長年の信頼関係が一変
僕が経営する町工場は、従業員10名ほどの本当に小さな会社です。でも、ベテラン職人たちの確かな技術力には自信が。細やかな仕事ぶりで、地元の企業から信頼をいただき、なんとかやってきました。
中でも長年お付き合いのあるA社は創業当時からの取引先。正直、利益は薄かったのですが、昔からの恩もあり、損得抜きで仕事を受けてきました。
ところが半年前、A社の担当者が交代。新しい部長は、初対面から高圧的な態度で接してきました。
「本当のところ、もっと値下げできるんじゃないの?」
長年の信頼関係を無視した、一方的な要求の連続。それでも昔からの恩義もあり、歯を食いしばって対応していました。
無理なスケジュールと理不尽な要求
ある日、部長から突然の連絡がありました。
「大型受注が決まったから、至急、見積もりがほしい」
送られてきた仕様書を見て、僕は目を疑いました。納期まで到底無理なスケジュール。しかも「この予算内で」という希望金額は、通常の相場を大きく下回るものでした。
このスケジュールと金額では正直厳しいと告げると、
「はぁ?やる気ないなら他に頼むぞ。町工場なんて代わりはいくらでもあるんだからな」との返答。
長年の付き合いを考えると、ここで断るわけにもいかず……。必死に原料の仕入れ先探しに奔走。何十社もの業者に問い合わせ、週末返上で奔走し、なんとか条件をクリアできる目処が立ちました。
その努力の末、ギリギリの見積もりを提出しました。
すると部長から返ってきた言葉は――
「もうちょっと安くならないか?もう一声欲しいんだよね」
「申し訳ございません。これが本当にギリギリの金額です。これ以上は……」と、答えると、
「そうか。じゃあいいわ。実はもっと安いところが見つかったんだよね。そっちに頼むことにする」と、電話口で、彼は嘲笑するように続けました。
「おたくももっと勉強したほうがいいよ。こんな町工場、値段でサービスしなきゃつぶれるぞ?」
その言葉を聞いたとき、僕の中で何かがポキンと折れました。
ーー満足いただけるように細心の注意を払ってものづくりをしてきたのに、その品質を認めるのではなく、値段が安いかどうかでしか判断していない相手に何を言っても無駄だ……。
電話を切った後、正直、せいせいしました。あれだけ無理をして対応したのに、最後はこの仕打ち。もうこの会社とは付き合わなくていい――そう思いました。
急転直下の展開
それから1か月後、例のA社部長から、急に電話がかかってきました。
「あの件なんだけどさ……やっぱりそっちで受けてくれないか?」
声のトーンが明らかに違います。聞けば、格安で受注した業者が到底満足いくようなクオリティでなく、納品先から途中チェックでダメ出しを食らったとのこと。しかも納期にも間に合わない可能性があるというのです。
「大至急お願いしたいんだ。頼むよ!」
以前の高圧的な態度はどこへやら、今度は懇願するような口調でした。
「申し訳ありません。うちはもう別の仕事が入ってしまいまして……」
実は、その1か月の間に大きな変化がありました。僕たちの細やかな仕事ぶりを評価してくれた海外企業から、立て続けに依頼が入るようになったのです。
日本の職人技術を求める声は、海外では予想以上に高く評価されました。報酬も適正で、何より技術力をきちんと認めてくれる。工場の稼働はほぼ満杯状態でした。
さんざん部長からはゴネられましたが、無理なものは無理。毅然と断りました。
因果応報の結末
後日人づてで聞いたことには、大型プロジェクトは納期に間に合わず、クライアントからの信用を失墜。会社は大きな損失を被ったそう。彼は会社にいられなくなり、退職することになったとのことでした。
今、僕たちの工場は毎日フル稼働です。海外からの注文は増える一方で、時には納期の調整をお願いすることもありますが、どのクライアントも快く待ってくれます。
「この品質なら待つ価値がある」
そう言ってくれるお客様と、対等な関係で仕事ができる今が、本当に幸せです。
安さだけを追求する取引は、結局誰も幸せにしません。技術力をきちんと評価し、適正な対価を払ってくれるお客様と長く付き合っていく――それが、小さな町工場が生き残る道だと、今回の件で改めて実感しました。
※AI生成画像を使用しています。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。