子どものころから両親は、私に関心がありませんでした。何をしても褒められず、授業参観や発表会といった学校行事は一度も来てくれませんでした。
愛されなかった子ども時代……お金に貪欲な両親
さらに父はよく仕事を転々としており、母も浪費癖があり、わが家はお金のことで揉めごとが絶えませんでした。私が高校生のころには、何度か「お金を少し貸してくれないか」と言われるようになりました。
大学進学も反対され、奨学金とアルバイトでなんとか学費をまかないました。在学中も「仕送りをしろ」と連絡がきて、そのたびに断ってきましたが、罪悪感と疲れが積み重なっていきました。
社会人になってからも両親から無心の連絡がくることがあり、次第に連絡を取らなくなりました。そんなときに出会ったのが、今の夫です。
つらい過去を告白
付き合い始めたころ、私は勇気を出して自分の家庭のことを話しました。嫌われるかもしれないと思いましたが、彼は黙って最後まで聞いてくれました。
話し終えると、彼は「そうだったんだね。これからは俺がそばにいるから」と言ってくれました。その言葉を聞いたとき、少し肩の力が抜けたのを覚えています。
結婚後、突然訪問してきた両親に
結婚して半年ほど経ったころ、インターホンが鳴りました。玄関を開けると、そこに立っていたのは何年も連絡を取っていなかった両親でした。
「結婚したんだってな。知り合いから聞いたぞ」
父がそう言い、母は勝手に玄関から中をのぞき込みました。どうやら、地元にいる私の知人が夫の職場の関係者とつながっていて、そこから私たちの結婚や住まいを聞いたようでした。
「いい暮らししてるじゃない。少しくらい援助してくれてもいいでしょ? 月10万でいいわ。育ててやったんだからさ~」
「久しぶりに会って、ひと言目がそれ……? 悪いけど、お金を渡すつもりはないから、帰ってくれる?」
そう言っても、2人は引き下がらず、玄関先で声を荒らげはじめました。
ちょうどそのとき、夫が帰宅。状況を見てすぐに察したようで、私の前に立ち「どういうご用件でしょうか?」と声をかけました。
父が「親が娘に会いに来ただけだ! 何が悪い!」と答えると、夫は「親である前に、社会人としての常識がありますよね。人の家に無断で押しかけてお金を無心するのは非常識です」
両親は言葉を失いましたが、夫は続けました。
「妻はあなたたちの都合のために生きているわけではありません。これ以上、妻を困らせるようなことがあれば、正式な対応をとりますが、よろしいですか?」
両親は何も言い返せず、しばらくして黙って帰っていきました。
安全な場所へ
その後、夫は「ご両親に住所を知られてしまったから、念のため引っ越そう」と提案してくれました。義両親も心配してくれて、私たちはセキュリティのしっかりしたマンションに転居しました。
引っ越しが終わった夜、夫が言いました。
「これで、もう誰にも邪魔されない。安心して過ごそう」
その言葉を聞いて、ようやく心の底から安心できました。
新しい命と、あたたかい未来
しばらくして妊娠がわかり、夫も義両親も本当に喜んでくれました。義母が私の好きなシチューを作ってくれて、「あなたが家族になってくれて本当にうれしい」と言ってくれたとき、自然と涙が出ました。
あのとき夫が見せてくれた強さとやさしさは、今でも忘れられません。
私はもう、ひとりではありません。これからは、夫と義両親、そして生まれてくる子どもと一緒に、静かであたたかい日々を生きていこうと思います。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。