視界に入った少女の“ある仕草”に違和感が…
就活の帰り道に姪の誕生日プレゼントを買おうと、おもちゃ屋に立ち寄りました。売り場を見て回りながら「どんなおもちゃなら喜んでくれるかな」と思案していたときのこと。
服飾雑貨コーナーに移動すると、かわいいヘアゴムやカチューシャがたくさん並んでいました。そこで、妙に落ち着きなく辺りを見回す小学生くらいの女の子が目に入りました。心ここにあらずといった様子で、商品棚を見つめながら何度も周囲を確認しています。嫌な予感がして目で追っていると、その子が突然、ヘアゴムをポケットに入れようとしたのです。
「まずい!」と思った私は咄嗟に駆け寄り、その小さな手を掴みました。「お金を払っていないものをポケットに入れちゃいけない!」女の子はビクッと体を震わせました。近くにいた若い女性も驚いて振り向きました。
私が女性に事情を説明すると、女の子は私をにらみつけて「私は社長の娘なの!私を誰だと思ってるの?」と強気に言い返してきました。しかし私は冷静に「誰の娘かなんて関係ない。子どもでも、大人でも、お金を払わずに物を持ち帰れば犯罪なんだ」と言いました。その言葉に女の子は黙り込み、やがて「ごめんなさい」と小さくつぶやきました。
思いがけない展開から明かされた少女の境遇とは
女の子に付き添っていたという女性は、「本当にありがとうございます。気づいてくださらなければ大事になっていました」と頭を下げてくれました。ふと見ると、女の子はまだヘアゴムを握りしめています。きっと気に入っているのでしょう。そこで私は「そのヘアゴムは気に入ったんだろう?それなら俺が買ってあげるよ」と声をかけました。女の子は驚いたように目を見開き、そして少し照れたように「……ありがとう」と言いました。
その後、話の流れでテイクアウトのコーヒーをご馳走になることになり、一緒におもちゃ屋の隣にある公園へ向かいました。女の子はプレゼントしたヘアゴムで髪を結んでもらい、弾けるような笑顔を見せていました。「鬼ごっこしよう!」と誘われ、公園を走り回り、笑い声が響き渡る。先ほどの強がりな表情は消え、無邪気に笑う姿は普通の子どもそのものでした。
遊び疲れたベンチで休んでいると、女の子はポツリと「パパも一緒に遊んでくれたらいいのにな」と漏らしました。詳しく聞くと、母親はすでに亡くなり、父親は会社の社長で仕事一辺倒。家にはほとんど帰らず、代わりに社長秘書の女性(以降Aさん)が面倒を見てくれているというのです。「本当は寂しい」と小さくつぶやいた女の子を見て、胸が締め付けられました。きっと寂しさを埋めたくて、あんな行動をしてしまったのだと思います。
面接中に知らされた意外な事実に胸がざわつき…
数日後。私はとある企業の最終面接に臨みました。営業職への意欲を一生懸命に語っていると、社長が突然「娘が世話になったそうだね」と口にしました。「え?」と固まる私に、社長は「数日前に君がおもちゃ屋で会った女の子は、私の娘なんだ」と続けました。社長秘書のAさんが履歴書を見たときに“あのときの人”だと気づき、社長に伝えたのだそうです。頭が真っ白になり「これは落ちたかもしれない……」と冷や汗が止まりませんでした。
しかし社長は「娘を叱ってくれてありがとう」とほほ笑み、「彼を採用しよう」と言ったのです。思わず「本当によろしいのですか」と聞き返すと、「営業にかける熱意と準備した資料を評価している。実力も十分だ」と言ってくださり、胸の奥から熱いものがこみ上げました。
入社後、私は営業部に配属されましたが、直属の上司からは理不尽な扱いを受けました。どうやら、私のことがおもしろくない様子。膨大な仕事を無理な期限で押し付けられたり、契約直前に担当を奪われ成績を横取りされたり……。正直、心が折れそうになる日もありましたが、「ここで逃げたら成長できない」と自分を奮い立たせました。
そんな折、社長のお嬢さんのお世話をしている秘書のAさんと相談し、「父親の仕事ぶりを見せれば、子どもの気持ちも変わるのではないか」と話し合いました(公園で別れるときに連絡先を交換していたのです)。そして迎えた会社見学の日。社長のお嬢さんは働く父の姿を見て「パパ、かっこいい!」と目を輝かせ、私がパソコンに向かって作業する姿にも「お兄ちゃん、すごい!」と笑顔を見せてくれました。私は心の奥で、「これをきっかけに、良い方向へ変わってくれれば」と強く願いました。
嫌がらせを繰り返す上司。しかしついに…!?
ところがその日、嫌がらせをしてくる上司がまた仕掛けてきました。取引先の要望が急に変わったと嘘をつき、大量の資料修正を押し付けてきたのです。しかし私は事前に想定を織り込み、いくつものパターンを準備していたため、あっという間に修正を終えることができました。社長が見守る前で成果を示すと、上司は顔を引きつらせていました。
さらに私は、これまで横取りされた契約の証拠を提示しました。「上司は契約直前で担当を奪い、自分の成果にしていました」と告げると、社長の表情は険しくなりました。上司は青ざめて言葉を失い、居合わせた社員たちもざわめきました。私は心の中で「やっと正義が通った」とスカッとしました。
結局、上司は降格になり会社を去りました。私は主任に昇格し、仕事に打ち込む日々を送っています。Aさんから「最近、お嬢さんは社長と話す時間が増えて、一緒にごはんを食べる日も多くなりました。以前より笑顔も増えています」と聞き、胸が熱くなりました。どうやら社長も、「娘のために自分の行動を改めよう」と考えたようです。
そしてある日、Aさんが「よかったらお礼に食事でも」と誘ってくれました。私は迷わず頷きました。社長のお嬢さんを救おうとした小さな行動が、社長との縁を生み、人生を大きく動かしたのです。あの日、勇気を出して行動して本当に良かった。そう実感しています。
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小さな子どもの行動の裏には、必ず「気持ち」や「理由」が隠れています。叱るだけでなく、その奥にある寂しさや不安に気づいてあげることが大切です。子どもが笑顔で過ごせるよう、心の機微に寄り添いながら見守っていきたいですね。
【取材時期:2025年9月】
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。