突然の終わり
私は長年、老舗の洋食レストランでスープを専門に担当してきました。自分で試行錯誤しながら作り上げたスープは、多くのお客さまに喜んでいただき、私自身にとっても大切な仕事でした。
そんなある日、オーナーのA山さんから「今日から息子のBが働くから、よろしく頼むよ」と紹介がありました。Bさんは明るい雰囲気の方で、私も「よろしくお願いします」とあいさつを返しました。
ところが数日後、そのA山さんから「物価や人件費の影響で、スープ専門の担当制度は廃止することにした」と告げられたのです。私は驚き、「この店の味の軸ではないでしょうか」と思わず口にしましたが、「息子が作るスープで十分」と言われ、最終的に決定は変わりませんでした。Bさんがスープ作りも兼ねることになり、私の役割は大きく変わることになりました。
戸惑いと寂しさを感じながらも、私は以前から心のどこかにあった「自分の味で勝負してみたい」という思いが強くなっていきました。
別れと新たな決意
その後、A山さんから「これからは洗い場や掃除、買い出しを中心にお願いしたい」と言われました。大切に向き合ってきた仕事が大きく変わった瞬間、胸の奥で何かが静かに切れたような気がしました。
私は落ち着いて、「以前から独立を考えていました。この機会に退職させていただきます」と伝えました。突然の申し出にオーナーは驚いていましたが、最終的には受け入れてくださいました。
こうして、10年以上勤めた店を離れた私。「今までお世話になりました」と頭を下げたとき、厨房の空気が静かに変わったのを覚えています。
失われた味
店を辞めてしばらくたったころ、元同僚から「雑誌の取材が来たらしい」と聞きました。グルメ特集の一環で訪れた編集者のCさんが、スープを口にした際に「味が変わった気がします」と話していたそうです。
その後も、お客さまからの悪評が続き、雑誌への掲載は見送られたとのこと。さらにスタッフの入れ替わりも続いていると耳にしました。私自身がどうこう言える立場ではありませんが、長年関わった店の名前が出てくるのは複雑な気持ちでした。
一方、私は駅前にスープカレーの専門店を開きました。これまでの経験を生かしつつ、新しい味にも挑戦しました。和風出汁をベースにしたものや、ミネストローネをアレンジしたタイプなど、徐々に評判が広まり、ありがたいことに開店当初から多くのお客さまに来ていただきました。
ある日、店に取材で訪れたのは、あのCさんでした。スープカレーを味わった後、「具材との相性も良くて、とてもおいしいです」と笑顔で感想を伝えてくれました。
「以前、老舗レストランでスープを作っていらっしゃいましたよね? あの味に何度も助けられました」と話してくださり、胸が熱くなりました。
まとめ
その後、雑誌に掲載されたことで店はさらに忙しくなり、Cさんも取材の流れで時々食べに来てくださるようになりました。仕事の話をする機会も増え、客観的な視点から意見をいただけることが励みになっています。これからも、より多くの人に喜んでもらえるよう、新しいスープの開発にも力を入れていきたいと思っています。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
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