突然の「もう来ないで」
ある日のお昼すぎ、出かける支度を始めようとしたそのとき、スマホの通知音が鳴りました。義母からのLINEでした。
画面を開いた瞬間、私は固まりました。
「もう来ないで」
たったそれだけ。絵文字もなく、説明もなく、ただ突き放すような一言だけが表示されていたのです。
あまりの衝撃に、手に持っていたスマホを落としそうになりました。なんの前触れもない、こんなに強い言葉……。え、どうして?私、何か悪いことをしてしまったのだろうか……?
震える指で「どういうことですか?」と返信するのが精一杯でした。
すぐに既読がついたものの、義母からの返信は「いいから!」という短い一言だけ。まるで拒絶されているような、冷たい言葉……。私の不安はますます膨らんでいきました。
そもそもその日は、午前中に義母から「ネット注文ができなくて困ってるの。よかったら様子を見に来てくれないかしら」というLINEが届いていました。「もちろんです!午後に伺いますね」と返信し、私はまさにこれから義母の家に向かおうとしていたところだったのです。
それなのに突然の拒絶のひと言。何か怒らせてしまったのだろうかと、心臓がドキドキと早鐘を打ちました。
義母からの電話で判明した真相
それからすぐ、今度は義母から着信がありました。恐る恐る電話に出ると、義母の慌てた声が聞こえてきました。
「さっきの間違えちゃった!ごめんね、ごめんね!」
義母は息を切らしながら説明してくれました。どうやらパソコンの注文、自分でなんとか解決できたそうなのです。それで「わざわざ来てもらわなくて大丈夫になったから」という気遣いのメッセージを送ろうとしたとのこと。
「“今日来ないでいいから”って送りたかったの!それが“もう来ないで”になっちゃって……。なんか変な文章になっちゃってごめんね!」
“もううちには二度と来ないで”じゃなくて、“今日来なくても大丈夫になったから”という意味だったの……?
あの衝撃的な一言は、単なる誤字だったのです。「今日」が「もう」になり、「いいから」という気遣いの言葉も短すぎて、まさかの絶縁宣言のような文章になってしまったというわけです。
あまりの誤解に、私は思わずその場にへたり込みそうになりました。
「ビックリさせちゃったわよね!本当にごめんね」と照れ笑いしながら謝る義母の声に、もうすっかり元通りの優しい雰囲気を感じました。「スマホが苦手で、変なこと送っちゃって恥ずかしいわ」と恥ずかしそうにする義母に、私も思わず笑ってしまいました。
「大丈夫です、注文できてよかったですね!」と答えると、義母は「今度はゆっくり遊びに来てね」と優しく言ってくれました。
電話を切った後、夫にこの一部始終を話すと「おふくろらしいな」と笑っていました。たった数文字の違いで天国と地獄。誤字の恐ろしさを痛感しましたが、この一件で義母との距離が少し近くなったような気がします。今では「あの時は寿命が縮みました」と笑い合える、忘れられない思い出となりました。
※本記事は、編集部メンバーの知人が体験した実話です。編集部がヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。