中卒の私を見下す部長が社長の服を汚した瞬間…沈黙の後に起きた逆転劇

 

私は会議の資料を並べ終え、取引先を迎える準備をしていました。そのとき、部長がコーヒーを片手に、私が先ほどまで座っていた席を見て言いました。

 

そこには、上質なスーツのジャケットがかけられていました。部長はそれを見て、軽い調子で言います。

 

「これ、高そうだね。中卒でここまで出世したんだ、奮発したのかな？」

一見、冗談めかした言い方ですが、毎度のように私の学歴を引き合いに出して見下すその態度に、胸がざらつきました。しかも部長はコーヒーを持ったまま、そのジャケットに触れようとしたのです。

 

「それ、私のじゃありません。コーヒー、こぼれたら大変ですから」

 

慌てて制止したものの、部長は笑いながら手を伸ばしました。その瞬間、コーヒーがこぼれ、茶色の染みが広がっていったのです。

 

部長は「クリーニングに出せば大丈夫だろう」と軽く受け流そうとしました。しかし私は、震える声で言いました。

 

「あの……それ、社長のジャケットなんです」

一瞬、空気が止まりました。「えっ」と固まる部長。そこへ、ちょうど社長が入室してきたのです。社長は目の前の光景を見て絶句。無言のまま、部長をじっと見つめました。

 

会議室の空気は一気に張りつめ、私まで息をのむほどの静寂が流れました。

 

部長は慌てて謝りましたが、「こいつのものだと思って……」と口にしたことで、さらに社長の表情が険しくなりました。

 

「誰のものであっても、雑に扱っていい理由にはなりません」

その言葉に、私は胸の奥が熱くなりました。同時に、部長が服のボタンの向きすら見ておらず、女性モノのジャケットだと気付いていなかったことに、アパレルメーカーの社員としてあきれる思いもありました。

 

そこへ、取引先のB氏が到着。社長が持っていたコーヒーまみれのジャケットを見るなり驚きました。

 

「あれ？ それ、僕が姉にプレゼントしたスーツじゃないですか？」

B氏はなんと、社長の弟だったのです。私も初めて知る関係で、その場にいた全員が驚きました。部長は必死に「後日クリーニングに！」と弁解しましたが、私は思わず口を開きました。

 

「すぐ処置しないと、染みが取れにくくなります」

そう言ってハンカチでコーヒーを吸い取り、水で湿らせた布でやさしくたたき、持っていた染み抜きシートで応急処置をしました。社長とB氏は「プロみたいだ」と感心し、服を大切にする姿勢を高く評価してくださいました。

 

一方の部長は、服の扱いだけでなく商談中の知識不足まで露呈。逆に私は、準備していた資料や提案内容をしっかり説明し、B氏から「今後はあなたに直接お願いしたい」と言葉をいただきました。

 

商談後、社長は私に微笑みながら言いました。

 

「あなたの努力が、きちんと伝わったわね」

その言葉を聞いた瞬間、報われた気持ちで胸がいっぱいになりました。いつも学歴でからかわれていた私ですが、この日初めて、自分の仕事を誇れるようになったのです。

 

この出来事を通して、「学歴よりも、誠実な姿勢と知識で信頼を得られる」ということを、改めて実感しました。実際に、肩書きや学歴よりも大切なのは、どんな状況でも真摯に向き合う姿勢と、自分の仕事に対する理解の深さなのだと痛感したのです。人は学歴で評価されることもありますが、最終的に信頼を勝ち取るのは、日々の積み重ねと誠実な行動だと感じています。

 

 

※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。