定時で帰る僕
ある日、僕がいつも通りに仕事を終わらせて定時に上がろうとすると、課長のAさんが「もう帰るの?」と声をかけてきました。
Aさんは、最近僕たちの情報システム部にやってきた課長。今までいた部署では残業をしていた人が多かったようで、定時に上がる僕のことを本当に仕事が終わっているのかどうか不満に思っている様子でした。
僕はきちんと仕事を終えて、定時に上がっているので仕事を残しているわけではなく……。
Aさんに悪気があるわけではなく、情報システム部をよりよくしようと気合が入ってのことだというのはわかっていました。それでも、Aさんの気合の入り方に情報システム部のみんなはついていけていないみたいでした。
それは無理です!
僕たちの部署で新しいプロジェクトを立ち上げるためのメンバーが発表されたときのこと。Aさんが発表したチームメンバーはAさんと僕の2人でした。聞いていたプロジェクト的に、2人では進められそうな仕事量ではありません。そのため僕は、Aさんに「2人では絶対にできない仕事量です!」ということを訴えました。しかし「あなたはいつも定時で帰るし、仕事もできるイメージだから大丈夫でしょ」と言って、僕の言葉を聞き入れてくれませんでした。
数日後、Aさんは部長と今回のプロジェクトについて改めて話をしたようでした。そこで今回のプロジェクトが2人では難しく最低でも7人は必要だと話をされたよう。
そのせいか、Aさんは僕に「会議で話したプロジェクトのメンバーについてなんだけど…部長から仕事内容も詳しく聞いて、難しいってことがようやくわかった」と言って謝罪をしてくれました。「張り切りすぎていて、空回りしていた」とも言っていました。
Aさんからは、「謝罪も含めて、食事に行かない?」とのお誘いが。僕もAさんのことを知りたいと思ったので一緒にいくことにしました。
僕が早く帰りたい理由
食事先で、僕とAさんはお互いについていろいろ話をしました。Aさんは、僕が必ず定時で帰ることが気になっていたよう。僕のことをいろいろ聞いてきました。気づかって聞いてくれている様子で……彼女なりに僕のことを知りたいと思ってくれていたのかもしれません。そんな彼女を見て、僕は必ず定時で帰る理由を明かすことにしました。
僕がなるべく定時に帰りたいと思っていた理由は、母のためでした。
僕が幼いころから、父は朝早くから夜遅くまで働きづめでした。家に帰らないことも多く、若くして仕事に行ったまま事故で亡くなってしまいました。そのような経験もあってか、僕は残された母にさみしい思いをさせたくないという気持ちがありました。だからこそ、仕事を終わらせてなるべく早く帰宅するようにしていたのです。
Aさんはしんみりと僕の話を聞いてくれました。一方で、Aさんの父は転職を繰り返し、家族が苦労した過去があるとの話を聞きました。そのため、一生懸命仕事をして出世したい、と思っていたよう。
「だからって、部下にも残業してほしいと思うのは違うね。ごめんなさい」とAさん。部長や、僕の話を聞いて考えが変わったとのことでした。
良くなった職場環境
翌日、Aさんは新しいプロジェクトのチームメンバーを改めて発表。2人ではなく、8人で構成しなおしたようでした。
それから、情報システム部のメンバーの前でも「私は空回りしているところがあったと思います。これからは、言いたいことがあったら遠慮なく言ってくださいね」と言っていました。
柔らかい雰囲気になったAさんに、みんなも安堵した様子。これからは、今までよりも良い雰囲気で仕事ができそうです。
僕は、最初、Aさんを良く思っていませんでした。僕には僕のやり方があるのにと思っていたからです。しかし、それはAさんも同じ。AさんにはAさんの想いがあったのでした。必ず人に合わせる必要はないと思いますが、話を聞いて理解しようとすることはできるのかなと感じました。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
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