深夜、上司から着信「戸建てだろ? 泊めろ!」
引っ越しの荷物もようやく片付き、「やっと落ち着ける」と思っていた金曜の夜。悪夢のような電話が鳴りました。画面に表示された名前は、上司のAさん。普段から嫌味が多く、部下のプライベートにも平気で踏み込んでくるタイプです。
嫌な予感しかしませんでしたが、一応電話に出ると、受話口の向こうからやたらと騒がしい声が聞こえてきました。「おい、今飲んでんだけどさ〜終電逃した!」「お前んち、戸建てだろ? お前ごときが贅沢だよな〜。ホテルとして使わせろ。今から行くわ」
一瞬、言葉を失いました。今日は家で、妻とゆっくり過ごしていたところです。もちろん妻も家にいます。「いや、無理です。家には妻が……」そう言いかけた私の言葉に、Aさんがかぶせてきました。
「じゃあ余計いいじゃん。どうせ寝てんだろ?」「部下のくせに、上司を路頭に迷わせるわけ?」酔っているのもあるのでしょうが、完全に押し切る気の口調でした。「とにかく無理です。妻もいますし……」と少し強めに言うと、Aさんは鼻で笑ったような声を出し、「ケチだな〜。いいから開けとけよ。もう向かってるから」と一方的に電話を切りました。私は頭が真っ白になりました。
「上司が今から来るって…」妻に話したところ
慌てて妻に事情を話すと、妻は少し驚いた表情を浮かべましたが、すぐに落ち着いた声で言いました。「そういう人、いるんだよね」「でも、深夜に上司を家に入れる必要なんてないよ」
私も「そうだよな」と思いつつ、職場の上下関係が頭をよぎって、正直なところ怖さがありました。Aさんは気分次第で評価をちらつかせてくる人です。妻は私の迷いを見透かしたように、続けました。
「大丈夫。あなた、“妻が家にいるから無理”って言ったんでしょ?」「だったら、それで押し通そう」「私が出るから、あなたは後ろにいて」その言い方が妙に頼もしく、私はただうなずくことしかできませんでした。
インターホンを連打する上司。妻が出ると…
それから20分ほどして、インターホンが鳴りました。ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン! モニターには、顔が赤く目がすわったAさんの姿。見るからに泥酔しています。私はインターホン越しに「すみません、無理です。帰ってください」と伝えました。するとAさんは画面に顔を近づけ、ニヤニヤしながら言います。
「はぁ? ケチすぎ」「ほら、玄関だけ開けろ。寝るだけだから」「ここホテルだろ? 新居ってそういうもんだろ?」
“ホテルだろ”——その言葉を聞いた瞬間、妻が私の前にすっと立ちました。「私が出るね」私は息をのみました。妻はチェーンをかけたまま、ドアを少しだけ開けました。
玄関の外でふらつくAさんは、妻を見るなり勝ち誇ったように言いました。「奥さん? 今日だけ朝まで泊めて〜。ね? ホテルとして使わせてよ」妻は一切笑わず、静かな声で返しました。
「誰の家がホテルだって?」妻が名刺を出すと…
「誰の家がホテルだって?」その低い声に、私まで背筋が伸びました。「深夜に押しかけて“泊めろ”なんて非常識です」「今すぐお帰りください」Aさんは一瞬ムッとした表情を見せましたが、酔いの勢いで言い返します。
「え〜? 固いなぁ。ラブラブしてるんだったら、ちょっとくらい上司を……」すると妻は、「私は御社と取引のある◯◯社の◯◯です」「御社とは、来週の契約更新でお話をする立場です」と告げ、Aさんに名刺を差し出しました。そう、妻はわが社にとって重要な取引先の会社で働いており、とある部署の部長を務めています。
Aさんの目は大きく見開かれ、口が半開きのまま固まります。妻は続けました。「この時間に部下の家へ押しかけて、“ホテルとして使わせろ”と言う上司がいる会社なんですね」Aさんはみるみる顔色を失い、さっきまでの横柄さが嘘のように、しどろもどろになりました。
「い、いや……これは……その……」「本当にすみません! 酔っていて……!」妻は感情を交えることなく、事務的に言いました。「お帰りください。必要でしたら、タクシーを呼びます」Aさんは小さく何度も頭を下げ、駅のほうへと消えていきました。
翌週、出社すると…上司の態度が一変!?
翌朝、Aさんから謝罪の電話とLINEが届きました。「昨夜は大変失礼しました」「奥さまにも、くれぐれも……」
そして週明け。Aさんは私に対して露骨に低姿勢になり、嫌味を言うこともなくなりました。後日おこなわれた妻の会社との契約更新の会議では、Aさんは末席に座り、ほとんど発言することもなく小さくなっていたそうです。どうやら妻は、Aさんや私が所属する部署のリーダーと親しく、今回の一件を伝えていたとのことでした。
弱い者には強く出る——そんなAさんの性格は、上司にも知られることになりました。そして私は、Aさんを尊敬できなくなっていました。これまでは「学べるところもある」と思い、Aさんの下で頑張ってきましたが……これを機に転職も含めて環境を見直そう、そして妻に頼られる夫になろうと、強く誓いました。
◇ ◇ ◇
職場の上下関係があると、理不尽な要求でも断りづらいと感じてしまうことがありますよね。ですが、家庭やプライベートの時間は守るべき大切な領域です。「NO」を伝えにくいときこそ、ひとりで抱え込まず、パートナーや会社の相談窓口など周囲に相談しながら、解決へとつなげていきたいですね。
【取材時期:2026年1月】
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。