」と私を罵りました。
「ずるいって何が? 勝手に勝ち誇って私を見下してきたのは、そっちでしょ? しっかり現実と向き合ってね」
その後――。
「年収をバラしたな!」と元夫から逆ギレの電話がありましたが、あまりにもみっともない言い分に、私は先の結婚が間違いだったことを確信しました。
その数日後には同級生から「結婚祝いをくれないか」とあきれた連絡が。ようやく現実が見えてきたようですが、悲劇のヒロイン気取りで、私への謝罪はひと言もありませんでした。もちろん、結婚祝いを出すことはありません。
共通の友人からは、慣れない育児と経済的な困窮から常に2人は言い争っていると聞きました。元夫は相変わらず過去の栄光にすがり、同級生は理想とかけ離れた現実に苛立ち、産後すぐに働きに出たそう。
一方の私は、たくさん傷つきもしたけれど、ようやく本当の自分を取り戻せた気がしています。見栄やプライドにがんじがらめにされた元夫や同級生から解放された今、目の前の小さな幸せ一つひとつがとても愛おしく感じられます。
これからは虚像に惑わされず、人やものの本質を見抜く目を養っていこうと思います。
【取材時期:2025年7月】
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。