「社食のおばさんは底辺」新人たちの横暴な態度
僕の会社の社員食堂は、日替わり定食が美味しいと評判です。その食堂を一人で切り盛りしているパートの女性は、いつも笑顔で、社員一人ひとりの顔を覚えて声をかけいました。
その日、僕が食堂へ向かうと、新人社員の男女が彼女を囲んでいました。
「ねえおばさん、手際悪いんじゃない?いちいち話しかけるから無駄に時間かかるんですけど」
「おばさんにはわからないだろうけど、俺らは忙しいんだよ」
他の社員もいる前で、彼女をあざ笑う新人たち。彼女が「あらあら、おしゃべりがすぎたかしら。でも同じ会社で働く者同士、コミュニケーションも大切よ」と明るく切り返すと、新人の一人はさらに声を荒らげました。
「はあ?こんな底辺の仕事しかできないあんたと一緒にするなよ。社員に口答えして、クビになっても知らないぞw」
毎日、みんなのために一生懸命働く彼女へのあまりの仕打ちに、僕はカッと頭に血がのぼりました。
暴言に激怒した僕。明かされた“食堂のおばさん”の正体は…
「君たち、いくらなんでも言い過ぎじゃないか?」
僕が割って入ると、新人たちはおどけた様子でこう言いました。
「いやいや、社長。僕たちはこの仕事ができないおばさんに、会社のために注意しただけですよ」
もう、我慢の限界でした。僕は彼女の隣に立つと、はっきりとした声で言いました。
「母さん、もういいよ。こいつらには何を言っても無駄だ」
僕の言葉に、新人たちは「は!?」と間の抜けた声をあげます。新人たちが怪訝な顔で僕と母の顔を見比べていると、僕は続けました。
「君たち、彼女は私の母であり、この会社の会長だ」
その瞬間、新人たちの顔から完全に血の気が引いていくのが分かりました。
パワハラ新人の末路と、取り戻した平和
「か、会長……!?そ、そんな……」
さっきまでの威勢はどこへやら、顔面蒼白で震える新人たち。そんな彼らを見つめ、母はちゃめっ気たっぷりにこう告げました。
「あらあら。それなら、彼らクビでお願いね、社長!ふふっ」
母の言葉に、新人たちは「申し訳ありませんでした!」と必死に謝罪を繰り返します。その様子を見て、母は優しく言いました。
「冗談よ。でもね、私は社員ひとりひとりに心も体も元気でいてほしくて、ここでみんなをサポートしているの。あなたたちの仕事も、きっと誰かの助けになるためのものでしょう?」
母の器の大きさに救われた新人たちは大いに反省し、それから心を入れ替えたようにコミュニケーションを大切にするようになりました。
今も母の食堂は、社員たちの心と体を満たす、誰にとっても心地よい場所であり続けています。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。