「学費が払えない」高校中退で旅館を支えた日々
僕が高校を中退したのは、家の資金繰りがうまくいかず、学費が払えなかったからでした。それに人手も足りなかったのです。
兄は大学に進学し、帰省するたびに「ITだ」「インバウンドだ」と覚えたての横文字を並べるように。両親はすっかり舞い上がり、僕には「邪魔だから表に出るな」と命じるようになりました。
やがて兄が結婚相手を連れて戻ってくると、「二人でこの旅館をブランド化する」と宣言。最初に言われたのが、僕の部屋の明け渡しでした。
「ここ、ゲスト用ラウンジに作り変えるから。お前はアパートでも借りてくれ」
家業を手伝ってきた僕が、家業のために家を追い出されたのです。最後に渡された封筒には、雀の涙ほどの金額が入っていました。
都会でスカウト、テレビ取材……初めて認められた場所
都会に出て、居酒屋やカフェで働き始めました。そこで、僕は初めて知ったのです。自分が「当たり前」と思ってやってきた接客が、どれだけ重宝されるかを。
お客さんの顔を覚え、好みに合わせて接客する。お客さんの表情を見て、次に欲しそうなものを先回りして出す。どんな小さなことも見逃さず、次の改善に役立てる。そのなかでも常に笑顔を忘れないようにしました。
店長に「うちの社員にならないか」と誘われるたび、自分がずっと「できない」と言われ続けてきた場所の狭さを思い知りました。
そんなころ、常連客の一人が声をかけてきました。小さな飲食店を買い取って立て直す仕事をしているという人でした。
「潰れそうな喫茶店があってね。君みたいに現場を知っている人ならいけると思う」
任されたのは、駅から少し離れた古びた喫茶店でした。メニューを絞り、内装を少しだけ手直しし、常連客との会話を大事にしました。何より、店の歴史をそのまま「味」にしたのです。
SNSに「昭和のまま時間が止まった喫茶店」としてアップすると、意外なほど反応がありました。「映える」と言って若い客が来るようになって店は黒字に。海外からの客や有名人のお忍びも来るようになりました。
その取り組みが評価され、いくつものテレビ局から取材を受けることになったのです。
テレビ放送後、突然現れた家族「金を貸してくれ」
テレビに取り上げられるようになってしばらくして、店に見慣れた顔が現れました。兄と両親でした。
「テレビ見たぞ。すごいじゃないか」
久しぶりの家族の言葉に、一瞬だけ温かいものを感じました。しかし、次の瞬間その期待は裏切られることに……。
「それで……ちょっと金を貸してくれないか。旅館の経営がうまくいかなくてな」
兄が言いました。
「家族なんだから、支えるのが当然だろう？ お前だって、うちの旅館で育ったんだから」
母も続けます。
「そうよ。家族を支えるのは当たり前じゃない。あなたも成功したんだから、少しは恩返ししなさい」
その瞬間、僕の中で何かが冷めていくのを感じました。学費を払ってもらえず高校を中退し、無給同然で働かされ、最後には家から追い出された……それなのに、成功した途端に「家族だから」と都合よく頼ってくる。
「もう十分、家には尽くした」
僕はあえて笑顔を作り、静かに答えました。
「わかりました」
一気に両親たちの顔が明るくなったのがわかりました。その期待を裏切るように僕は続けました。
「あんたたちの魂胆はもう十分わかりました。俺はこれ以上ないほど家には尽くしたと思ってる。学費が払えないって中退させられて、タダ働きさせられて、最後には追い出された。それでも文句言わずにやってきた」
「でも……」
「家族だから支えろって言うなら、あの時も家族として扱ってほしかった。都合のいい時だけ家族を持ち出されても、もう遅い」
兄は何も言えませんでした。両親も黙り込みました。
僕は続けました。
「悪いけど、貸せない。自分たちでなんとかしてくれ」
三人は何も言わずに店を出ていきました。その後ろ姿を見ながら、僕は初めて自分の人生を生きているのだと実感したのです。
家族という理由だけで搾取される時代は、もう終わったのです。
※AI生成画像を使用しています。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
