「できたてを出せ!」度を越したモラハラ発言と夫の勘違い
中でもひどかったのは食事でした。夫は突然、「もう作り置きのおかずは一切食べない。これからは俺の帰宅に合わせて、できたての料理だけを出せ」と言い出したのです。
さらに、「女は外で働く男のために必死に尽くすのが常識だ」「円満にいきたいなら、態度を改めてもっと俺を敬え」と、時代錯誤な亭主関白を気取り始めました。
実はこのころ、私はさらに好条件な企業への転職が決まったばかりでした。数年前の転職ですでに夫より年収が100万円ほど高くなっていましたが、新しい職場ではさらにその差が開く予定だったのです。
もちろん夫も私が「今の会社を辞めること」は知っていましたが、夫のプライドを考え、具体的な年収や次の転職先については詳しく伝えていませんでした。家計管理を私に丸投げしていたせいで、夫は自分の給料だけで今の生活が維持できていると、とんでもない勘違いをしていたのです。
「仕事を辞めて尽くすわ」夫の望みを逆手に取って…
私はこの傲慢な夫に現実を教えるため、ある計画を立てました。次の仕事が始まるまでの有休消化と準備期間で3カ月ほどゆっくり休もうと考えていたので、その期間を利用して夫には「次の仕事は探さず、あなたの望み通り専業主婦になるね」と嘘をついたのです。
夫は「それがいい。俺に尽くす時間が取れないなら、仕事なんて辞めちまえ」と勝ち誇ったように笑い、私の「退職」を歓迎しました。
この期間、私は夫の望み通りに動きました。帰宅時間に合わせてすべての料理を最高に近い状態で提供し、家の中はホテルのように整えました。夫は「これこそが理想の家庭だ」と、満足げに毎日を過ごしていました。しかし、夫の稼ぎだけの生活に、余裕を持てるはずがありませんでした。
突きつけられた現実に絶望する夫
仮の専業主婦になって2カ月が過ぎたころ、夫が「最近、おかずが少し質素じゃないか?たまには厚切りのステーキでも焼いてくれよ」と不満を漏らしました。私は待っていましたとばかりに、私がずっと管理していた家計簿と通帳を夫の前に広げました。
「ごめんなさい。あなたの給料は確かにこれだけあるけれど、ここから住宅ローン、車の維持費、光熱費、保険料……そして、あなたの毎月10万円近いお小遣いを引くと、手元にはほとんど残らないの」
夫は自分の給与明細の数字と、家計簿に並ぶ支払額を何度も見比べ、言葉を失っていました。夫は自分の給料を「十分な額」だと思っており、それが固定費と自分のぜいたくだけで右から左へ消えている自覚がまったくなかったのです。
今までステーキが食べられたのも、余裕のある生活ができていたのも、すべては私の給料で固定費の大部分をカバーしていたから。その事実を突きつけられ、夫はみるみる顔面蒼白になっていきました。
崩れ去った夫のプライド…私たちの選んだ道は?
「家事を全部私に丸投げして、人を見下して『俺を敬え』なんてよく言えるよね。今の生活を守ることすらできないのに、一体あなたのどこを敬えばいいの?」
そう伝えると、私はその場で、用意していた離婚届を差し出しました。夫は必死に謝罪し、「もう一度チャンスがほしい、これからは家事も分担する」と泣きついてきました。
必死にすがる夫を見て、離婚届はいったん預かったまま、私は夫に「今後一切家事を丸投げせず、対等に協力すること」を条件に、もう一度だけチャンスを与えることに。
それからの夫は、まさに別人のようでした。宣言通り家事に関わるようになったのですが、実際にキッチンに立ち、洗濯物を回し、部屋の隅々を掃除するようになると、これまでの自分がいかに自分本位だったかを痛感したようです。
「仕事さえしていればいい」と思っていた自分の甘さと、私が家計を支えながらこれほど膨大な家事を完璧にこなしていたこと。その大変さを身をもって理解した夫は、ある夜、改めて私に心からの謝罪をしてくれました。
「ごめん……。どれだけ君に甘えて、君を傷つけてきたか、ようやくわかった。本当に、今まで申し訳なかった」
夫はこれまでの傲慢な自分を恥じ、涙を流してこれからの人生を二人で歩んでいくことを誓ってくれました。
現在、私は新しい職場で以前よりもさらに高い収入を得て、生き生きと働いています。夫は今では、仕事から帰ると当たり前のように家事をこなし、私を気遣ってくれる最高のパートナーになりました。あのとき、勇気を出して「現実」を突きつけたことで、ようやく私たちは本当の意味で対等な夫婦になれたのだと感じています。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。