いつも誰かに支払いを頼むママ友
気の合うママ友たちと定期的に開いていたランチ会。毎回とても楽しみだったのですが、ひとりだけ、いつも会計時になると「ごめん、お金おろし忘れちゃった」「細かいの、今これしかなくて……」と言って、誰かに支払いを頼むAさんがいました。
悪気はないのかもしれない、そう思おうとしても、それが何度も続くと、さすがにみんなの表情も曇りがちに。実は私も、以前に2千円ほど立て替えたきり、返してもらえていませんでした。「あのときのお金……」と切り出すタイミングを逃し、金額が金額なだけに催促もしづらく、会うたびに心に小さなトゲが刺さっているような状態だったのです。
その日も、食事が終わってレジへ向かう途中、Aさんが申し訳なさそうに、でもどこかいつもの調子で言いました。
「あ、ごめん! 今日もお財布忘れてきちゃったみたいで……」
みんなが「またか……」と顔を見合わせ、空気が一瞬重くなった、そのときでした。メンバーの一人、Bさんが静かに、けれどはっきりとした口調で口を開いたのです。
「Aさん、それ、何回目かな? ごめんね、今回は私も出せないよ」
Bさんの毅然とした言葉に、その場はシン……と静まり返りました。まさに空気が凍りつく瞬間でした。
しかし、それは決して気まずいだけの沈黙ではありません。他のママたちも、次々とうなずいてBさんの言葉に続いたのです。それは、これまで誰もが心の中で思っていた「無言の同意」でした。
周囲の反応に、Aさんは顔を真っ赤にしてうつむき、何かを言いかけてはやめ、結局「……じゃあ、お金とってくる」と小さな声で呟いて、一人で店を出ていきました。どうやら車の中にランチ代程度の現金があったようで、5分ほどで駐車場から戻ってきて、会計を済ませていました。
その日を境に、Aさんがランチ会に顔を出すことはなくなりました。正直なところ、少しの気まずさと、ほんの少しの罪悪感がなかったわけではありません。けれど、それ以上に、心のどこかにずっと引っかかっていた棘が抜けたような、晴れやかな気持ちがあったのも事実です。
Aさんとは気まずい結末になりましたが、誰かが我慢し続ける関係はいつか壊れてしまうのだと痛感しました。あの時、一人の友人が見せてくれた勇気がなければ、私たちはきっと今もモヤモヤした気持ちを抱え続けていたはずです。ときには正直に伝えることが、自分と大切な場所を守るために必要なのだと学びました。
著者:中林ゆき/30代女性/小学3年と年長の姉妹を育てる母。人見知りしやすく、人付き合いは慎重派。
イラスト:きりぷち
※ベビーカレンダーが独自に実施したアンケートで集めた読者様の体験談をもとに記事化しています(回答時期:2025年7月)
【Amazonギフト券プレゼント♡】みなさまの体験談を募集しています!
妊娠中や子育て中のエピソードを大募集!「ベビーカレンダー」のニュース記事として配信、公開いたします。体験談を掲載させていただいた方の中から、抽選で毎月5名様に1000円分のAmazonギフト券をプレゼント。何度でも応募可能ですので、奮ってご応募ください♪どうぞよろしくお願いします!