私の提案を鼻で笑った夫
当時、私たちは不妊治療に取り組んでいました。体への負担も考え、私は仕事を週3回の勤務に減らして治療に専念することにしたのです。 当然私の収入は減りますし、保険適用とはいえ高額な治療費もかかります。それなのに夫は「生活費以上は出せない」と言って金銭的な協力を渋るため、私は独身時代の貯金を切り崩してなんとか家計と治療費を回していました。
勤務日数を減らして時間に少しゆとりができた分、夫の体調管理も私がしっかりしなければと張り切っていた私。そこで思いついたのが、お弁当を作って届けることでした。カップラーメンやコンビニ弁当ばかりの食生活では夫の体調が心配ですし、少しでも節約になればと考えたのです。
しかし、そんな私の提案を夫は鼻で笑いました。
「医者の妻が病院に弁当を持ってくるなんて聞いたこともない。それに、理事長の孫がウロウロしていたら、スタッフたちが『監視されている』と勘違いして萎縮してしまうだろ」
そう言われてしまうと、私も反論できません。夫の立場を悪くしたくない一心で、むやみに病院へ出入りするのはやめようと決めました。
そのまま夫と顔を合わせない日々が続き、次第に夫婦の気持ちまですれ違っていると感じるようになりました。「このままではいけない」と思った私は、もうすぐ誕生日を迎える夫のためにプレゼントを用意することにしました。さすがに誕生日くらいは帰ってくるはずです。久しぶりに盛大にお祝いをして、関係を修復したいと願っていました。
階段から転落…!
しかしプレゼントを買いに行った帰り道、私は駅の階段を踏み外してしまい、そのまま一番下まで転がり落ちてしまったのです。
あまりの激痛にその場でうずくまっていると、通行人の方が呼んでくれた救急車が到着しました。隊員の方に「かかりつけの病院はありますか?」と聞かれ、私は迷わず夫のいる病院への搬送を希望しました。
無事に病院に到着し、処置を済ませた私が案内されたのは、一般病棟ではなく特別個室でした。どうやら「理事長の孫」が搬送されてきたということで、病院側が気を使ってくれたようです。
急きょ受け入れてもらった上にこれほどの厚遇では、他の患者さんに申し訳が立ちません。私は夫から現場へ一言伝えてもらおうと思い、電話をかけました。
しかし夫は「これから手術だから話せないんだ。切るよ!」と素っ気ない対応……。私は、仕事が終わったら病室に顔を出してほしいと看護師さんに伝言を頼みました。すると看護師さんは不思議そうな顔をして「先生は長期休暇をとっていますよね?」と言ったのです。
夫は病院に泊まり込んでいるはず…
私は耳を疑いました。休暇なんて初耳でした。家を出るとき、夫は確かに「同僚が体調を崩して、急きょ当直も代わりに入ることになった。数日は泊まり込みになる」と言っていたはずです。
動揺した私は、震える手でスマホを取り出し、すぐに理事長である祖母に電話をかけました。
「おばあちゃん、夫が長期休暇をとっているらしいんだけど、本当?」
突然の電話に驚きつつも、祖母は明るい声で答えました。
「さすがに詳しい勤務表までは把握していないけれど、最近よく長期休暇を取得しているというのは聞いていたわよ。てっきり、あなたと旅行にでも行っているのかと思っていたけれど……違うの?」
看護師さんの言葉、そして祖母の勘違いで事実は確定しました。夫は「妻との旅行」を装って休みを取りながら、私には「仕事だ」と嘘をついて外泊していたのです。
すべてを察した私は、退院後すぐに行動に移しました。興信所に夫の身辺調査を依頼してみると、結果は予想通りでした。夫は病院内のスタッフと不倫関係にあり、私が階段から落ちたあの日も、休暇をとって不倫旅行に出かけていたのです。
さらに調査を進めると、夫の悪質な手口が次々と明らかになりました。夫は「理事長の孫婿」という立場を悪用し、同僚たちに圧力をかけて、自分の当直を無理やり代わらせていたのです。私には「同僚の代わりに入る」と嘘をつきながら、実際には同僚に自分の代わりをさせて、空いた時間で不倫を楽しんでいたのでした。「断ればどうなるか分かっているだろうな……」という無言の圧力に、現場の誰も逆らえなかったようです。
その上、私に告げていた給与額は嘘で、実際には十分な額をもらっていました。私が仕事をセーブして治療費を工面している裏で、夫はその差額をすべて不倫相手との豪華なデートやプレゼントにつぎ込んでいたのです。
不倫夫の行く末
これらすべての事実を知って、私は夫との離婚を固く決意しました。これほどまでの裏切りをされて、もはや夫婦関係を修復する余地など1ミリもありません。ですが、ただ黙って離婚届を突きつけるだけでは気が済みません。夫をこのまま野放しにするわけにはいかないと思ったのです。
夫が「泊まり込み」と偽って旅行を楽しんでいる今こそが、別れの準備をする絶好のチャンスでした。私はすぐに引っ越し業者を手配し、自分の荷物をすべて運び出して実家へ戻りました。
そして祖母に夫のこれまでの行いをすべて証拠とともに報告。「これからは親族としてではなく、一人の医師としての能力だけで判断してほしい」と伝えました。
不倫旅行から帰ってきた夫は、私の荷物がきれいさっぱり消えた部屋を見てがくぜんとしたそうです。妻がいなくなった部屋で呆然としているところに、祖母からの呼び出しがあり、すべてが露見したことを知ったようです。
ほどなくして私たちの離婚は成立しました。夫は祖母の温情により、解雇こそ免れましたが、当然ながら「理事長の孫婿」というだけで得ていた周囲からの忖度は一切なくなりました。これまでサボっていた分のしわ寄せが一気に押し寄せ、周囲の目も厳しくなった職場環境に耐えられなくなった夫は、すぐに音を上げて自ら辞表を出したそう。
人間性に大きな問題があった元夫。医師としての腕はあるようなので、どこか別の場所で一から心を入れ替えて働いてくれることを願うばかりです。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。