「子どもができないのはお前のせいだろ?」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥がぎゅっと締めつけられました。不妊の原因は女性だけとは限らないと何度伝えても、夫は聞く耳を持たず、そのうち言い返す気力もなくなりました。
不妊の原因は、夫!?
それから夫は、飲み会や出張を理由に帰宅が遅くなり、家にいてもスマホをいじってばかり。私の存在など、見えていないようでした。話しかけても、そっけない返事をするだけ。そんな夫の背中を見ながら、少しずつ心が離れていくのを感じていました。
子どもができれば、何か変わるかもしれない……そう思った私は、私は不妊治療のクリニックを受診しました。検査の結果、私の体には何の問題もありませんでした。
「不妊の原因は、ご主人にあるかもしれません。一度検査にいらしてください」
医師の言葉を聞き、安堵と同時に、深い虚しさがこみ上げてきました。この事実を夫に伝えるべきか悩んで、ずっと言えずにいました。そんなある日、仕事から帰宅すると、見知らぬ若い女性が家にいました。夫は女性の腰に手を回し、冷たい目で私を見ながら言いました。
「俺は子ども欲しいから、離婚しようぜ! こいつと再婚して、子どもを産んでもらうから」
思わぬ事態に、一瞬息が止まりましたが、涙は出ませんでした。
――ああ、もうこの人のことを愛していない。
そう、静かに悟りました。
私は荷物をまとめて、実家へ帰ることにしました。
その後、離婚。夫の不倫が原因だったため、慰謝料もきちんと支払われました。
元夫と久しぶりに再会したら
離婚して間もなく、私は再び恋をしました。やさしくて誠実な人と出会い、再婚。まもなく、自然に子どもを授かりました。夫と娘、家族3人で過ごす毎日は穏やかで、静かな幸せに満ちています。小さな笑い声や寝息に包まれるたびに、過去の傷が少しずつ癒えていくのを感じました。
そんなある日、娘と散歩をしていると、道の向こうから見覚えのある姿が見えました。
すっかりやせこけて、別人のようにやつれた元夫でした。彼は私を見るなり近づいて来て「お前……その子、俺の子どもだろ? やり直そう!」と言いました。
「私、再婚したの。この子は今の夫との子だよ。あのとき医師に言われたのよ、私には問題ないって。不妊症の原因はあなただと思うよ」
彼の顔は一瞬で真っ青になりました。そのあと、ぶつぶつ独り言を言いながら、去って行きました。
あとから聞いたうわさによると元夫は、再婚相手の女性とうまくいかず、借金トラブルを抱えているそう。子どもが欲しいという理由で妻を裏切り浮気に走った、自業自得の結果だと思います。
私はあのとき、元夫との再構築をきっぱり諦め、過去を手放す決断をしたからこそ、いまの幸せがあるのだと感じています。もう振り返ることはありません。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。