「なぁ、やっぱ友だちも呼んで盛大にやりたいんだよね!」
夫がそう切り出したのは、結婚式の数カ月前。すでに入籍し、親族のみの式で会場も予約済みだったにもかかわらず、夫はヘラヘラと笑って言いました。
私たちは、ゲスト数を絞る代わりに料理や装飾のグレードを上げることで合意していたはずです。何度も話し合ったはずなのに……。
「友だち呼んだ方が盛り上がるじゃん? 一生の思い出だしさ!」 「人数が増えたら予算も手間も倍増よ?」と私が訴えても、夫はスマホを見ながら生返事。
「あー、その辺の細かい調整はお前に任せるって! 俺は当日、主役としてカッコよく振る舞うからさ。俺の顔が立つようにしっかり頼むよ?」
準備も金も私任せで、自分は主役気取り。この時点で、私は夫の身勝手さに気づくべきでした。
突然メッセージを送ってきた謎の女性
夫に押し切られた数日後――。
そんな夫に押し切られ、準備に忙殺されていた数日後――。 私のスマホに、見知らぬアカウントからメッセージが届きました。「いきなりごめんね!」というその女性は、夫の高校時代の友人だと名乗りました。そしてわざわざ「彼のことわかってる」アピールをしてきました。
極めつけは、こんなメッセージでした。
「私、実は元カノなんだけど未練とかゼロだから! ただの友だち! 奥さん、彼のことあんまり束縛しないでね? 昔から彼、自由なのが好きだからさぁ」
妻である私に「彼への接し方」を説教するような文面。不快感しかありませんでしたが、私は「当日はお待ちしてますね」と、大人の対応をするしかありませんでした。
式の準備が進むにつれて、夫の無関心も加速しました。ゲストのリストアップも、席次表の確認も、ウェルカムボードの制作も、すべて私1人でやる羽目に。
そして、式の2週間前――。
会場の装花やテーブルコーディネートを決める、重要な打ち合わせの日がやってきました。
「ねえ、今週末の打ち合わせ、ちゃんと空けてるよね?」とメッセージを送ると、「あー、ごめん! ちょっとその日さ、地元の連中と飲み会、入れちゃってさぁ」と信じられない返信が。あれだけ前から念押ししていたのに……。
私が「2人の結婚式なのに……」と送ると、「大丈夫だって! 花とか俺わかんないし、お前のセンス信じてるから! 全部任せるよ!」と夫。
夫は「任せる」という言葉を盾に、面倒なことから逃げているだけ。
私は「……せめて式当日くらいはちゃんとしてね」と、すがるような思いで釘を刺しました。
結婚式翌朝の悪夢
そして、結婚式当日――。
夫はなんと、表向きは完璧な新郎を演じきりました。 しかし、問題が起きたのは二次会が終わった後。
ゲストを見送っている最中に、夫が突然「ちょっと地元の連中に挨拶してくる! 待ってて!」と言い残し、人混みに消えてしまったのです。
しかし、いつまで経っても彼は戻ってきません。いくら電話しても出ず、メッセージも既読にならないまま。 結局、私は1時間以上待ちぼうけを食らった挙句、1人でタクシーに乗り込む羽目になりました。
翌朝――。
まだ帰ってこない夫に電話をかけると、電話口から眠たそうな女の声が聞こえてきました。
「あ、ごめんね〜! 今、彼は私の隣でおやすみ中なの〜♡」
知らない女性の声に戸惑う私。
「あ、私って言ってもわかんないか! 彼の友だちの……あ、元カノって言ったほうが早い?」
その女性は、先日私にメッセージを送ってきた人だったのです。
「昨日、二次会で盛り上がってそのままお泊まりしちゃった! あ、安心して? 彼、結婚生活が不安そうだったから、ちゃんと彼のこと『慰めて』あげたから♡」 「……夫を叩き起こして」 震える声で言う私に、彼女はクスクスと笑いながらトドメを刺してきました。
「え〜かわいそうだから無理ぃ♡ っていうか、私たち復縁したの。あんたとの結婚式は、私たちの『復縁パーティー』だったってことで、許してね? ほんとごめんね♡キャハハ!」
夫への愛も、両親への感謝も。すべてが「復縁パーティー」という言葉で踏みにじられた瞬間でした。
目の前が真っ暗になり、呼吸がうまくできません。信じていたのに。あれほど協力してくれなかった夫でも、最後は家族になれると信じていたのに。
「もう式も終わったし、ドレスも着れたんだから満足でしょ?」
新婚初夜に、夫は元カノのベッドにいたのです。その事実と、嘲笑うようなその声を聞いた瞬間、私の中で何かが「プツン」と切れました。
「幸せの絶頂から叩き落しちゃって……ごめんね♡」
地獄へのカウントダウン
「いえ、感動しました。だって……ハイエナ女とお似合いすぎて」
勝ち誇る女に対し、私は冷え切った声で告げました。
「わざわざ不貞行為を自白してくれてありがとうございます。おかげで、あなたと夫、両方への慰謝料請求がスムーズに進みます」 「は? なに言って……」 「この通話、録音させてもらいましたから」
彼女は、私が泣き崩れるとでも思っていたのでしょう。 でも、不思議と涙は出ませんでした。準備期間中の彼への失望が、この裏切りで決定的な「諦め」に変わったからです。
「あぁ、やっぱりこういう人だったんだ」
そうストンと腑に落ちた瞬間、彼への愛情は跡形もなく消え失せ、代わりに頭が冷徹に冴え渡っていくのを感じました。こんな男のために流す涙など、一滴もありません。
「堂々と浮気を暴露してくれてありがとうございます! 自白してくれたから、慰謝料の請求もスムーズに進みそうです!」
「えっ……慰謝料!?」と驚く彼女。既婚者を奪っておいて、ただで済まされるとでも思っていたのでしょうか。
「あなたと夫、2人からたっぷりいただきますね」と明るく言うと、「わ、わざとじゃないって言ってるでしょ!」とあわて出しました。
「わざとかどうかなんて関係ありません。私の結婚式を……あなたたちの不倫記念日にしてくれたこと、お集まりいただいたみなさんにもしっかり伝えておきますので」「慰謝料請求については、近日中に弁護士からご連絡がいくと思います。夫が起きたら伝えてくださいね」
「ちょ、待って! わざとじゃないってば!」慌てふためく彼女の声を無視して電話を切りました。
元カノとの電話を切ってから、3時間ほど経ったころ――。
今度は夫から、着信がありました。
「おい! 親から『勘当だ』って連絡が来たぞ! お前、まさか言いふらしたのか!?」 「当然でしょ? ご祝儀を頂いた手前、離婚の理由は正しく伝えないと」
私はすでに、両家の親族とゲスト全員に『夫が当日に元カノと不倫したため離婚します』と連絡済みでした。
「こんなのやりすぎだろ! 常識ってもんを知らないのか!?」と叫ぶ夫。「あなたにだけは、常識を語られたくないわね」
私が冷たく返すと、夫は急に焦り始めました。
「あ、いや、それは酒の勢いっていうか……悪気があったわけじゃ!」 「『わざとじゃない浮気』なんて、よりタチが悪いわ。理性もコントロールできない人間なんて信用できません。離婚しましょう」
そして、私は淡々と通告しました。
「家具家電代、それからゲストへのご祝儀返金分。全額請求するから覚悟してね」 「ま、待ってくれ! 俺、本当に……!」 「言い訳はこっちに着いてからたっぷり聞くわ。今、両家の両親が揃って、あなたの帰りを待ってるから」
その後――。
夫の元カノからは「友だちから絶縁された」「慰謝料だけは勘弁してほしい」と泣きながら電話がありましたが、私は一切動じませんでした。きっちりと法的措置をとらせていただきました。
夫と元カノの噂は地元中に広まり、2人は逃げるように地元を去ったそうです。自業自得としか言えません。
結婚式の翌朝、信じていた夫と元カノの裏切りを知ったときの、あの世界が崩れ落ちるような感覚は一生忘れないでしょう。
でも、あの日私が戦って勝ち取ったのは、単なる慰謝料ではなく、踏みにじられかけた「私自身の尊厳」そのものです。そして、その場のノリや勢いだけで生きているような人間の言葉に、二度と惑わされるものか、と強く思うきっかけになりました。
これからは、彼らのような軽薄さとは無縁の場所で、私がずっと信じてきた「誠実さ」を胸を張って貫く、嘘のない人生を歩んでいきたいと思います。
【取材時期:2025年9月】
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。