バイトの先輩、だけれど…
アルバイト初日。厨房で店長に改めてあいさつすると、仕込み作業を手伝うように指示されました。ほかの従業員にもあいさつをしようとすると、ホールでは高校生くらいのきょうだいが掃除をしていました。
私が自己紹介すると、彼らは年齢を聞いて驚いた様子。「82歳なんですか!? うちのおじいちゃんより上かも」と目を丸くします。その後、高齢の私に不安でいっぱいのようで、「体、大丈夫ですか? 結構忙しいんですよ」ときつい口調で言われました。
少々ぶっきらぼうではありましたが、若い子特有の戸惑いもあるのだろうと思い、私は気に留めませんでした。ちょうどそのとき、店長が厨房から駆けつけてきたのです。
過去の経験
店長はきょうだいに向かって、「この方は昔から店に関わってきた大先輩なんだ。失礼のないように」と穏やかに注意。きょうだいは驚いた様子で、「すみません、知らなくて……」と頭を下げてくれました。
私は「間違いに気付いて謝れるのは立派なことだよ」と返し、ついでに自分のこれまでの歩みを簡単に話しました。
貧しい家庭で育った少年時代、中学卒業後にこの洋菓子店で修業を始めたこと。先代店長のもとで経験を積み、一人前のパティシエになれたこと。30歳のころ海外勤務の話が舞い込み、先代店長に背中を押されて渡米したこと。そして40歳で独立し、家族や仲間と店を切り盛りしてきたこと……。
「80歳を迎えて帰国することにしたのは、先代店長の訃報を聞いて、どうしてもお礼が言いたかったからなんだよ」と話すと、きょうだいは真剣なまなざしで耳を傾けてくれました。
恩返しを決意して
帰国後、現店長から「年末の繁忙期だけでも力を貸してほしい」と頼まれました。急にスタッフが辞めてしまい、忙しい時期を乗り切るために助けが必要だったとのこと。私も恩返しのつもりで快諾しました。
事情を知った高校生のきょうだいは、「最初、失礼な態度を取ってすみません」と改めて謝ってくれ、私も自然と笑顔になりました。
クリスマスイブの日。私はサンタクロースの衣装を着て店に立ちました。「さて、やりましょうか」と気合いを入れてクリスマスケーキの仕上げをすると、限定品はあっという間に完売。久しぶりの忙しさに体は疲れましたが、心はとても満たされました。
若き才能へのバトン
閉店後、私が「体が続くうちは、ここで働けたらうれしいな」と話すと、きょうだいは目を輝かせて言いました。
「僕たちにもケーキ作り、教えてもらえませんか?」
聞けば、家庭の事情でなかなかケーキを買えず、「いつか母に自分たちの手でおいしいケーキを作りたい」と思っていたのだとか。その気持ちに胸を打たれ、私は空いた時間にケーキ作りの基礎から丁寧に教えるようになりました。
クリームの立て方、スポンジの焼き具合、飾りつけの工夫——。2人は学校とアルバイトの合間を縫って一生懸命学び、少しずつ上達していきました。
「メリークリスマス!」
そして1年後のクリスマスイブ。きょうだいは、自分たちだけで母親へのクリスマスケーキを作り上げました。完成したケーキを見て、彼らは感激で目を潤ませていました。
翌日、「母がすごく喜んでくれました! 生まれて一番のクリスマスでした!」と報告に来てくれた2人の姿に、私も胸が熱くなりました。
「いつか、このお店でも自分たちのケーキを出せたら……」と語った彼らに、私は言いました。
「本気で続ける気があるなら、製菓学校に進む費用を私に手伝わせてくれないか?」
きょうだいは驚きながらも、「いつか調理師免許を取って、出世払いで必ずお返しします。だから、そのときまで元気でいてくださいね!」と感謝を伝えてくれました。
店内には、「メリークリスマス!」という声とともに、温かい空気が広がっていました。
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初めは少し失礼な態度を見せていた高校生の2人でしたが、事情を知って素直に反省し、前向きに変わってくれました。年齢を重ねた人には、その分だけ積み重ねてきた経験があります。若い世代が先輩から学び、敬意をもって接することで、より良い関係が築けるものなのですね。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
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