みやした助産院(神奈川県横浜市)産後ケア施設レポート
産後ケアを始めて十数年、現在は継続支援が必要な方中心
宮下院長「横浜市が産後ケアに助成金を出し、事業として開始したのが2013年ですが、みやした助産院産後母子ケアは、そのずいぶん前から行っていました。かつては母子ケアという看板は出していませんでしたが、みやした助産院で出産した人だけでなく、母乳外来や電話相談などで関わったお母さんから、『眠れないんです』とか、『支援者がいなくて大変』という話が出ると、『じゃあ、少し泊まって体を休めていく?』という感じでおこなっていたんです。
その時代は1泊や2泊で利用する人がほとんどだったので、お産入院の産婦さんのケアの傍らでおこなう程度でしたが、女優の小雪さんが韓国で産後ケアを受けた話が話題になって、一気に産後ケアの希望者が増えました。それも『1~3週間宿泊できないでしょうか?』っていう長期宿泊希望で。そこで、慌てて部屋数を増やして、宿泊がしっかりできるように改装しました。
それからまもなく、横浜市からの助成金が出ることになり、現在は、常時3~4人は産後ケアを利用される方がいらっしゃいます。1人目出産時に利用した方が2人目出産後にも利用するというようなリピーターの方も増えています」
産後ケアの宿泊室は、清潔感のある畳敷きのモダンな和室で、まるで実家に帰ったような気分に。お母さんは、赤ちゃんのお世話を手取り足取り教えてもらい、乳房のケアを受け、悩みも受け止めてもらいつつ、おいしい食事をいただいてひとりでお風呂に入るなどゆっくり過ごすことができます。希望により、上のお子さんと一緒の宿泊も可能。オプションで日中、上のお子さんの預かり保育をしてもらうこともできるそうです。
現在、横浜市では、産後母子ケア事業として3カ所の病院と8カ所の助産院と連携し、産後4カ月未満のお母さんと赤ちゃんが低い負担で産後ケアを受けられるよう料金補助をおこなっています。補助制度を利用すれば、利用者は自費の1割負担で、宿泊型、日帰り型それぞれ7日間まで利用できます。
宮下院長「助成制度が始まって、利用される方への間口がとても広がりました。ただ、横浜市は希望者全員が産後ケア事業サービスを利用できるわけではないんです」
現在、横浜市では、利用申し込みをされた方に対し、行政から派遣された保健師さんや助産師さんが面談をして、必要度が高いと判断された方のみ利用可能という制度になっているとのこと。その結果、産後ケアを希望しても利用できないこともあるそうです。また、横浜市に住民票のない方も利用できません。
宮下院長「その場合は従来通り自費でのご利用も可能です。産後母子ケア事業サービス利用でも自費利用でも、ケアの内容は変わりません」
精神的に不安定なお母さんも、産後ケアで笑顔を取り戻す
宮下院長「現在、産後ケアをご利用いただいている方は、行政が間に入ることもあり、継続支援の必要性が高いお母さんと赤ちゃんもたくさんいらっしゃるのが現状です。
継続支援が必要というのは、たとえば妊娠前から不安が強かったり、産後うつの心配があったり、肉体的または精神的に何らかのダメージを受けていて子育てを軌道に乗せるのが難しいという方などですね。そういう方々の心身をまるごと支援している状態です。
継続支援が必要な方々のなかには、夫や両親など家族とのトラブルを抱えている場合もあるので、その場合は私たちのほうで直接キーパーソンとなる夫や親などと関わる場合もあります。ほかの施設はそこまでしないと思いますが、家族ごと支援しないと本質的なことが変わらないと感じているため、助産師というよりもカウンセラーに近いサポートもおこなっています。
お母さんが産後うつになると、夫もすごく影響を受けます。それにメンタルの状況って、その人の育ちや親子関係などが根っこにありますから、家族全体を支援していくことがとても大事だと感じます」
宮下院長をはじめ助産師さんたちのこのような手厚い関わりによって、妊娠中から精神的に不安定で、行政から優先的に支援を頼まれるような方でも、産後ケアで少しずつ変わっていき、帰宅時には笑顔を見せるようになると言います。
この産後ケア支援に加え、産前産後ヘルパー派遣、育児相談事業など、他職種と連携してさまざまな母子支援をおこない、母乳育児支援や産後うつ・虐待防止対策等に貢献した業績が認められ、宮下院長は、2017年には保健衛生の分野で国内で最も権威のある賞とされる保健文化賞を受賞されています。
宮下院長「どんなに精神的に落ち込んでいる方でも、変わってくるから続けていけるというのはありますね。こちらでおこなっているケアは、ゆっくり休息してもらって、お母さんの話を聞いて、おっぱいを整えるという基本的なことです。でもそうしているうちに、自分の頭の中でひとりで忙しくしていたのが、『そんなに考えすぎなくていいんだ、頑張りすぎなくていいんだ』とわかってくるんですね。わかってくるだけで、表情は変わってきます。
医療施設と家庭とのギャップって大きいんです。産院ではできていたことでも、退院後家庭に帰ったらどうしていいかわからなくなってしまう人は多いんですね。ですからここでは自分の生活に似た生活をここでしてもらって、イメージトレーニングをして、スムーズに家庭に帰れるようにする……。ここは産院と家庭のちょうど中間施設という感じです」
お母さんたちを支援する施設「M-HOUSE三春台」
助成金を使った産後ケアは利用できそうにないけれど、相談できる人が近くにいなかったり、子育てに行き詰まっている感じがしたり、不安になったり、息抜きがしたいときは、どうしたらいいでしょうか?
宮下院長「2017年に親と子の集いの広場『M-HOUSE三春台』という施設を助産院の前に開設しました。こちらは、妊婦さんや赤ちゃん連れのお母さんが地域の友だちをつくったり、産後ケアを利用した方が気軽に遊びに行ける場所になるよう、いわば子育て支援センターのミニバージョンとして作ったものです。
子育て中は、ちょっと迷ったり悩んだりすることはだれにでもあります。けれども、心身が健康なお母さんなら、話を聞いてもらえるだけで、自分の中にある答えに気づくことがほとんどなんですね。その場所として、『M-HOUSE三春台』を気軽に利用してもらいたいです。
産後ケアを利用できなくても、ちょっと立ち寄って、話をして受け止めてもらうだけで必ず軌道修正ができると思います。いろいろなイベントや教室を開いていますから、ぜひ赤ちゃんと一緒に参加してほしいです。
できれば、妊娠中から『M-HOUSE三春台』に来ていただけるといいですね。『M-HOUSE三春台』では、助産師の日というイベントをおこなっていますから、そこでおっぱいのこととか、お産のこととか、相談するのもいいと思いますよ。
妊娠中は自分がかかっている産院以外には通ってはいけないと思っている人が多いですが、そんなことはないですから遠慮なくいろいろ相談してほしいです。自治体の母親学級に参加するように、助産院の母親学級だけ参加してみるのもいいですよ。妊娠中からつながっておけば、先々なにか心配ごとがあったときにでも、いろいろな支援の扉が開きやすくなりますから」
また、みやした助産院では、子どもの一時預かり保育もおこなっています。そちらは、どのような方が利用されているのでしょうか?
宮下院長「助産院の母乳外来を利用された方とか、『M-HOUSE三春台』に遊びに来てくださった方がほとんどですね。知っている人が子どもを見てくれる安心感があるようです。2~3時間ちょっと買い物に行くとか、上のお子さんの行事とか、赤ちゃんを連れて行きにくいときに利用する方が多いですね。
特に低月齢の赤ちゃんの場合は、いろんな月齢年齢の子がいる保育園に預けるより、助産院という小さい赤ちゃんしかいない場所に預けるほうが安心感があるんですね」
情報に振り回されないため、話を聞いてくれる場所を大事に
宮下院長「今は、情報過多時代で、妊婦さんもお母さんたちも情報に振り回されてしまうために、正解がないと不安になってしまう状況ですよね。たとえば、赤ちゃんの抱っこ1つとっても、抱き癖がつくから抱っこしすぎるといけないとか、いや抱っこはしたほうがいいとか、いろいろな情報がネットに上がっていますよね。
外来でも、『上の子がすごく泣く子で、気持ちが落ち着かなくてたくさん抱っこしちゃったんです。そのせいでわがままになったんでしょうか?』というような悩みをお母さんから聞くことがよくあります。でも赤ちゃんって、10人いれば、10人反応が違うんです。だから『あなたが一番いいと思ったことがきっとその子にとってもいいのだから、自分を信じてやってみたら?』ってよく言っています。
お母さんたちは、そう話してあげるだけで安心した表情で帰られます。今は、誰かに話を聞いてもらえる機会が少なくなっていますから、話を聞いてもらい、受け止めてもらえれば、それだけでお母さんは子育てがラクになるんです。そんな場所があるということは大切だと思いますね。ですからお母さんたちの駆け込み寺のような感覚で、ぜひ『M-HOUSE三春台』や助産院に立ち寄ってみてほしいですね」
「妊婦さんの誰もがみんな自分の中にストーリーを持っていて、それに気づくことができれば自分らしく産むことも育てることもできるようになる。そういう、人が本来持っている力を我々はもっと知るべきだと思うし、自分がそういう力を持っていることをお母さんたちにも気づいてほしい」と話す、宮下院長。
近隣にお住まいの方は、里帰りするような気持ちでふらっと立ち寄ってみてはどうでしょうか? きっと無意識のうちにかたくなってしまっている心と体がゆるんでくるのを感じることでしょう。
みやした助産院の産後ケアの概要
<提供サービス>
- 母子の健康チェック
- 乳房ケアや授乳方法の指導
- 赤ちゃんの沐浴
- 育児相談や地域の子育て情報の提供
- 食事の提供
その他、母子の状況に応じてさまざまなケアを提供します
<ご利用料金>
- 横浜市産後母子ショートステイ(宿泊入院):1泊2日6,000円(以降1日につき+3,000円)
- 横浜市産後母子デイケア(日帰り入院):1日2,000円
<ご利用いただける方>
以下の条件すべてに該当する産後4カ月未満のお母さんと赤ちゃん
- 横浜市民の方
- 育児不安などから自宅での育児に支障がある方
- ご家族などから産後の支援が受けられない方
- サービス利用時に母子ともに治療中の疾患がない方(※)
※通院服薬を受けていても利用できる場合がありますので、ご相談ください
<お申し込み>
区福祉保健センターが状況を確認の上、利用の可否を決定します。
横浜市産後母子ケア事業の利用のご相談・お申し込み先はお住まいの区の福祉保健センター子ども家庭支援課になります。
■各区こども家庭支援課連絡先一覧
https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/kosodate-kyoiku/oyakokenko/teate/contact.html
自費でご利用される場合
<ご利用料金>
- 産後ステイ(自費):1泊2日60,000円
- 産後デイケア(自費):1日20,000円
<ご利用方法>
ご予約・お問い合わせはお電話とメールにて受け付けています。
詳しくは、ホームページをご覧ください。
- 〒232-0002 神奈川県横浜市南区三春台126
- TEL:045-231-1788
- 施設HP:http://www.miyashita.gr.jp/
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