義父に先立たれ、ひとり暮らしをしていた義母は、以前から私のことを快く思っていないようでした。「大事に育てた一人息子を奪った女」という意識が強かったのでしょう。
引っ越しの荷解きが一段落し、私たちはあいさつのため義実家へ向かいました。「顔を見せたらすぐに帰ろう」と夫とは話していたのですが……。
妻を守ってくれない夫
玄関で待ち構えていた義母は、夫の顔を見るなり「おかえり! さぁ早く入りなさい!」と満面の笑みで手招きしました。私のことなど存在しないかのように振る舞い、夫の背中を押してそそくさとリビングへ連れて行ってしまったのです。
「すぐ帰る」と約束していたにもかかわらず、夫は「あー、やっぱり実家は落ち着くなぁ」と完全にくつろぎモード。帰る素振りなど微塵もありません。その様子を見た義母は「夕飯、食べていくわよね? あなたは支度を手伝いなさい!」と私に指示。結局、断れずに夕食を食べていくことになり、私はキッチンに立ったのでした。
私がなんとか冷蔵庫にあった材料で煮物を作って出すと、義母は一口食べるなり「うわ! なにこの味付け! 毎日こんなマズイ食事を◯◯くん(夫)に食べさせてるの!?」と顔をしかめます。
夫はいつも私の料理を「おいしい」と言って食べてくれるので、義母の発言は明らかに嫁いびりでしたが、このときの夫は面倒くさそうにスマホをいじるだけで、私を庇ってくれることはありませんでした。
意図的な注文忘れ…?
不穏な空気の中、義母が「口直しに、いつものお寿司屋さんに出前を頼みましょう」と言い出しました。ところが、しばらくして届いた寿司桶を見て、思わず目を疑った私。どう見ても二人前しかしかなかったのです。
私が恐る恐る尋ねると、義母は悪びれる様子もなくこう言いました。
「あら、私ったらうっかり二人分しか頼んでなかったのねぇ。ごめんなさいね、あなたは自分で作った料理を食べてちょうだい!」
義母と夫は、私の目の前でおいしそうに寿司を食べ始めました。夫は「ここの寿司はやっぱりうまいな〜」などと言いながら、私の分がないことには一切触れません。
帰り道、悔しさと情けなさで涙が溢れ、私は夫に抗議しました。
「どうして庇ってくれなかったの? 私の分だけないなんて、おかしいでしょ」
すると夫は、「ごめん。久しぶりに会った母さんを嫌な気持ちにさせたくなくて……。次はちゃんと注意するから」と言い訳ばかり。その場しのぎの言葉に、私は不信感を募らせました。
離婚を決意した日
数日後、義母から「先日は悪かったわね。謝りたいから来てちょうだい」と連絡があり、私たちは再び義実家を訪れました。 しかし、食卓に並んだのは、またしても二人前の寿司でした。
「あら嫌だ、またうっかりあなたの分を忘れちゃったわぁ! 冷蔵庫に昨日の残りものがあるから、あなたはそれを食べてちょうだい」
白々しく笑う義母。さらに、続けて信じられない言葉を口にしました。
「そういえば、あなた◯◯くん(夫)に私の愚痴を言ったらしいわね? 嫁の分際で姑の悪口を吹き込むなんて、言語道断よ!」
夫を見ると、気まずそうに目を逸らしました。夫は私を守るどころか、私が車内で訴えた不満をそのまま義母に告げ口していたのです。
罵倒を続ける義母と、知らん顔をして寿司を食べる夫。この瞬間、私の中で何かがプツンと切れました。
「もう、離婚しよう」
そう固く決意しました。
予想外の味方が現れて!?
食事が終わると、義母は私にだけ命令しました。
「あなた、暇ならこの寿司桶を店に返してきてちょうだい」
離婚を決意した直後だったためか、不思議と怒りは湧いてきませんでした。「もう他人になる人たちだ」と割り切り、二人の顔を見るのも嫌だったので、言われるがまま寿司桶を持ってさっさと家を出ました。
店に入り名前を伝えると、ちょうどランチタイムが終わり仕込み中だった大将が、威勢よく声をかけてきました。
「おう、◯◯さんところのお嫁さんかい! どうだい、ウチの寿司はうまかっただろう?」
その言葉を聞いた瞬間、堪えていた涙が堰を切ったように溢れ出しました。
「私は……一度も食べたことがありません……!」
驚く大将に、私はこれまでの経緯をすべて話しました。毎回私の分だけ注文されないこと、夫が見て見ぬふりをしていること。近所では“愛想の良い夫人”で通っている義母の裏の顔を知り、大将は絶句していました。
「なんてことだ……。腹が減ってるだろう、これを食いな!」
大将は怒りに震えながら、私に特上の握りを振る舞ってくれました。
「俺はあんたの味方だ」という言葉が、傷ついた心に染み渡りました。
寿司店の大将から特別な招待
それから数日後、義母から夫に興奮気味に連絡が入りました。
「大将がね、『新作メニューを考案中だから、奥様に試食してほしい。ご家族も招待したい』って! ランチ営業後に貸し切りにしてくれるみたいで、もちろんお代はいらないそうよ!」
「貸切なんて、やっぱり母さんは顔が広いなぁ!」と夫は喜んでいましたが、私はピンときました。あの大将のことです、きっと何か考えがあるに違いありません。私は夫との生活に見切りをつける最後の機会だと思い、誘いに応じて店へ向かいました。
約束の時間、店の前で合流すると、義母は私を見て鼻で笑いました。
「あら、あなた本当に来たのね。『ご家族3人で』って言われたから仕方なく呼んであげたけど……タダだからってのこのこ付いてくるなんて、意地汚い嫁だこと」
夫はまたしても聞こえないふり。私は心を無にして、義母の後ろをついていきました。
まさかのしっぺ返し
店内に入ると、大将が静かにカウンターへ案内してくれました。貸切の店内には私たちだけです。
義母は上機嫌で、「さぁ大将、自慢の新作を出してちょうだい! 楽しみだわ!」と言い席につきました。
大将は「へい、お待ち」と短く答え、美しい寿司が盛られた皿をカウンターに置きました。しかし、それを置いたのは、私の目の前だけ……。義母と夫の前には、お茶のみが置かれています。
「……ちょっと大将? 私たちの分は?」
義母が不満げに指摘すると、大将は包丁を置き、低い声で言いました。
「いいえ、合ってますよ。今日は、そちらの奥さんのためだけに握らせてもらいました」
きょとんとする二人に対し、大将は静かですが、ドスの利いた声で続けました。
「あんたたち、いつもやってるんでしょ? 家族一人だけ仲間外れにして、その横で平気な顔して寿司を食うってやつを。だから今日は、あんたたちにも同じ思いをしてもらおうと思ってね」
義母の顔色がみるみる青ざめていきます。
「な、何よそれ……! 私たちを騙して呼び出したの!?」
「騙してなんかいねぇよ。『家族を招待する』とは言ったが、全員に食わせるとは一言も言ってねぇ。ウチの寿司はな、嫁いびりの道具じゃねぇんだ!」
大将は私に向かってやさしく「さあ、遠慮なく食べてくれ」と促してくれました。私は二人の視線を感じながら、大将の心のこもったお寿司を一口いただきました。今までで一番おいしいお寿司でした。
「こんな店、二度と来るか!」
居たたまれなくなった義母と夫は、捨て台詞を吐いて逃げるように店を出て行きました。
離婚と再出発
私は大将にお礼を伝えて店を出ると、その足で自宅へ戻り、荷物をまとめて家を出ました。
後日、夫と離婚に向けた話し合いの場を持つことに。夫は最初こそ離婚を渋っていましたが、私の決意が固いこと、そして何より寿司屋の一件でプライドが傷ついた義母が「あんな嫁とは早く別れなさい!」と騒ぎ立てたこともあり、最終的に夫も離婚に合意しました。
無事に離婚が成立し、私は現在、新しい仕事を見つけて一人暮らしを満喫しています。 あの一件以来、義母たちは気まずさからあの寿司店には行けなくなったそうです。
給料日には、大将のお店へ行き、カウンターでお酒と寿司を楽しむのが今の私の一番の幸せです。自分を大切にしてくれない人たちと離れ、本当においしいものを誰にも邪魔されずに味わえる日常を取り戻せて、本当によかったと思っています。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
義母が「うっかりあなたの分注文忘れちゃった!」と自分のミスを認めてるんだから嫁は「じゃお義母さんがお寿司無しで!」位言って欲しかった。
昔、私の元夫も元義母から私を庇ってくれることは無かったので、一度メインの肉料理がわざと私の分だけ無かった時、元義母のをサッと取って食べたよ。元義母は真っ赤になって怒ってたけど、自分がやらかしたことなので何も言えず。元夫と元義父は何も気づいてもいなかった。男ってそんなもん。
自分が戦わなきゃ。