大企業からのクレーム電話。「訴えてやる!」の一点張り
ある日のお昼前、店の電話が鳴り響きました。相手は、いきなりすごい剣幕です。
「発注した部品がまだ届いてないのよ!今日の午前中に納品されなきゃ、うちのラインが止まるって言ったでしょ!」
部品なんて扱っていない僕が「うちは弁当屋ですが……」と伝えても、女性は聞く耳を持ちません。
「とぼけないで!〇〇工業さん、再三納期厳守を伝えましたよね?これ以上遅れるなら、損害賠償請求も辞さないから。」
完全に電話番号を間違えているようですが、何を言っても取り合ってもらえず、途方に暮れてしまいました。
「500人分のお弁当、届けましたが…」勘違いの真相
あまりに一方的なので、僕も少しカチンときていました。その時、ふと今朝の大口注文を思い出したのです。
「お客様、落ち着いて聞いてください。うちは〇〇工業ではなく、〇〇弁当です。実はついさっき、××ビルへ御社にご注文いただいた500人分のお弁当をお届けしたばかりなのですが……」
僕がそう伝えた瞬間、電話の向こうの怒声がピタリと止まりました。
「え……?お弁当…屋さん…?500人分……?」
聞こえてきたのは、さっきまでとは別人のようなか細い声。どうやら彼女は、自分がクレームを入れている相手が、まさに自分たちが食べる昼食を届けた業者だと気づいたようでした。
「も、申し訳ございません!本当に、なんて失礼なことを……」
女性はひたすら平謝り。聞けば、彼女は重要な商品の生産管理と、500人もの来客がある大規模イベントの主催を、急遽一人で引き継いだばかり。頭がパンク寸前で、部品を発注した「〇〇工業」と、弁当を頼んだ僕の店「〇〇弁当」の電話番号を間違えてしまったとのことでした。
心温まる対応が繋いだ縁
事情を聞き、僕のいら立ちはすっかり消えていました。
「そうでしたか。それは大変でしたね。一人でそんな大仕事を抱えていたら、誰だってそうなりますよ。どうか、ご自分を責めないでください」
僕がそう伝えると、受話器の向こうで女性が息をのむ気配がしました。
その日の夕方、彼女から再び電話がありました。今度はとても穏やかな声です。
「先ほどは、温かいお言葉をありがとうございました。あの後、あなたの言葉で冷静さを取り戻すことができ、無事に部品の問題も解決できました。それに、お弁当、イベントの参加者から大好評でした!」
そして、こう続けてくれました。
「あんなに失礼な電話をしたのに、優しく対応していただいて、本当に救われました。感謝のしるしと言っては何ですが、今後のイベントもぜひあなたの店にお願いさせてください」
この一件がきっかけとなり、今では彼女の部署は、僕の店一番の常連様です。
理不尽なことに直面しても、冷静さと誠実さを忘れずに対応すれば、思わぬところで幸運を運んできてくれるのかもしれません。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。