なぜ?守られなくなった約束
そのころ、夫は「仕事が落ち着いた」と言って帰宅が早い日が続いていたのですが、家に帰るなりゴロンと寝転がってゲームざんまい。夫が担当するはずのお風呂掃除は何日も放置され、トイレ掃除も洗濯も、結局見かねた私がやるしかありませんでした。
体調が悪いならわかりますが、ゲームをする時間はたっぷりある様子。
「どうしてやってくれないの?」
「んー? あとでやる」
そう言って、結局何もしてくれないのです。私の不満は日に日に募っていきました。
どうしたものかと思い悩み、実家の母に愚痴をこぼすと、「共働きなんだから、あなたに負担が偏るのはおかしいわ! もっとビシッと伝えないと!」と背中を押されました。
夫からの提案を受け入れることに…
母の言葉に勇気をもらい、私は夫にハッキリ不満を伝える覚悟を決めました。その夜、夫は案の定、ゲームをしながら部屋を散らかし放題。私はあきれてしまいました。
「ねえ、今日もお風呂掃除やってないよね?」
私が声をかけると、夫はゲームから目を離さず「あー? そうだっけ?」と面倒くさそうに返事をしてきました。
2人で決めた約束を破っていることを冷静に伝えると、夫は不機嫌そうに私をにらみつけ、こう言い放ったのです。
「うるさいな! 俺は外で働いて金稼いでるんだ。家の中でゆる〜く働いているお前には大変さがわからないだろうな。ラクしてるんだから、家事くらいやってくれよ」
在宅で仕事をする私を「ラクしている」と見下すような言葉にあぜん。夫の本音を知って、心底がっかりしました。
夫はニヤニヤしながら、こう続けます。
「文句があるなら、家事の分担、収入で決めようか? 稼いでるほうがエラいんだから、稼いでないほうが家事全部やれよ!」
夫は私が黙り込むとでも思ったのでしょう。しかし、私はその提案をのむことにしました。
「……いいよ、それで。じゃあ、今すぐ決めよう」
私が真顔でそう言うと、夫は「意味わかってんの?」と大笑いしましたが……本当に意味がわかっていないのは、夫のほうでした。
夫が知らなかった「格下」の妻の収入
私は自分の仕事部屋から、給与振込口座の通帳を持ってきました。
「はい、これ私の先月の入金。あなたの言う通り、収入で決めよう。あなたの給与明細も見せて」
夫の頭の中では、私の収入は独立当初の不安定な金額のまま止まっていたのでしょう。私がどれだけ努力してきたか、彼は知ろうともしなかったのです。
私が開いた通帳のページを見て、夫はその場で固まりました。そこには、100万円を超える入金額が記載されていたのです。
「悪いけど、あなたの月給の3倍以上は毎月稼いでる。あなたの理屈で言えば、明日から家事はすべてあなたがやることになるね」
夫は「な……なんで……」と顔面蒼白でした。
さらなる裏切りと自業自得の結末
収入の件で夫が言葉を失ったところで、私はもう一つの事実を突きつけました。
「それから、あなた不倫してるよね?」
実はその数週間ほど前から、夫の行動を注意深く見ていた私は、彼が放置したスマホに、女性から「早く会いたい」というメッセージが届いているのを見てしまっていたのです。
「証拠は全部そろってるから。覚悟してね」
私がそう言うと、夫はその場に崩れ落ちました。結果、家事分担どころの話ではなくなったのでした。
その後、私はすぐに弁護士を立て、浮気の証拠と共に離婚を突きつけました。
夫はゲームで知り合ったという不倫相手のことを本気で好きになったと言い、離婚にはすんなり同意。
問題は財産分与でした。婚姻期間中に私が稼いだ貯蓄は、原則として夫にも分配されます。しかし、夫には「不貞行為」という明確な落ち度がありました。
弁護士を介して夫に提示した条件は、こうです。
「不倫の慰謝料を請求しない代わりに、婚姻期間中の財産分与の権利を一切放棄すること」
夫は、私が高額の収入を得ていることを知り、財産分与でいくらか手に入るかもしれないと期待していたようです。しかし、それ以上に、早く不倫相手と一緒になりたかったのでしょう。夫は「慰謝料」と「財産分与」を天秤にかけた結果、驚くほどあっさりと私の条件を受け入れたのです。
こうして、私は自分の財産を守り切った上で、夫と離婚することができました。
その後の彼がどうしているか詳しくは知りません。ただ、共通の知人から「浮気相手と一緒になったものの、結局うまくいっていないらしい」「家事を全部押し付けられて苦労している」といった噂だけが、風の便りに聞こえてきます。
もちろん、離婚後も私の仕事は順調です。大変な時期もありましたが、今はスッキリとした気持ちで、次のキャリアアップを目指しています。
最初に決めた約束は、お互いが気持ちよく生活するためにあるものです。どちらか一方の甘えでそれを破れば、関係そのものが破綻してしまうのだと痛感した出来事でした。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。