彼に相談してみたものの、うなずいてはくれませんでした。彼は、なぜか私の上司を目の敵にしているのです。幼いころに両親を亡くした私にとって、上司は本当の姉のような存在。縁あって学生のころからの知り合いで、彼女に憧れて今の会社にも入社しました。
婚姻届の証人にもなってもらう予定で、先日3人で食事をしたのですが、彼は彼女のことを悪く言ってばかり。『ズケズケ言う、嫌みな独身ババァ』なんて言うのです。人には合う合わないがありますが、私の大好きで尊敬する人を侮辱するなんて……。悲しくなってしまいました。
私が離席したとき、彼女からずいぶんひどいことを言われたという彼。しかし、私は彼女ほど温かい人はいないと思うので、とても彼の話が信じがたいのですが、彼のことをまったく信じないわけにも……。
入籍したと勘違いした彼は…
そんなモヤモヤした気持ちを抱えたまま迎えた、婚姻届を提出する日を迎えました。しかし、彼は急な出張が入り、私ひとりで提出しに行くことになったのです。翌日、彼から「無事に入籍したか?」と確認の連絡が入りました。
なんとなく彼の言葉に引っかかりつつ、私が「提出はしたけど」とひと言返し、次の文章を入力していると、突然態度を豹変させてきた彼。妻になったのだから、「今日からタメ口は禁止な?」と言い出し……。
「旦那様の言うことは絶対だ!」
「今日からコキ使ってやる♪」
どういうことなのか、理解が追いつかない私。打っていた文章を消して、ひとまず事実を告げました。
「婚姻届ならまだ出してないけど……?」
実は、差し戻しになってしまったのです。もうひとりの証人である義父が、記入ミスをしていたため、提出はしたものの、受理してもらえていませんでした。
「え?」
彼の態度に強い違和感を覚え、問い詰めた私。「冗談だよ、ちょっとしたサプライズだよ」と言い、慌てている様子で数分前のメッセージを送信取り消しする彼。取り消したとしても、確実に読んでいますし、冗談なのだとしたら取り消す必要も……。
引っかかりはしたものの、彼のことが好きだった私。その日の夜、帰宅した彼と話すと、舞い上がってしまってつまらない冗談で私を傷つけてしまったととても反省してくれていました。改めて彼の気持ちを確かめ、婚姻届を新たに書いた私たち。
しかし、再び証人としてサインしてもらうことになった上司は、ちょうど海外へ長期出張中。彼女に記入してもらえるのは、4週間後です。その間、彼は心ここにあらずな様子で、いつもソワソワしていました。
彼にコントロールされていた私
ようやく4週間が経つと、上司にサインはもらえたかと、しつこく確認してくる彼。そこで私は、「書いてもらわないことにした」と伝えたのです。そう、結婚をやめることにしました。
表面上は、私にやさしく接してくれていた彼でしたが、思えば、いつも彼のペースだったと気づいたのです。付き合い始めてから、服もメイクも趣味も、すべてが変わってしまった私。
彼は直接強制はしないものの、私が好きな服を「似合わない」と言い、彼の好みではない服装で出かけたデートでは、終始不機嫌でした。間接的に彼好みにさせられていたのだと、気づきました。交友関係も彼と付き合ってから狭くなり、今では会社の人との関わりがわずかにあるのみ。その人たちのことすら、整理されそうになっていたのです。
実は、3人で食事をした日、ひどいことを言われたのは彼ではなく、彼女のほうでした。彼は、彼女が気にかけてくれることを私が迷惑に思っていると嘘をつき、私たちの関係にヒビを入れようと画策していたのです。3人で食事をした日の翌日に、上司からこの話を聞いた私は、どこか彼を信じきれずにいました。
それに、冗談だとは言っていましたが、彼が豹変した姿は、やはり衝撃的でした。反省していると言ってくれたので、もう一度、彼を信じたいという気持ちもありましたが……。
婚姻届を書き直したものの、どうしても不安が拭えず、上司の帰りを待つ間、私は興信所に彼の身辺調査を依頼し、調べてもらっていたのです。その結果、約3週間の調査を経て、とんでもない事実が発覚しました。なんと彼には、本命彼女がいて、その彼女を囲っていたのです。
私には自分の親と同居させようとしていましたが、彼女には部屋を借りてあげていて、そこに住まわせていました。会社に近いその部屋は、彼と本命彼女の愛の巣。私を親の世話をする嫁として仕事を辞めさせ、同居させ……自分は本命彼女との生活を楽しもうとしていたことがわかりました。
おぞましい彼の計画を知って…
私が調査報告書を突きつけると、いろいろと言い訳した末、最終的に浮気を認め、謝罪してきた彼。しかし、謝られても許す気にはなれません。
両親が他界している私は、結婚して同居させてしまえば帰る場所がない。簡単に離婚できない。そんな私の状況を利用し、コキ使おうと親子でたくらんでいたのです。私の交友関係を狭めて、逃げ道を少しずつ潰し、仕事を辞めさせたがったのもそのため……。
私は弁護士を立て、婚約破棄の話し合いを開始。慰謝料の支払いなどが決着したころ、彼らの愛の巣を突き止めた彼の両親は、私が使えなくなったため、今度は本命彼女をコキ使おうと、乗り込んだそうです。
後になって、面識のあった彼の知り合いと偶然街で会い、とんだ修羅場だったらしいと聞きました。結果、彼は本命彼女とも別れることになり、今はひとりで両親の生活を面倒を見ているのだとか。
当時はだいぶ落ち込みましたが、尊敬する上司がやはり支えになってくれて、今は好きな服を着て、疎遠だった友人たちとも会うようになって、自分らしく楽しい毎日を過ごしています。今私の周りにいてくれる、信頼できる人たちを大切にしていきたいと思っています。
◇ ◇ ◇
パートナーの言動に少しでも違和感を覚えたら、立ち止まる勇気が必要ですね。パートナーの交友関係の中に、自分とは相性が悪い人がいることだって十分あり得ることです。しかし、だからといって無理に関係を絶たせるような行為は常軌を逸しているのではないでしょうか。入籍してしまう前に、本性を見抜くことができて本当によかったですね。
【取材時期:2025年9月】
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。