社内の雰囲気が一変
長年会社を支えてきた社長と副社長が同時に定年退職することになり、一気に世代交代が進みました。新しく社長に就任したのは、前副社長の息子さんです。
もともと営業職だった彼は、社長就任後すぐに現場の仕事から離れてしまい、社内への関与も薄くなっていきました。その影響もあって、社内全体が少しずつギクシャクした雰囲気に……。
そんな折、社長の娘にあたるA子さんが入社してきました。A子さんは有名大学を卒業したばかりの23歳。初日から「荷物を持って」「駅まで送って」など、私用を当然のように頼んでくるなど、社員としての自覚に欠けた言動が目立ちました。さらに、業務中に関係ない動画を見たり、大きな音で音楽を流したりと、職場としての秩序を乱す行為も……。
そんな彼女の指導係に、私が任命されてしまったのです。私はできるだけ穏やかに、「社内で業務に集中できるよう、少し音を控えていただけますか?」と伝えつつ、少しでも改善してもらおうと試行錯誤を重ねました。
「時代遅れ」と言われて
ある日、注意をした際にA子さんから突然、強い言葉を投げかけられました。
「あなたのやり方は時代遅れすぎるの! ファックスなんてまだ使ってるんですか? ダサい!」
その翌日、社長が急に「紙の発注書やFAXを廃止し、今後はすべてデジタルで管理する」という新方針を発表。あまりにも急な変化に、私は戸惑いました。
「ペーパーレス化の考え方は理解しますが、取引先にはまだ紙でのやりとりを希望される方も多くいらっしゃいます。急にすべてをデジタル化すると、混乱が生じるのでは……」と意見を伝えましたが、聞き入れてもらえませんでした。
さらにA子さんと社長からは、非効率の象徴のように扱われ、社内で「今どきファックスなんてダサい!」などと強い言葉を浴びせられることもありました。それでも私は、取引先に迷惑をかけないよう、陰で紙の発注書を控えておき、連絡事項も丁寧にフォローしていました。
予期せぬトラブル
数日後、会社からFAX機能付きのコピー機が撤去されました。そしてさらに数日がたったある日、私が席を外している間に、A子さんが私のデスクに置いていた手書きの書類をシュレッダーにかけてしまったのです。
「A子さん! その書類は……!」
「パパが言っていたでしょ? これからは全部デジタルでやるんだから、紙の書類なんて不要なのよ!」
そのとき、私は冷静にこう言いました。
「わかりました。これからは、A子さんと社長の方針に従います」
内心では、最悪の事態に備えつつ、静かに行動を変えていく決意を固めていました。
逆転の瞬間
それから数週間後、主要取引先の工場長であるB山さんが慌てた様子で来社されました。
「発注書が届いていないんです! このままでは納期に間に合いません!」
実はこの取引先は、これまで私が担当していたのですが、デジタル化をきっかけにA子さんが担当に変更されていました。B山さんが説明を求めると、A子さんは慌ててパソコンを操作し始めましたが、「送信したはずなのにデータがない……」と混乱するばかり。
調べてみると、A子さんは確認を怠り、送信前のデータを誤って削除してしまっていたことが判明しました。その上、社内のデジタル化が急すぎて管理体制が整わず、混乱が生じていたのです。
B山さんは深いため息をつき、「どんな立場の人でも、仕事は仕事。責任を持って対応していただきたい。これでは、今後の取引をどうするか考えざるを得ません」と厳しい言葉を残して帰られました。
誠実さが一番
実はその日、私は念のため紙の発注書を控えておいたので、B山さんに渡すことができ、納期には何とか間に合わせることができました。A子さんはその後、会社を辞めることになり、社長も現場を見直すようになりました。
現在は、取引先の要望に合わせて紙とデジタルの両方で対応できる体制が整い、社内の雰囲気も落ち着きを取り戻しています。
今回の経験で、私は効率化も大切ですが、何より人との信頼関係や誠実な対応が土台になるのだと実感しました。
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会社で使用する紙を減らしてデジタル化することは、資源を大切にする上で有効な方法です。しかし、取引先や社員への影響を考えずに、ツールだけを急に変更してしまうと混乱を招きかねません。経営者にとっては、現場の声にしっかり耳を傾けることがいかに重要かを実感させられますね。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
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